西廣智一『日本ヘヴィメタル/ラウドロック今昔物語』第7回「ガールズHR/HMの30年史」

浜田麻里からLOVEBITESまでーーガールズHR/HM、波乱万丈の30年史

LOVEBITES『AWAKENING FROM ABYSS』

 そんな国内ガールズHR/HMシーンで今、もっとも注目すべき存在が今年5月にメジャーデビューしたばかりのLOVEBITESだ。asami(Vo)、midori(Gt)、mi-ya(Gt, Key)、miho(Ba)、haruna(Dr)の5人からなるLOVEBITESは2015年に結成されたばかりの若手だが、それぞれに別のバンドで活動していたというキャリアを持つ。特に、mihoを中心に結成されたこのバンドの強みは、生粋のヘヴィメタルバンドであるということ。「何を当たり前のこと言ってるんだ?」と思われるかもしれないが、特に2000年以降のガールズHR/HMバンドに多いのがヴィジュアル系経由で現在のバンドにたどり着いたケースが多く、そういった意味ではLOVEBITESのような“HR/HM純血種”は今の時代、稀だったりするのだ。

LOVEBITES - Don't Bite The Dust [MUSIC VIDEO (with English lyric subtitles)]

 また、ボーカルのasamiに関してはもともとHR/HMとはかけ離れた、ソウルやR&Bなどを歌ってきたという経緯があり、VAMPSやUVERworldをはじめとする有名アーティストの作品やライブにコーラスとして参加してきた経験を持つ。そういった異色のシンガーが英語詞、ストレートなヘヴィメタルを歌うことで、ほかのHR/HMバンドにはない“深み”が加わったのも事実だ。

 10月25日にリリースされたばかりの1stフルアルバム『AWAKENING FROM ABYSS』は、デビュー作『THE LOVEBITES EP』で提示した“古き良き時代の王道HR/HMに現代的なエッセンスを加えたサウンド”をより極め、さらに新たな可能性をところどころに散りばめた、とても1sアルバムとは思えない完成度の高さを見せている。実は『THE LOVEBITES EP』リリース時、とある音専誌のレビューに「現時点で国籍やキャリアの長短を感じさせない強烈な説得力が備わっていることに驚かされる。Iron Maidenばりのパワーメタルや初期スラッシュメタル、ドラマチックな北欧メタルなどさまざまな要素が散りばめられたそのサウンドに、唯一無二の個性が加われば一気に飛び抜けるはず」と書き残していたが、その個性が早くも確立されつつあるのだから驚きだ。

 この進化の裏には、8月に正式加入したmi-yaの存在がある。『THE LOVEBITES EP』ではサポートメンバーとしてサウンド面でバンドを支えた彼女だが、『AWAKENING FROM ABYSS』ではリードトラック「Shadowmaker」をはじめ全12曲中5曲の作曲、6曲のアレンジを担当。その非凡な才能を発揮させている。mi-yaという大きな武器を手にしたLOVEBITESは、間違いなくこの先さらに大きな進化を遂げることだろう。

LOVEBITES / Shadowmaker [MUSIC VIDEO (90 sec. version)]

 先人たちが築き上げた国内ガールズHR/HMシーンという枠を飛び越えて、純粋に1組の“ジャパニーズHR/HMバンド”として歩み始めたLOVEBITES。アルバムは11月6日付けオリコン週間アルバムランキングで初登場18位という好記録を残しており、11月17日からは東京・TSUTAYA O-WESTを皮切りに初の単独ツアー『AWAKENING FROM ABYSS TOUR 2017』も控えている。さらに、『AWAKENING FROM ABYSS』のヨーロッパおよび北米、メキシコでのリリースも決まり、11月下旬にはロンドンで初の海外公演も予定。NightwishやChildren Of Bodom、Amorphisなどを手がけたエンジニアチームが携わった『AWAKENING FROM ABYSS』は間違いなく、海外でも高く評価されるはずだ。近い将来世界をまたにかけて活躍するであろう国産ヘヴィメタルバンドの動向を、ぜひこれからも見逃さないでほしい。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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