桑田佳祐と安室奈美恵の特別枠出演が示す、『紅白歌合戦』の未来像

 一方で、未来へのベクトルを感じさせる流れがある。

 3年後のオリンピック・パラリンピックを意識した企画・演出(「AMBITIOUS JAPAN!」(2003年リリース)を歌うTOKIOは競技場の建設現場などを訪れ、「ノンフィクション」(2017年リリース)を歌う平井堅は義足のダンサー・大前光市と共演する)もそうだが、ほかにもたとえば“変貌する東京”と連動した楽曲や趣向がある。

 椎名林檎とトータス松本は、今回紅組白組の枠を超えてデュエットで「目抜き通り」を披露する。この楽曲は、今年4月銀座にオープンした大型商業施設「GINZA SIX」のテーマ曲として制作されたものだ。

 また渋谷も現在大規模な再開発が進んでいるが、今年のオープニングは、最新技術を駆使して出演者が次々と「スクランブル交差点」や「センター街」など渋谷の街に現れるスペシャル映像からスタートする。Perfume「TOKYO GIRL」(2017年リリース)のパフォーマンスも渋谷の街中から中継される予定だ。

 もう一方で、「昭和」を振り返る流れもある。

 それは、紅組のトリが石川さゆり「津軽海峡冬景色」(1977年リリース)であることに端的に表れている。石川がまもなくデビュー45周年、そして作詞をした阿久悠が今年で没後10年という節目の年ということもある。ただそこには「昭和」への思いも同時に含まれているだろう。市川由紀乃が美空ひばりの「人生一路」(1970年リリース)、福田こうへいが村田英雄の「王将」(1961年リリース)を歌い、白組司会・二宮和也の特別企画では橋幸夫と吉永小百合のデュエットで有名な「いつでも夢を」(1962年リリース)を出場歌手全員で歌うなど、「昭和」の名曲が随所で登場するのも同様だ。

 さらにその流れを強く感じるのは、桑田佳祐の特別出演が決まったからでもある。ソロとしては二回目の出場だが、今年歌うのは「若い広場」(2017年リリース)。NHKの朝の連続テレビ小説『ひよっこ』の主題歌である。『紅白』本番当日は、特別企画「ひよっこ 紅白特別編」が放送されることも発表されている。

 高度経済成長期の日本を舞台にした『ひよっこ』は、ある意味異色の朝ドラだった。朝ドラの主人公は、功成り名遂げた女性をモデルにすることが多い。それに対し、『ひよっこ』の主人公、今回紅組の司会も務める有村架純が演じた女性は、偉人ではなく昭和の市井に生きた無名の人々のひとりである。彼女はイコール、『紅白』を毎年楽しみに見た人々、1963年の「81.4%」という視聴率を生み出した人々のひとりであったに違いない。

 こうして、過去と未来が交錯する「変わりゆく日本」の姿がある。そしてそれは同時に「変わりゆく紅白」の姿でもあるだろう。

 たとえば、今年の安室奈美恵と桑田佳祐もそうだが、最近の『紅白』では特別枠の出場も増えてきた。また先ほどふれた椎名林檎とトータス松本のような組の違いを超えたコラボも珍しいものではなくなってきている。その意味では、番組の基本である男女対抗形式も時代の変化とともに再考されるときが来るかもしれない。

 これまでの『紅白』のどの部分をどのように継承し、そこにどのような新しいものを加味していくのか? すでに発表された曲目(http://www.nhk.or.jp/kouhaku/artist/)、そしてそれを歌う歌手のパフォーマンスを楽しみにしつつ、今年は未来の『紅白』への模索が始まる年になるのではないかという気がしている。

※2017年12月28日時点での情報をもとにしています。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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