裏方に徹さず表に出る場所を作るべき? Void_Chords 高橋諒と考える“音楽作家の在り方”

「Void_Chordsの曲だけはベースを最後に入れている」

ーーちなみに、ボーカルにMARUさんを起用した理由は?

高橋:候補の方の声を色々と聴かせていただいたんですけど、デジロックっぽいものという方向性が決まったときから、テンションの高いオケにも負けないボーカルが欲しかったんです。楽器がケンカしていても、そこを更に強い力で薙ぎ払うタイプの声というか。そのコンセプトにハマったのがMARUさんの声でした。

ーーカップリングの「Drive My Fate」はアシッドジャズっぽい音像で、MARUさんのソウルフルな声が活きている印象です。

高橋:これは結果として、という感じですね。MARUさんだからこうしようというわけではなく、最初にエンディングテーマの「A Page of My Story」を書いて、スタッフさんと「これと同じメロディでカップリングを作ったら面白いんじゃない?」という話になり、元々あったメロディをヒップホップ風にしたら面白くて。Sweetboxみたいな感じがしたんですよ。構造がR&Bっぽい感じになってきて、ワンコードの上に載せるよりはスリリングなテンション感のほうがメロディの性質としては合ったので、それを踏まえて音を付けていったらジャジーな方向が強くなって、MARUさんの声を乗せたらアシッドジャズになったんです。

ーーでは、その元となった「A Page of My Story」はどのようなテーマで制作を?

高橋:暴力的なオープニングとシリアスな本編があって、エンディングはその30分から見ている人を現実に戻すというニュアンスです。同時に、もうちょっとブリティッシュロックーーThe Beatlesっぽい感じが曇り空の雰囲気を演出できるかもと考えて作っていきました。歌詞の内容はスパイの5人の「女子高生」である日常を描いている感じです。さっき「現実に引き戻す」と話したんですが、ある意味そのギャップが狂気的な何かに聴こえるというか。虚無感があるように思えるし、回によっては放心状態になるんだなと、放送を見て思いました。曲単体では可愛いんですけど。

ーーONE III NOTESやVoid_Chordsの曲を聴いて思ったんですけど、高橋さんが前面に出たプロジェクトはベーシストとしてのエゴを感じるというか。ベースが前に出ているし、割と自由に引き倒しているように聴こえます。

高橋:全力でエゴを出させていただいてますね(笑)。ベースの役割って、アレンジ論としては基本的に歌を支えるというのが定石なんですが、その枠を外したところにも面白さを感じていて。自分の名前で出す曲なら、やりすぎても良いだろうと。

ーー「The Other Side of the Wall」でも、ベースが推進力の核になっていると感じます。普段の作家仕事と制作手順を変えたりしているのかなと思ったのですが。

高橋:止まっているところがほとんど無いですよね。ツインベースにしている箇所もありますし。作り方に関しては、確かにVoid_Chordsの曲だけはベースを最後に入れています。普通の作家仕事ならあり得ない手順なんですけど、ベースを入れないまま曲を書いて、最後の最後に隙間を埋めるどころか上書きするくらい弾きまくりますね。チェロのラインを元々入れていた場所も、ベースが入って衝突するので落としたりもします。最初から打ち込みで動きのないシンセベースを入れちゃうと、後から直そうにもその枠から抜けきれないんですよ。だから、むしろ入れないで後回しにしました。それはカップリングの「Drive My Fate」も同じです。

ーーそれは現在のVoid_Chordsらしさを定義するうえで重要な要素かもしれないですね。トラックメイカーが自分だけのキックの音を作って、その人を表すスタンプになる感じというか。

高橋:まあ、これも次作では変わるかもしれませんが(笑)。

ーー(笑)。歌詞は全部英詞ですが、これは「Void_Chordsだから」そうしているということですか?

高橋:今回はアニメ側のスタッフからもオーダーがあったのですが、僕個人としても自分の音には英詞が合っているとは思います。メロディが英語ノリのほうが良いし、日本語詞を書く時でもまずはデタラメ英語とかハナモゲラ語で、リズム感を優先して作ることが多いので。もちろん、英詞風で作って日本語詞に直すことで生まれる面白さもあるんですけどね。

ーーしかし、アニソンでオープニングとエンディングが英語って、すごい決断ですよね。

高橋:ほんと、作品に恵まれていると思います。

ーー今回のVoid_Chordsもそうですが、ここ数年、クリエイターの方がプロジェクトを立ち上げる、もしくはチームを組んで前に出ることが多くなっているような気がします。

高橋:そうですね。僕はそれをアニメの仕事を通じて実感しているところです。アニメ界隈のほうが作家を大事にしてくれるというか。何かしらのリリース情報でも、作編曲は誰がやっているかアナウンスされて、それによってファンの方も喜んでくれるし、作曲家で曲を聴いているリスナーさんもここまでいるんだと驚きました。自分の作家性について考えるきっかけにもなりましたし。J-POPにはアーティストとして前に出ている人以外は全員裏方という意識で臨んでいたので。

ーーそのようにアニメとJ-POPでの垣根を感じることはやはり多いですか。

高橋:いえ、アニメの仕事をやる前のほうが、そういう隔たりを考えていたと思います。方法論として全然別のものだと思っていたというか、そこにはそこの様式美があるのかなと。でも、実際やらせていただくようになってからは、作品の世界観を汲み取ることの重要性がわかったというか、ジャンル毎のルールではなく作品毎に変わるんだなと思いました。

ーー今後のVoid_Chordsは、コンセプトとして特定ジャンルの旗印を掲げるより、色んな音楽に挑戦することを核としていきそうですね。

高橋:何か一つのスタイルにこだわることはなさそうです。エッジの効いたものが好きですし、いまはレトロスペクティブなものがいいのかもしれないと思っていたり。温故知新な部分もありつつ、一番尖っている感じを出すチャンネルとして、確立できればいいかなと考えています。

ーー確かに、いわゆるゼロ年代・テン年代のアニソン的なものというよりは、スタンダードなジャンルの掛け合わせを重視しているような音楽性です。

高橋:それも結果論で、古い音楽を再解釈するのが合う作品と組むことが続いただけで、次作はもしかしたら展開がガンガン変わるものや3コードのものを作っているかもしれないですよ(笑)。

ーーそう考えると、Void_Chordsも何年か経つとバランスのよいディスコグラフィーになっているかもしれません。

高橋:作品ありきの部分が大きいので、コンピレーション的に色んな楽曲があってもいいと思っています。そのなかで尖っているというか、奇をてらうというか、「おっ!」と感じてもらえるものを集めていきたいです。そうじゃないと、尖っているところを出そうとした時に、音楽表現で裏方っぽくなっちゃうと突き抜けきれませんから。もちろん、作家さんの中には裏方に回りながらとんでもないものを作れる人もいると思うんですけど、僕はなんというか、与えられた服をちゃんと着てしまうタイプなので、自分で看板を立てるほうがエッジを効かせることができるので、今後もVoid_Chordsを軸としながら、作家仕事も含めて色んなチャンネルで多種多様な音楽を届けていきたいです。

(取材・文=中村拓海/撮影=はぎひさこ)

■リリース情報
TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』OPテーマ
『The Other Side of the Wall』Void_Chords feat.MARU
発売中
価格:¥1,200+税
<収録内容>
1.The Other Side of the Wall
2.Drive My Fate
3.The Other Side of the Wall (Instrumental)
4.Drive My Fate (Instrumental)

TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』EDテーマ
『A Page of My Story』アンジェ(CV.今村彩夏), プリンセス(CV.関根明良), ドロシー(CV.大地 葉), ベアトリス(CV.影山 灯), ちせ(CV.古木のぞみ)
発売中
価格:¥1,200+税

<収録内容>
1.A Page of My Story
作詞:Konnie Aoki 作曲・編曲:高橋 諒
2.Shoot Your Heart Out!
作詞:Konnie Aoki 作曲・編曲:高橋 諒
3.A Page of My Story(Instrumental)
4.Shoot Your Heart Out!(Instrumental)

TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』キャラクターソングミニアルバム
「5 Moving Shadows」アンジェ(CV.今村彩夏), プリンセス(CV.関根明良), ドロシー(CV.大地 葉), ベアトリス(CV.影山 灯), ちせ(CV.古木のぞみ)
発売:2017年8月30日(水)
価格:¥2,300+税

<収録内容>
1.Take Me Up Higher
作詞:Konnie Aoki 作曲:高橋 諒 編曲:高橋 諒 歌:アンジェ(cv.今村彩夏)
2.Under the Moonlight
作詞:Konnie Aoki 作曲:高橋 諒 編曲:村山☆潤 歌:ドロシー(cv.大地 葉)
3.閃光刀歌
作詞:Konnie Aoki 作曲:高橋 諒 編曲:藤田宜久 歌:ちせ(cv.古木のぞみ)
4.リトルブレイバー
作詞:Konnie Aoki 作曲:高橋 諒 編曲:酒井陽一 歌:ベアトリス(cv.影山 灯)
5.Into the Sky
作詞:Konnie Aoki 作曲:高橋 諒 編曲:福富雅之 歌:プリンセス(cv.関根明良)

TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』オリジナルサウンドトラック
「オリジナルサウンドトラック」梶浦由記
発売:2017年9月27日(水)
価格:¥3,300+税

関連記事