『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2017』特集第5弾

“音楽×映像”はライブ体験をどう拡張する? DAOKO、Kezzardrix、backspacetokyoに訊く

 前編のDAOKO単独インタビューに続き、後編では、Kezzardrixとbackspacetokyo比嘉了、清水基へのインタビューをお届けする。今回初めてDAOKOとタッグを組むことになった三者だが、彼女の楽曲からどんなインスピレーションを受け、映像を作っていくのだろうか。DAOKOへの印象や、映像と音楽の理想的な関係性、そしてデジタルテクノロジーやオーディオビジュアルの未来に至るまで、クリエイターの立場から語ってもらった。(編集部)

「一番音楽にノッてる存在として、映像を登場させたい」(Kezzardrix)

ーー『SOUND & VISION』でのDAOKOさんとのコラボでは、どのような役割を3人で決めていますか?

Kezzardrix:まず、スペースシャワーさんからこのお話いただいた時、よくイベントで一緒に映像やレーザーの演出をやっている比嘉(了/backspacetokyo)さんと清水(基/backspacetokyo)くんも参加したら面白いだろうなと思って、僕から3人でやらせてくださいとお願いしました。基本的な映像を僕が担当しており、比嘉さんも映像を作りますけれど、僕とは違って、DAOKOさん本人をセンシングしたデータを使って映像を作ってもらいます。そして清水くんはレーザーを使った演出と映像を担当します。バシッと3人で役割を分けるより、3人の得意分野がちょっとずつ被りながらも分かれているので、「これ面白い?」みたいにアイデアをだしながら作業していますね。

ーー DAOKOさんはまさに「音楽と映像」を体現するアーティストですが、映像面ではどんな印象を見る人に与えたいと考えていますか?

比嘉了(以下、比嘉):コンセプトはあまりカッチリとは決めてないですね。まずはDAOKOさんの音楽に映像を合わせることを考えます。

Kezzardrix:「DAOKOさんの詩世界」的なものをビジュアライズして、ただ「テクノロジーがすごい!」みたいな反応にならないようにしたいなと思います。そもそも僕らが呼んでもらえるイベントは、映像を前面に押し出していこうという明確な目的があるイベントが多いので、音楽に合わせて映像を作ることは前提ですが、遠慮せずガンガン前に出ていけるんです。

清水基(以下、清水):『SOUND & VISION』は大きな映像を映すための機材が用意してくれるイベントですし、僕らも新しい試みも取り入れたり、楽しくやれそうです。

ーー オリジナル性の強いDAOKOさんの世界観を、映像と一緒に楽しんでもらうような演出が重要ですね。

Kezzardrix:基本的に音楽を主体に組み立てるので、ミュージシャンからの影響は受けますね。他の映像作家さんでしたら、自分の作品を前面に出せたりするので、どのミュージシャンと組んでもいつものスタイルで映像を流すことがあると思うんですよ。逆に僕らは普段から映像作品を単体で発表してきたわけではないので、基本は音楽ありきで映像を組み立てていく。なので、音楽が前に出るべきだと思っています。DAOKOさんの場合、曲によってテンションの振れ幅が変わるので、そこは考慮して作り込んでいこうと考えています。僕は前からDAOKOさんの曲は聴いていたので、イメージが湧きやすくて、この曲だったらこんな映像が合うかなと考えてましたね。

Kezzardrix

比嘉:自分がライブを見ていても、映像演出の主張が強すぎるとどっちを見たらいいんだろうと困る時があるんですよね。僕らは、基本的に音楽の後ろの映像を作ることになったら、ミュージシャンの文脈を読んで、歌詞を理解して映像を組み立てていきます。個人的にはセンシング技術を使って、よりインタラクティブな部分を入れた時の見え方は気になりますね。

Kezzardrix:清水くんをレーザーの演出で誘った理由も、DAOKOさんの「BANG!」という曲の歌詞で<ブルーの銃で撃ち抜いて>という部分があって。僕らも前にCGの映像をレーザーで撃ち落とす演出をやったことがあり、それを今回透過スクリーンでやったらバッチリじゃないかと思いついた時に、すぐ清水くんに電話して決めたんですよね。ただ、当日「BANG!」をやるのかは、まだわからないんですけど(笑)。

ーー DAOKOさんの曲にはキュートな曲もありますが、そういった曲調の時はどんな映像で盛り上げていくのですか?

Kezzardrix:可愛くてポップなテイストの方が合いそうなら、そういう映像を組みますし、一緒に出る人によってテイストは変えています。最近、ブラック・メタル・バンドのVJもやったりしているんですけれど、そちらは黒ヤギと脳みその映像を使ったり(笑)。例えばDAOKOさんの「ダイスキ with TeddyLoid」という曲の場合なら、バキバキな映像が合うなと思ってますし、全体として統一感を持たせつつ、ちゃんと曲によってカラーを使い分けたいですね。映像が音楽を助けてくれる時もあれば、邪魔する時もあると思うんです。アーティスト用にバシッとはまる映像を作って、いい演出ができれば成功ですが、たとえばクラブに行って、他のイベントでも見たことあるようなサンプル映像を流しっぱなしにされていると、どうなんだろうと思う時もありますね。

ーー 映像を作りたい人や、VJを始めたい人も増えていると感じますか?

Kezzardrix:そうですね。映像への参入障壁が下がってきたことが大きいと思います。何十万円もするCG専用ソフトウェアと比べて、プログラムを組む環境はほぼタダなんですよ。ネットでもオープンに配布して広がってきていますし、少し前と違って日本語での資料や情報も最近は増えてきていることは確かですね。

比嘉:「教えてください」とか質問されることは増えましたね。

ーー 音楽体験の拡張として音楽と映像のコラボレーションが一つの可能性として考えた場合、映像が果たす役割はどういったところにあると思いますか?

Kezzardrix:僕は2パターンあると思っているんです。例えばすごい上手いダンサーがフロアで踊っていたとします。その人を見ている周りの人も楽しいじゃないですか。それと同じ感覚が映像でも作れればいいなと思っています。要は、一番目に飛び込んでくるところに、一番音楽にノッてる存在を登場させること。その感覚を作りたいと思って、音楽にバチッと合う映像を作ったり、曲の展開に合わせて映像がリアルタイムで変わっていく変化を展開することを、普段のVJの時から考えていて。「俺の映像がこの曲で一番ノッてるぜ」みたいな気持ちはあります。

もう一つは、バンドの映像を担当する際、楽器の音をばらばらにコンピューターにもらって、ギターの音に反応するのはこの映像、ドラムならこの映像というプログラムを組んでやる時があります。ライブの音楽ってスピーカーの2つのチャンネルから音が出て渾然一体の塊として耳に聞こえてくるんですね。曲が盛り上がってきてアンサンブルが複雑になった時、全体としてかっこいいなあと思ってはいても、個々の楽器の演奏や曲の構造はなかなか分かりづらかったりします。それを映像で上手くビジュアライズしてあげると、多分聞こえ方も変わるんじゃないかと思って映像を組んでいます。以前LITEというバンドの映像をやった時などは、ミニマルなフレーズを多重に組み合わせた楽曲が多いので、ギターのパートとベースのパートで映像の光り方を変えるだけで演奏への理解が深まってほしいと思ってやっていました。

清水:僕がLITEのライブを見に行った時、確かに複雑な曲が多いんですが彼の映像があったおかげで、ステージの上で何が起こっているのかがスッと理解できて、曲に対する印象も変わったという体験はありました。

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