柴 那典のチャート一刀両断!

星野源「恋」なぜロングヒット? 『逃げ恥』メッセージとリンクした“主題”歌としてのあり方

参考:2016年12月12日~2016年12月18日のCDシングル週間ランキング(2016年12月26日付)(ORICON STYLE)

 今年最後の「チャート一刀両断!」。これまで筆者は基本的には対象週のオリコンチャートで1位となった楽曲、もしくは惜しくも2位もしくは3位となった曲を取り上げて、その状況分析と楽曲分析を行ってきた。なので今回は少々異例な形となるのだが、この曲をフィーチャーしたい。星野源の「恋」だ。

 10月5日にリリースされたこのシングルは、2016年12月26日付のオリコンチャートで9位にランクイン。パッケージ出荷枚数は累計25万枚を超え、再びTOP10入りを果たした。主題歌となったドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の人気と共にロングセラーを実現している。

 ちなみに、対象週のオリコンチャート1位は初週で24.8万枚を売り上げたHey! Say! JUMP『Give Me Love』なのだが、CDセールス以外の指標を織り込んだ複合チャートであるビルボードJAPAN HOT100では、この曲はセールスとルックアップ以外の指標が振るわず総合2位に。かわりにラジオ、ダウンロード、ストリーミング、Twitter、動画再生という5指標で1位となった「恋」が総合でも1位となっている。

 さらに、2016年12月21日に発表されたレコチョク週間ランキングでは、「恋」が10週連続1位を獲得した。ちなみにこれは、2014年の松たか子「レット・イット・ゴー~ありのままで~(日本語歌)」の9週連続1位を上回る、レコチョク史上最多連続記録だという。

 つまり、様々な指標を見ても、注目を集め、話題となり、記録的なセールスを上げているのは、あきらかに『Give Me Love』ではなく『恋』ということになる。先日上梓した『ヒットの崩壊』でも書いたが、「パッケージのCDが売れている順」を並べたオリコンチャートは、もはや「ヒット曲の指標」としては役に立たないものとなっている。そういう状況をまざまざと見せられた形だ。

 さらに、この曲は『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)や『MUSIC STATION SUPER LIVE 2016』(テレビ朝日系)といった年末の大型音楽番組でも番組の盛り上がりの一つのピークを作っていた。大みそかの『紅白歌合戦』(NHK総合)でも大きくフィーチャーされるはずだ。そうなると、年末年始のチャートでもかなり上位に入るだろうことが予想できる。

 拙著『ヒットの崩壊』の帯には「『国民的ヒット曲』はもう生まれないのか?」というコピーが大きく書かれている。しかし、この状況を踏まえて言えば、おそらく星野源「恋」は、もはや「国民的ヒット曲」と呼んでも差し支えないものになっていると言えるだろう。

 前述した通りこの曲のロングヒットの要因は12月20日に最終回を迎えたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の人気なのだが、改めて感じ入るのは、この「恋」という曲が、単なるタイアップ的な主題歌ではない、ということ。愛や人生の多様性を肯定する『逃げ恥』の主題と深い部分でリンクしたメッセージ性を持つ曲であることだ。まさに本質的な意味で“主題”歌なわけである。

 星野源は当サイトのインタビューでこう語っている。

「〈夫婦を超えてゆけ〉というフレーズを思いついたときに『あ、もう大丈夫だ』みたいな気持ちになれました」

(参照:星野源が語る“イエローミュージック”の新展開「自分が突き動かされる曲をつくりたい」

 ただ、曲がリリースされた当時には、彼が語った「あ、もう大丈夫だ」という感覚の半分くらいしか、我々はわかっていなかった。そもそも『逃げ恥』は始まったばかりだった。ドラマのストーリーは、主人公であるみくり(新垣結衣)と平匡(星野源)が、夫=雇用主、妻=従業員という雇用関係として“契約結婚”をしたという筋書きから始まる。だから、その時点では〈夫婦を超えてゆけ〉という一節から、形だけの関係としての夫婦ではない本当の「恋」が二人の間に芽生えるという予感を受け取っていた人は多いはずだ。

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