星野源の“遊び”は新しいレベルに突入した 「Family Song」完成までのトライを追う

星野源「Family Song」完成までのトライを追う

 半ば伝説化している、TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』に匿名で応募した(そして優勝をかっさらった)ジングルにしても同じことがいえるでしょう。星野さんがあのジングルを制作したのはおそらく2011年の秋ごろだと思いますが、彼のディスコグラフィにあてはめてみればよくわかるように、あれは「ステップ」(アルバム『エピソード』収録/2011年9月)と「もしも」(シングル『フィルム』収録/2012年2月)~「ダスト」(シングル『ギャグ』収録/2013年5月)をつなぐ楽曲であり、いまにして思えば「ディアンジェロ歌謡」の決定打「Snow Men」(『YELLOW DANCER』収録)の完成に向けての大切なプロセスだったのです。

 要するに、星野さんにとっての「遊ぶ」は言葉通りの意味とはちょっとちがっていて、どちらかというと「チャレンジ」や「トライ」に近いニュアンスがあるということです。そんな星野さんの直近の大きな「遊び」としては、ギャラクシー賞を受賞した生放送の音楽番組『おげんさんといっしょ』(NHK総合にて今年5月4日放送)がありました。

「こないだ藤井隆さんに『オールナイトニッポン』に出ていただいたんですけど、そのとき藤井さんが『おげんさん』を振り返って“めちゃくちゃ怖かった”って話していたんですよ。ああいうことをやるのって、いまのテレビのなかでは本当に危険なことで。『おげんさん』は実はすごく過激なことをやっていて、出演者のみんなはそれを肌ですごく感じているわけです。でも、決してそうは見せないのが自分にとっての“遊び”というか。そういうことをやった番組がギャラクシー賞をもらえたのはすごく達成感がありましたね。アイデアもめちゃくちゃ遊びながら考えたんですけど、それを実現するのにはスタッフの皆さんの努力と出演者のみんなの度胸が必要不可欠で。だから“遊ぶ=命がけ”みたいなところはありますね。日村さんの曲にしても本当に命がけでつくっているんですよ(笑)。“遊ぶ”という言葉のなかにはそういう意味合いも入ってますね」

 星野さんのミュージシャンシップみたいなものは、この“遊ぶ”という言葉に強く反映されているのではないでしょうか。そして、冒頭で触れた「“ブラックミュージックを自分の音楽と融合し、イエローな音楽に変換する”という実験」がシングルのカップリング曲という裏舞台で継続的に行なわれていたことからもわかるように、星野さんの未来はメインステージから一歩離れた“遊び”に示唆されていることが多々あります。

 そういった意味で個人的にいまいちばん気になっている星野さんの“遊び”は、「プリンスの初期みたいな曲をふざけてやりたい」という思いつきを実行に移した『Family Song』のカップリング曲「プリン」。それから、tofubeatsさんと一緒につくった『オールナイトニッポン』のラップジングル。この2作品での試みは近い将来なんらかのかたちで発展がありそうな、そんな予感がしています。

 こんなふうに締めくくると身も蓋もありませんが、結論としては星野源の一挙手一投足を見逃すな、ということになるのかもしれません。その理由は先ほどの日村さんのバースデーソングやシングルのカップリング曲の話を例に出すまでもなく、星野さんが点と点を線につなげて見せていくのがとてもうまいアーティストであること、つまり音楽も含めたすべての表現活動をひとつのドキュメントとして見せていくのに非常に意識的であることがまずひとつ。そしてもうひとつは、“遊ぶ=命がけ”という発言から浮かびあがってくるように、彼は基本的にすべての打席で場外ホームランを狙っているような男だから、です。スイングのひと振りひと振りを見届ける価値、十分にあると思います。

■高橋芳朗
1969年生まれ。東京都港区出身。ヒップホップ誌『blast』の編集を経て、2002年からフリーの音楽ジャーナリストに。Eminem、JAY-Z、カニエ・ウェスト、Beastie Boysらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンや星野源などライナーノーツも多数執筆。共著に『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』や 『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』など。2011年からは活動の場をラジオに広げ、『高橋芳朗 HAPPY SAD』『高橋芳朗 星影JUKEBOX』『ザ・トップ5』(すべてTBSラジオ)などでパーソナリティーを担当。現在はTBSラジオの昼ワイド『ジェーン・スー 生活は踊る』の選曲も手掛けている。

 星野源『Family Song』ロングインタビュー特集

・第1回:星野源、「Family Song」で向き合った新たな家族観「“これからの歌”をまたつくりたいと思った」
・第2回:星野源が語る、J-POPとソウルミュージックの融合「やってみたかったことが見事に合致した」
・第3回:星野源が示す、これからのスタンダード「過去からつながった“いま”の最先端として表現したかった」

『Family Song』

■リリース情報
『Family Song』
発売:2017年8月16日(水)
【初回限定盤(CD+DVD、スリーブケース仕様)】¥1,800(税抜)
【通常盤(CD)】¥1,200(税抜)
<CD 収録内容(初回限定盤・通常盤 共通)>
01. Family Song ※日本テレビ系 水曜ドラマ『過保護のカホコ』主題歌
02. 肌 ※花王ビオレuボディウォッシュCMソング
03. プリン
04. KIDS (House ver.)

<初回限定盤収録DVD>
DVD『Home Video』
・新春Live『YELLOW PACIFIC』厳選ライブ映像
Voice Drama
ワークソング
Snow Men
口づけ

一流芸能人からの新年のメッセージ
Continues
時よ
・「プリン」Recording Documentary
星野源と友人によるコメンタリー付

■配信情報
iTunes Store 
レコチョク
mora

■ライブ情報
『星野源 LIVE TOUR 2017『Continues』』
8月25日(金)日本ガイシホール(名古屋)
8月26日(土)日本ガイシホール(名古屋)
9月9日(土)さいたまスーパーアリーナ
9月10日(日)さいたまスーパーアリーナ
ツアー特設サイト

『Family Song』特設サイト
オフィシャルサイト

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