小野島大の新譜キュレーション 第9回

Eccy新アルバム、日本のヒップホップ・シーンのメルクマールとなるか? 小野島大の新譜8選

 UKの宅録女子ケリー・リー・オーウェンスのファースト・アルバム『Kelly Lee Owens』(Smalltown Supersound/calentito)。 ダニエル・エイブリーの傑作『Drone Logic』にフィーチャリングされて注目された人で、海外ではビョークが引き合いに出されてますが、もっとダークで内省的でインドアなムードは、個人的にはポーティスヘッドがチルウェイヴ~ドリーム・ポップをやってるような印象を受けました。曲調は多彩でサウンドのアイディアも豊富。かなりの才能と見ました。3月15日発売。

ケリー・リー・オーウェンス「Lucid」
ケリー・リー・オーウェンス「CBM」
ダニエル・エイブリー「Drone Logic」 vocals by Kelly Lee Owens

 UKのダブ・マスター/ノイズ・テロリストのエイドリアン・シャーウッドと、ブリストルのダブステップ~ベース・ミュージックの若き総帥ピンチによるシャーウッド&ピンチ(Sherwood & Pinch)の2年ぶりの2作目『Man Vs. Sofa』(On-U Sound/Tectonic/Beat Records)。前作と比べ、リズムが多彩になり音楽面でも多様化、音響面でもノイジーさが減り空間的な広がりを感じさせるようになりました。もちろんピンチらしいエキセントリックなビート感覚と、エイドリアン一流の切り裂くようなダブワイズが交錯するディープな重低音アートという基本線はそのままに、シャーウッドによれば「より瞑想的でサイケデリック」な超一級の音響アートとなっています。なかでも坂本龍一「戦場のメリークリスマス」のカバーは聞き物。シャーウッドがプロデュースしたマーク・スチュワートのソロ・アルバム『Mark Stewart』(1987年)での、デヴィッド・シルヴィアンの「禁じられた色彩」のカバーと聴き比べるのも一興でしょう。これはぜひハイレゾで堪能したいところ。

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Ototoy(Hi-Rez 24bit/44.1kHz)

シャーウッド&ピンチ「Merry Christmas Mr Lawrence」

 ジ・インターネットのSydのソロ・アルバム『Fin』(Columbia Records)。オーガニックなバンド・サウンドを旨とするジ・インターネットよりも密室的で内省的なエレクトロニックR&Bですが、ビロードのようになめらかな音像の中にヒリヒリするような刺激が潜んでいて、実に官能的で美しい。メロディ・ラインに70年代のニュー・ソウルに通じる大らかさがあるのも個人的なツボでした。最近ではサンファの『Process』と並ぶ出色の傑作です。発売中。

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Syd「All About Me」
Syd「Body」

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