1stミニアルバム『東京におけるセックスフレンドや恋人のなにがし(またはそれに似た情事)について聞いて書いた。』インタビュー

白神真志朗が語る、“リアル過ぎるラブソング”への挑戦「描写されない恋愛の瞬間を拾う」

 ベーシスト/コンポーザー/アレンジャー/エンジニアなど多彩な顔を持ち、カゲロウプロジェクトのじん(自然の敵P)との共作や、バンドプロジェクト、ステラ・シンカ –The Stella Thinkers-での活動でも知られるマルチ・アーティスト、白神真志朗(しらかみましろ)。彼が本人名義の1stミニアルバム『東京におけるセックスフレンドや恋人のなにがし(またはそれに似た情事)について聞いて書いた。』を完成させた。本作では都会における様々な女性の恋愛をテーマに、女流作家の作品や、実際に話を聞いた様々な女性の恋愛観を参考にして楽曲を制作。〈始まりもしなかった恋が/多分もう終わるよ〉と結末を予見する冒頭の「バイバイ」を経て、“本当の恋人にはなれない相手”との擦れ違いの中で自分を見つめ、最終曲「1LDK」で街を去るひとりの女性の心模様が、ディテールにこだわった豊かな筆致によって浮き彫りにされていく。その物語を引き立てるのは、国内外の音楽を引用してポップに振り切れたサウンドの幅広さ。大胆な挑戦となった作品のテーマと、全編にちりばめられた音楽的要素、そして本作を通して彼が手にした新たなポップ観について訊いた。(杉山仁)

「綺麗ごとじゃないものなら自分にもできるんじゃないか」

ーー今回の作品は、これまで白神さんがほとんど作ってこなかったラブソングが大きなテーマになっています。また、作詞に際しては実際に様々な女性に話を聞いたそうですね。

白神真志朗(以下、白神):一度アルバムを作っている最中に「この方向性はちょっと違うかも」という話になって、「ラブソングを書いてみれば?」と言われたのが始まりでした。ラブソングって個人的には「何の足しにもならない」と思っていたぐらいで、僕は人生の中でも2曲ぐらいしか作ったことがなかったんですよ。でもせっかくなら一度作ってみようと思って、家にある恋愛に関係のありそうな本を読み返していたときに、村山由佳さんの『星々の舟』(第129回直木賞受賞作品)を見つけました。これは群像劇を通してひとつの家族を描いた作品で、その中には次女が既婚者と不倫している話があって。ホテルかどこかで、次女が「年上の不倫相手が『シャワーは下半身しか浴びない』みたいな不倫の流儀を律儀に守っているのがいじらしくも可愛い」と感じている描写を見て、そのときに「綺麗ごとじゃないものなら自分にもできるんじゃないか」と感じました。僕の友達で『クズの本懐』の作者の横槍メンゴさんの作品を読み返したりもしましたね。それで1曲作って聴かせてみたら、周りの人たちも「これじゃないか?」という反応で、最初は「えっ、嘘でしょ」って(笑)。

ーーはははは。

白神:そこから色んな曲を書いていきました。でも、徐々に「リアリティが足りない」と思うようになったんです。小説ってデフォルメされて印象的なところがピックアップされますけど、曲にリアリティを出すためには、“そこには描写されない”瞬間を拾う必要がある。その際に自分の経験だけではじり貧になると思ったので、まずは友達のミュージシャンのセックスフレンドで、個人的にも面識がある女性に話を聞きました。もちろん、インタビューのように話を聞くわけにはいかなかったんですけど、「飲みにいこうぜ」と誘ったら自然と恋愛話になって、結果的に細かに事情を聞くことになってーー。そのときに「これは面白い作品になるかもしれない」と思いましたね。

ーーなるほど。それで沢山の人の話を聞いて、タイトルも『東京におけるセックスフレンドや恋人のなにがし(またはそれに似た情事)について聞いて書いた。』になった、と。

白神:そうですね。しかも、ヒアリングした結果ピュアな恋愛観の方たちばかりだと「やべえ、やっぱりこれじゃ、俺は曲が書けない」となっていたかもしれないですが、何かを抱えている方が多かったので、「僕なりのポップ・ミュージックを作ることができる」という意味で自分にとっては幸運でした。ただ、それだけではなくて、自分の足も使ってリサーチしようと都内のパブにも向かったんですよ。そこはナンパ待ちの女性が訪れる場所として機能しているところで、遊び人の友達と出向いて、その様子を観察しようと思いました。だから、自分はナンパをするつもりもまったくなかったんですけど、テーブルに座っていたら、隣のお兄さんたち2人が「(小声で)今日はナニモク(何目的)ですか?」って聞いてきて……。「ナニモクって何だよ!!!」みたいな(笑)。

ーーパワー・ワードですね……。

白神:そして、そのお兄さんたちは直後に女の子を華麗に捕まえて、こっちに小声で挨拶して消えていきました。

ーー(笑)。そうやって自分で観察したり、人に話を聞いたりして考えた歌詞に沿うように、サウンドの方向性を考えていったんですか?

白神:いや、サウンドはまた別に出てきた形でしたね。僕はこれまで洋楽ばかり聴いてきたこともあって、曲を作るときはまずはトラックを組んで、そこに歌詞にもならないような言葉を乗せていくんです。ただ、今回は歌詞が大事な作品だったので、初めて歌詞先行で曲を作りました。そうすると、曲ができるのがすごく早くなって本当に驚きました。今回の作品に関しては、とても合う制作方法が見つかったというか。これまでは洋楽的で音数の少ない、音符が速くないものばかりを歌ってきたので、その後歌を録るのは超大変でしたけど(笑)。

ーーちなみに、白神さんが聴いている洋楽というのは、最近だとどういうものが多いんでしょう? たとえば、2016年のベスト作品を挙げてもらうことはできますか。

白神:去年で言うと、まずはBon Iverの『22, A Million』。4曲目の「33 "God"」を聴いて、途中でうねるベースが入ってくるタイミングでぶっ飛びました。それこそ多感な中学生の頃みたいに、「音楽でこんなに感動できるんだ」と久々に感じましたね。

ーー白神さんはアレンジもできる方ですが、そういう耳で聴くと、きっとあの作品は音の配置や声の加工が本当にぶっ飛んだものになっていると思います。

白神:そうそう。僕が感じたのもまさにそういうことでした。あのアルバムって、生楽器を沢山使ってアレンジがめちゃくちゃ有機的なだけに、普通の構築的な音楽とは違って「構成はこうなってるな」という規則性が一切感じられない。それに加えて声をいじることに対するセンスもやばいし、ドラムもめちゃくちゃ歪んでいて。それなのに、何故か不思議とポップなんですよね。構成要素は全然ポップじゃないのに。何があの音楽を「ポップ」という枠に留めているんだろう? ということに本当に驚きを感じました。

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