(K)NoW_NAMEメンバー&プロデューサーが語る、「アニメに寄り添う音楽」をチームで作る理由

(K)NoW_NAMEの考える「アニメに寄り添う音楽」

 映像作品の音楽を総合的に手掛けるクリエイティブ・ユニット、(K)NoW_NAME。TVアニメ『灰と幻想のグリムガル』で、音楽の総合プロデュースを手掛けることになったのを契機に始動したこのユニットは、R・O・N、Makoto Miyazaki、Shuhei Mutsuki、Kohei by SIMONSAYZ、eNu、Genki Mizunoといった一線級の作家陣と、Ayaka Tachibana、NIKIIE、AIJという強い個性をもったボーカリスト、イラストレーターのso-binによるものだ。彼らは今期、『花咲くいろは』『SHIROBAKO』といったヒット作を叩き出しているP.A.WORKSによる“お仕事シリーズアニメ”第三弾の『サクラクエスト』で音楽を総合プロデュースしている。

 リアルサウンドでは今回、メンバーのMakoto Miyazaki、Ayaka Tachibana、NIKIIEの3人に加え、東宝株式会社の映像本部・映像事業部・アニメ制作チームでプロデューサーを務める齋藤雅哉氏、同会社で<TOHO animation RECORDS>運営&チームリーダーを務める三上政高氏がインタビューに登場。結成の経緯やユニットでアニメ音楽をプロデュースすることの利点、各メンバーがプロジェクトを通じて感じた成長などについて、大いに語り合ってもらった。(編集部)

「ソロ名義は自己表現に近くて、(K)NoW_NAMEでは自分を演じる」(NIKIIE)

ーー(K)NoW_NAMEはもともと個々のメンバーがソロや作家で活躍している方々の集合体ですが、どうしてこのように音楽集団として活動することになったのでしょうか?

齋藤雅哉(以下、齋藤):東宝株式会社のなかに音楽レーベル<TOHO animation RECORDS>がありまして、キャラソンを作ったり、インディーズで活動しているアーティストさんにタイアップとして曲を歌ってもらうということがほとんどだったんです。僕は元々レコード会社に居たんですけど、作品のための主題歌や劇伴、挿入歌をジャンル問わず作れるアーティストがいたらいいなと思っていまして。

ーー作家的に活動するアーティスト、ということですか?

齋藤:いえ、アニメのタイアップって、アーティストの作る楽曲の世界観の中に、アニメ作品の要素が少し加わりますが、あくまでアーティストご本人の内側から発信される楽曲だと思っていまして。純粋にそのアニメの為だけの音楽を制作する集団が作りたかったんです。そこで三上とも話をして、VERY GOO((K)NoW_NAMEのクリエイター陣が所属する事務所)さんとも相談し、ジャンル問わず色んな曲を作れる作家陣を集めていただきました。そしてどんなジャンルも歌えるボーカリストをオーディションで集め、そこにその世界観をクリエイティブで表現するイラストレーターも加えた、というのが結成のきっかけです。

ーー音楽だけではなく、イラストレーターもユニットのメンバーとしたのはなぜでしょう。

齋藤:当初はこんな風に取材を受ける予定もなかったので(笑)、クリエイティブだけで勝負しようと思っていました。ですので、ビジュアルも固定のイラストレーターが描くようにして、何も語らずとも(K)NoW_NAME=クリエイティブ・ユニットというイメージを記号化して強めたかったんです。

ーーメンバーの皆さんはこのプロジェクトに誘われたとき、どういう印象を抱いていたのでしょうか。

NIKIIE:一番最初にお話を頂いて、作品に寄り添うものを作っていくというのはすごく純粋なことだと感じましたし、話していただいた内容が情熱的で。こちらもそれに誠意をもって応えたいと思いました。私個人としても、ソロ活動でアニメ作品の楽曲を歌わせていただくこともあったんですが、どちらかというと寄り添うというよりは自分が持っている世界観で合う部分をマッチさせるというものが多かったんです。そんななかで、作品が元々あって、そこに合う音楽を表現していくという(K)NoW_NAMEのやり方はすごく面白そうだと感じました。

Ayaka Tachibana(以下、Tachibana)::私は元々アニメが好きで、流れている音楽を訊きながら「私だったらこんな曲が良いと思うなー」と思ったりしていて。実際こういうお話をいただいて、アニメの楽曲にイチから参加させていただけるというのを聞いて、やりたいな! と強く感じました。

Makoto Miyazaki(以下、Miyazaki):基本的にメインで音を作っているのは僕とR・O・Nと睦月なんですけど、RONとは15年以上の付き合いで一緒にバンドをやっていたこともあって、すごく信頼できるクリエイターなんです。僕には無いものをいっぱい持っている。睦月は若いのに一番有望株というか、僕が怖くなるくらいの才能をもったクリエイター。一緒に何か相談して作ったりはしていないんですが、ゆくゆくはそうしていけたら面白いなと思いましたね。

ーーなるほど。宮崎さんは、普段個人名義の作家仕事と(K)NoW_NAMEでのやり方で、意識して分けているポイントはありますか?

Miyazaki:僕は前回、劇伴は担当せず、挿入歌だけを作ったのですが、今回劇伴をやってみて、映像監督や音響監督に対しては普段と変わらないスタンスだったと思います。ただ、OPやED、カップリングや挿入歌は、ご本人を前にして言うのもアレですが、本当に素晴らしいボーカリストの方々が揃ったので、個人でやっているときとは違う感覚を味わえて楽しいですね。ユニットとして一緒にやっているとキーのレンジも分かってくるし、作品に合わせて作る時に、美味しくないキーを使わなきゃいけないときもある程度調整できますし。

ーー作家として都度アーティストと接するのではなく、ユニットになることでより自分のプロジェクトという感じが強くなります?

Miyazaki:いや、むしろ個人名義より協調性を意識してやっているような気がしますね。自分が自分がというより、作品があってボーカリストが居てという環境ですから。

NIKIIE:「協調性」という言葉を聞いて「確かに」と思いました(笑)。自分のソロ名義は自己表現に近くて、(K)NoW_NAMEでは自分を演じるというか。楽曲が流れるシーンやイメージするキャラクターにも寄り添っていくので、丸裸にして出すというよりは、俯瞰して映像を邪魔せず、キャラクターたちの心情やシーンに合ったものを意識します。

Tachibana:私も演じている感覚に近いですね。自分から出た感情ではないものを表現したり、自分では考えられない歌詞や楽曲を演じるぶん、普段の自分とは違った表現方法を意識しています。

ーーその“演じること”が個人の活動にフィードバックされているという手応えはありますか?

NIKIIE:どちらかというと、ある意味(K)NoW_NAMEの場合はちゃんと四角形の枠組みがあって、そのなかで自分が持っている感情や思いの使い方、声色を使い分けるんですね。で、自分のソロ活動に戻った時にはその枠がなくなるから、逆に自由の幅が広がって、それを楽しむからこそ、感情を振り切って使う声や言葉も違うものになったりして。また次の(K)NoW_NAME現場では、違った四角形のなかで表現をするという。

三上政高(以下、三上):(K)NoW_NAMEのボーカリストについては、アニメーションのなかに登場する一人の人格として歌うし、キャラクターの感情として書かれた詞を歌うのを基本としています。意外性を大事にすることもあるんですけど、とはいえ作品の世界観に合わせる以上、表現できる幅がある程度は決まっていますし、この世界で鳴っている音は、こういった音色ですよねという枠組みはある。作品のコンセプトを齋藤が考えているときにある程度世界観が固まってくるので、そこからはみ出さないように歌ってもらうというのが、いい意味でクリエイティブの制限になり、そのことで精度が高まっていくと思います。

ーーNIKIIEさんとTachibanaさんは、お互いの歌についてどう思っていますか。

NIKIIE:自分は声が細いほうだと思うので、Ayakaちゃんの歌を聴いた時に羨ましくなりました。私は辛い心情を歌うような歌詞でもライトに聴こえる声質で、深みというよりは痛みが軽減して聴こえるような声だと思うので。そういう意味では対照的というか、母性があって深いAyakaちゃんの声が好きです。

Tachibana:私も同じです。透明感のある歌声で、『灰と幻想のグリムガル』の「sun will rise」を聴いたときにも「これは私には歌えない!」と思いました(笑)。何度かニコ生でのLIVEも一緒にさせていただいているんですけど、ずっと凝視しています(笑)。

ーーお互いが羨ましがる良い関係性ですね。そもそも(K)NoW_NAMEの楽曲はどのようにして制作されているのでしょう。

齋藤:まずはアニメの作品ありきですね。脚本打ち合わせの段階から監督と「どういう音楽性にしましょうか?」とヒアリングしたり逆にご提案したり、イメージや要望を共有するんです。そこから三上と佐藤さんにコンセプトを伝えて打ち合わせをし、具体的に各作家さんにお願いして劇伴と挿入歌、主題歌の制作がスタートしていく、という流れです。前回の『灰と幻想のグリムガル』だと、ファンタジー世界のなかでの日常を描く作品だったので、日常のシーンでは温かみのあるアコースティックで小編成の楽曲を、戦いのシーンでは普通なら弱いゴブリンが相手でも生死を懸けたドラマがあるので、大きな編成の壮大な曲、派手盛り上げるバンドサウンドなど、それぞれが粒だった個性のある曲がほとんどでした。中村監督が「コップの中の嵐」という言葉を使っていたのですが、世界観は小さくても、その中に存在する人物にとっては大きなドラマがあるといったコンセプトを音楽演出の側面からアプローチできたかなと思います。

三上:『灰と幻想のグリムガル』の音楽に関しては、フィルムスコアのような作り方だったんですよ。12話通して同じ曲が流れるのが1回しかないという、TVアニメでは稀な劇伴になっていると思います。

齋藤:『サクラクエスト』は逆に日常のドタバタ劇でシーンもコロコロ変わるので、『灰と幻想のグリムガル』とは正反対の作り方になるだろうとは思っていました。監督からは「土臭さ・ビックバンド・ジャズ」がキーワードとして上がってきたので、こちらから「カントリー」もテーマに追加しつつ制作していきました。

三上:アーティストの具体的な指定はなかったんですけど、1970〜80年代くらいのアメリカンロック・ポップスをベースに、宮崎さんが今風にアレンジしてくれたんです。

ーーMiyazakiさんはそのテーマをもとにどう作り込んでいきましたか?

Miyazaki:田舎が舞台ということもあって、ジャズ・ブルース・カントリーを意識しつつ、ドラムのキットをビンテージっぽい鳴りのものにすることで「1970〜80年代くらいのアメリカンロック・ポップス」というテーマを踏まえた音作りができました。でも、エレピの音色は今風に立たせたりと、抜き差しで工夫したんです。全体の印象としては女の子の日常劇なので、ミックス段階でエンジニアさんにパキッとさせてもらいましたね。歌モノはオープニングの「Morning Glory」にバンジョーを入れてみたりと遊びもありつつ、登場人物の心情を優先して書きました。

ーーボーカルのお二人は、その楽曲を歌ってみてどう感じましたか?

NIKIIE:オープニングの「Morning Glory」は、自分の中でどう歌うか迷いつつ、まずはレコーディング現場で1テイク歌ってみたんですが、「もっとガーリーに!」というリクエストがありました。東京から田舎の方に来て頑張る女の子たち、という主人公の設定に目線を合わせようと相談して、普段の自分では出さないくらい、最大限の可愛い声で歌ってみたんです(笑)。

Miyazaki:最初、違う人が歌ってるのかと思いましたもん。

NIKIIE:『グリムガル』はキャラクターに入り込んで歌った曲もありましたけど、今回は俯瞰して景色を歌うようにしていて。キャラクターに入り込むというよりは世界観を作り込んで歌うという感じですね。これ以上越えたら崖から落ちるんじゃないかというくらい最大限のガーリーさです。

Tachibana:その例えでいうと、私は崖から落ちてますね(笑)。私は普段、ダークな雰囲気で歌うことが多いので、『灰と幻想のグリムガル』は割とそこに近い世界観で入りやすかったんです。でも、今回は違う誰かになる感覚というか。私の中にあるけどまだ空けたことのない引き出しを空けているような、そんな感覚になりました。

NIKIIE:でも、映像を見ると「なるほど!」と合点がいきました。これで私が大人っぽく歌っていたら浮いていただろうなと。

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