ガンズ・アンド・ローゼズに感じた“成熟” BABYMETALも健闘の日本ツアー最終公演を観て
1月29日、さいたまスーパーアリーナへ行ってきた。Guns N' Rosesの日本ツアー最終公演である。この日はサポートアクトとしてBABYMETALが出演したが、チケットを買った段階ではまだそのことは告知されていなかった。だから、私の行く日が、MAN WITH A MISSIONのサポートアクト担当日になっていた可能性もあった。このことは、多くの観客が同様だったと思う。
ガンズといえば、かつてはボーカルのアクセル・ローゼズの傍若無人な行動で悪名を轟かせたバンドであり、ライブの開演が遅れがちなことで知られる。延々と客が待たされることは珍しくないし、その我がままぶりが彼らの芸風として認知されている。この点は、X JAPANの受け入れられかたに近い。したがって、ガンズのファンからすると、サポートアクトが時間をとったうえにさらに待たされるのはきついという感覚があったはずだ。
そして、キャラクターがやんちゃなバンドのファンにありがちなことだが、飲酒している客がけっこういる。2007年の前回のガンズ来日公演では、サポートで登場したMUCCが、やじられるのを幕張メッセで目撃した。だから、BABYMETALの場合はどうなるだろうか、と思った。
自己紹介ソング「BABYMETAL DEATH」で始まった彼女たちのステージは、同曲終了後、神バンドの演奏をひとしきり聴かせる場面を設けた。バンド・メンバーの力量の確かさを見せて、ガンズ・ファンを納得させようとする展開である。その演奏から雪崩れこんだ「あわだまフィーバー」は、当日のBABYMETALのセットリストのなかではアイドル歌謡的な詞を持った曲であり、ガンズからは遠い世界観である。会場は微妙な空気になった。アウェイというほどではないが、様子見、高みの見物といった具合だ。
しかし、少女3人は、「メギツネ」、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」などBABYMETAL流のメタルを臆することなく、堂々とパフォーマンスした。SU-METALが「KARATE」で会場に合唱するよう呼びかけたほか、手拍子を求めたり、ラストで次にガンズが登場することを告げるなどしたが、すべて英語だった。彼女たちのふだんの日本公演であれば、MOAMETAL、YUIMETALが観客に対し「聞こえないよぉ」、「もっと、もっとー」と日本語で呼びかけるところだが、それはなし。つまり、BABYMETALは英語しか発せず、海外から来日したグループであるかのように振る舞ったのだ。それは彼女たちが各国でライブ経験を積み、自信を身に着けたことを印象づけるものだった。そうすることでBABYMETALはガンズの登場前という難しい場面に対応し、よく健闘していたと思う。
30分強だったBABYMETALのステージが終わってからガンズが登場するまでは1時間ほどだった。BABYMETALの登場前にもガンズの登場前にも場内にはQueen(アクセルがファンだったりする)の曲が流されていて、同じ曲を2回聴くくらい時間が過ぎた。お行儀がよい律儀なバンドであれば、オープニングアクト終了後30分程度で出てくるだろう。だが、1時間ならばガンズにしては上出来な早さである。デビュー作『Appetite for Destruction』の収録曲「It's So Easy」からスタートした彼らのライブは、2時間50分にも及ぶ長いものだった。
1980年代後半から1990年代にかけて絶大な人気を獲得したガンズだが、「マザーファッカー」という言葉を連発していたアクセルの「俺様」ぶりが災いしたのだろう。オリジナル・メンバーは、次々にバンドを去っていった。前回の来日は、彼以外は全取っ替えとなり、それでもバンドにテクニシャンを集めていたから、上手にこなしていたことを覚えている。また、バンドを脱退したギターのスラッシュが、2010年のサマーソニックにソロで出演し、別のボーカリストを起用してガンズの曲を弾くのも観た。アクセルのみのガンズも、スラッシュのソロも、自分がガンズの曲を演奏する正当性を主張しているようで、なにやらギラギラしていて力んでいる印象があった。
それに比べ、今回のガンズのツアーは、オリジナル・メンバーであるスラッシュ、ベースのダフ・マッケイガンが復帰し、アクセルを含め旧友3名が久しぶりに顔を揃えている。ダフは往年のイメージを崩さない体形を保っているが、アクセルとスラッシュは年齢相応にふとめになったのは否めない。なにかと苛立った気分をあからさまにしていた若い頃とは違い、ステージでの今の彼らは落ち着きをみせるようになった。互いが分かれて活動していた頃の力みとは違って、ある種のリラックス・ムードがうかがわれる。ファンのほうも年齢層が上がったことを踏まえてなのか、アリーナに設けられたスタンディングのスペースは前方の一部に限られ、椅子席が多く用意されていた。メンバーもファンも大人になったのだ。
ライブでは、「Chinese Democracy」など、スラッシュやダフの脱退後に作られた曲も演奏されるとともに、もちろん、「Welcome to the Jungle」、「Rocket Queen」、本編最後の「Night Train」、アンコールを締めくくった「Paradise City」など、往年のハード・ロック・ナンバーが中心となった。
そうしてパワフルな演奏をする一方で、映画『ゴッドファーザー』の「愛のテーマ」、Pink Floyd「炎〜あなたがここにいてほしい Wish You Were Here」、The Rolling Stones「悲しみのアンジー Angie」といったバラードの有名曲がギター・インストの形でカバーされて時おり挿入される。以前から、激しさばかりでなくセンチメンタルな側面もこのバンドの持ち味だった。本編終盤ではアクセルがピアノを弾く「November Rain」、ボブ・ディランのカバー「Knockin' on Heaven's Door」、アンコールではアコースティックなアレンジで口笛から始まる「Patience」というガンズのセンチメンタルな面を代表する曲が演奏された。ライブにおいて、バラードがより聴かせるものになっているあたりに、彼らの成熟が感じられた。