U2が『Songs Of Experience』に込めたメッセージーー歌詞やライナーから小野島大が紐解く

 アルバムの最大の聞き所が、ケンドリック・ラマーが参加した「Get Out of Your Own Way」から「American Soul」のメドレーであることは間違いない。<僕が手助けしてもいいが、これは君の闘いだ/自分で自分の行く手を阻むな><僕はアメリカン・ソウルを探しにここにやってきた>と歌われるこれらの歌は、間違いなくU2が2017年の今を戦う音楽であり、ケンドリックとの共闘によって勝ち取った時代のリアルが逞しく息づいている。

 だが僕がもっとも感動したのは、ボノがちょっとおどけたようにフェイクなロック・スターを演じ、どことなくしゃれのめした余裕を感じさせるユーモアたっぷりのロックンロールを聴かせる「The Showman (Littel More Better)」だった。

<僕は生活のために嘘をつく/虚勢を張るのが大好きなのさ/だけど君が一緒に口ずさんでくれると/それが真実になるんだよ>

 音楽はオーディエンスの耳に、心に届き響いた時にこそ意味を持つ。アーティストの手を離れ、聞き手のものになった時にこそ、曲は生命を得る。聞き手それぞれの人生や経験や生活や感情と一体化した時にこそ、その歌のリアルが現れる。そこではもはやアーティストは脇役、狂言回しでしかない。

 だから『Songs Of Experience』の世界は、アルバムの中では完結しない。その(音楽的/文学的/社会的)メッセージが聞き手に届き、発酵し、聞き手の思いと共鳴することで、初めてそれは完結する。その運動はいつまでも終わることがない。U2の「欲望」とは、常にオーディエンスと繋がることだけに費やされてきた。これから先もそうだろう。アーティストとオーディエンスの思いの共有の場であるライブが、U2の音楽表現の究極の完成であることは間違いない。来年5月からスタートするというワールドツアーの予定に日本が組み込まれることを熱烈に待ちたい。

 文中の【】内の文章は『Songs Of Experience』所収のボノのライナーより引用した。<>で括った歌詞の対訳はライナー同様、今井スミ氏による。本作はSpotify、Apple Music等のストリーミング・サービスで聴くことができるが、歌詞対訳とボノのライナー(かなり長い)の全訳が掲載された日本盤CDの購入を強くお勧めする。

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter

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