書籍『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』特別企画
tofubeats×ジェイ・コウガミ、名著『誰が音楽をタダにした?』を語る 音楽はネット時代にどう生き抜くか
“フリー”になった時、音楽の価値はどこにあるのか
ジェイ:今日、もう一冊別の本を持ってきました。『海賊のジレンマ』(マット・メイソン著/フィルムアート社)という本で、こちらはサブカル的なネットカルチャーの中で音楽や映像がどう広がっていったかということが書かれていて、 Myspaceやレコードプールの話も出てくる本です。『誰が音楽をタダにした?』は、音楽業界の形がどんどん崩れていく過程や「ネットと音楽」、「海賊版と音楽」というのを、どの立場から見るのかによって、感情移入するポイントやストーリーへの入り込み方が変わってくると思います。tofubeatsさんや<Maltine Records>のみなさんは、同じ時代に日本でも同じことをやっていた立場として、当事者意識が強いのではないかと思うのですが。
tofubeats:そうですね。繰り返しになりますが、僕らもインターネットに対する帰属意識を持っているんですけど、それを人に説明するのが難しいんですよ。
ジェイ:インターネットの中で画面上でやりとりしている人の間では通じるんですけど、その外にいる人にとっては、その実態が見えなかったり、その人たちの熱量が伝わらなかったりしますよね。
tofubeats:僕らも当時おかしいと言われてましたけど、情熱を傾けてやっていたわけで。この本にはそれと同じテンションがあって嬉しかったですね。あと「MP3は永遠」と書いている部分もあるんですが、絶対にそんなわけないじゃないですか。でも技術者はそう信じて作ってる。だからMP3はロマンなんですよ(笑)。MP3はなぜ高音と低音が減るのかって、実はすごい大事な話だと思うんですよね。つまり、ドイツ人にとっての音楽の大事な部分は、人間に聞こえないと言われている高音と低音を抜いたところなんです。そういうふうに、音楽の価値はどこにあるのか? と問いかけている本でもありますよね。たとえば、アーティストにお金を払うことが音楽への貢献だと思ってる人は、音楽がタダになったら、その行為が奪われる。そういう価値観の話でもあるし、それは現代においてインターネットとの付き合い方を考えることにまで適用できる。音楽だけではなく、コンテンツ全般を扱うというのはどういうことなのか、そしてその中で大事にしているものが浮き彫りになってくるから面白いんですよね。
ジェイ:「インターネットと経済」、「インターネットとビジネス」という話につながりますよね。本書は音楽が題目になっているだけで、同じようなことが他の産業でも起きているはず。既存の社会の仕組みに、インターネットという新しいシステムがぶつかった時、何が壊れて何が残って、人は何を選ぶのか。そういう価値観を問いかけてくるところはあると思います。個人的には、残るものが音楽だったらいいなと思いますが、それも価値観の違いの話なので、一概に音楽を選ばない人は悪という話ではない。また、日本でSpotifyのサービスが始まったのと同じタイミングで出版されたので、今の時代に音楽や音楽を取り巻く環境をどう見るのか、改めて考えさせられる本でもありました。Spotifyが日本に上陸したのは大きなことで、配信やストリーミングが注目されることで、既存の音楽の聴き方も変わってくる。音楽と接する方法が、よりネット的な枠組みの中でも実践できるような兆しを感じます。ただ、それですべてが変わるとも思っていなくて、やっぱり配信やストリーミング、サブスクライブも、音楽を聴く選択肢の一つ。今後は音楽とデジタルテクノロジーがより近くなっていければいいなとは思いますが。
tofubeats:2015年にサブスクライブが本格的に始まり、2016年を経てもそこまで大きく変わったという印象を僕は持っていなくて。もちろん水面下で少しずつユーザーが増えているんでしょうけど、そこまで大きなインパクトはなかった。世界的にはSpotifyがかなり広く浸透しているイメージもある中、日本では遅れをとってスタートしました。まだ日本の現行のシーンと、Spotifyで聴ける曲の数は一緒になっていないですよね。今後少しずつ変化していくと思うんですけど、現状だとまだ変わったと実感するには早いかなと感じています。
(取材・文=若田悠希/撮影=下屋敷和文)
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■ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、「All Digital Music」編集長)
デジタル音楽ジャーナリスト。音楽テクノロジー・ブログ「All Digital Music」編集長。「世界のデジタル音楽」をテーマに、日本では紹介されないサービスやテクノロジー、ビジネス、最新トレンドを幅広く分析し紹介する。ブログは『ハフィントンポスト日本版』や『BLOGS』で転載される。また、ジャーナリストとして『SENSORS』『WIRED』『オリコン』『Real Sound』などオンラインメディアや、経済誌でデジタル音楽に関する記事執筆や取材を手がける他、テレビ、ラジオへの出演や、講演や企画に多数携わる。