5thアルバム『スペースエコー』リリースインタビュー

nano.RIPE きみコが語る、メンバー“卒業”と新体制の決意「ここでバンドを終えるのは絶対に違う」

 10月19日にリリースした5thアルバム『スペースエコー』の発売と同時に、アベノブユキ(Ba.)、青山友樹(Dr.)が年内の活動をもって脱退することを発表したnano.RIPE。アニメのタイアップソングを数多く手がけながら、ロックバンドとしての凛とした佇まいを示し続けてきた彼らは、メジャーデビュー6年目を迎え、大きな節目の時期に突入している。

 今回リアルサウンドでは、きみコ(Gt.&Vo.)に単独インタビューを行ない、アルバム『スペースエコー』をフックにしながら、現メンバーでの最後のツアーとなる『nano.RIPE TOUR 2016「ルミナナリー」』の手応え、きみコ、ササキジュン(Gt.)の2人体制となる今後の活動ビジョン、そして、彼女自身のバンド観などについて、率直に語ってもらった。(森朋之)

「“いつか終わる”という気持ちはずっと持っている」

——まずは10月にリリースしたニューアルバム『スペースエコー』について聞かせてください。発売されて数週間経ちますが、リスナーからの反応はどうですか?

きみコ:アルバムが出た後、あっという間にツアーが始まったので、どの曲が人気なのかリアルにわかりましたね。お客さんも「これはライブのほうがいい」「この曲はCDのほうがいい」と感じることがあると思うし、ライブで演奏することで自分たちのなかでも印象が変わってきた曲もあって。たとえばアルバムの11曲目の「イタチ」は、イントロとともに歓声が上がるんですよ。「イタチ」はいままでのnano.RIPEのイメージを裏切る感じの曲だと思うんだけど、ライブで「これが好きなんだな」って感じられたのは良かったです。

——『スペースエコー』は全体を通して、音楽的な新しいトライアルが感じられる作品ですからね。

きみコ:そうなんですよ。「みんなが思うnano.RIPEはこういう感じなんだろうな」というのもわかってきて、今回のアルバムを作るにあたっては「そのイメージを良い意味で裏切ろう」というテーマもあったので。そう思ったいちばんのきっかけは、メジャーデビュー5周年のときにリリースした『シアワセのクツ』(シングルコレクション)だったんです。明るくてポップな曲、ロックのテイストが強い暗めな曲の両方がぼくら“らしさ”だと考えていたんですけど、シングルを並べてみると、思った以上に明るめの曲が多くて。そのときに「シングルでも暗めな曲を押し出していきたい」と感じたんです。暗めな曲は歌詞のなかで自分の気持ちを吐き出していることもあるし、より自分の本質に近いんですよね。

 

——サウンドはポップに振り切っていても、じつは歌詞がシリアスという組み合わせも多いですよね。

きみコ:多いですね(笑)。アニメのタイアップ曲は作品の世界に寄せることもあるんですが、自分らしさという意味では、暗めの曲のほうに出てるのかなって。『スペースエコー』は、そっちに振り切ってみようと思ったんです。アルバムのなかでいちばん古いシングル曲は「こだまことだま」なんですけど、それがちょっと浮いてしまうくらい、いい意味で偏った作品が作れたかなと。「最後は真ん中くらいのバランスで落ち着いたね」ではなくて、躊躇せずやりたかったんです。「ダメだったら、そのときに考えればいい」というくらい挑戦の1枚にしたかったので。

——メジャーデビューから5年経って、バンドの個性が確立できたからこそ「違う部分も押し出していきたい」と思えたのかもしれないですね。

きみコ:うん、それはすごくあると思います。シングルコレクションを作って「こういうタイプの曲が自分たちの武器なんだな」ということが改めてわかって。たとえば今回のアルバムに入っている「終末のローグ」は、まさにnano.RIPEらしい曲なんですよ。そういう基本的なところはありつつ、そのうえで違う部分を見せられたらなって。

——特に「在処」「イタチ」「ものがたり」あたりには、きみコさんのダークな世界観が顕著に出ていて。

きみコ:その3曲は“きみとぼく”という同じ主人公になってるんですけど、『鉄コン筋クリート』(松本大洋)をモチーフにしてるんです。以前から「『鉄コン筋クリート』のテーマソングみたいな曲を作りたい」と思っていて、やってみては「ちょっと違うな」ということを繰り返してきたんですけど、このアルバムのタイミグでやっと書けて。だから世界観が似てるんです。

——『鉄コン筋クリート』のどういうところに惹かれているんですか?

きみコ:何回読んでも飽きないし、いろんな解釈が出来るんですよ。名言が散らばっているし、すごく不思議な作品だなと思います。あたしは“クロ”の視点にしか立てないんですけどね。クロがシロを敬う気持ちだったり、シロがいるから何とか生きていけるという関係性だったり。特に「在処」と「ものがたり」は、そういうところが出ていると思います。クロみたいに血を好むわけではないですけど(笑)。

——「終末のローグ」の<進め 終りへ>という歌詞もそうですが、アルバム全体を通して“すべてはいつか終わる”というイメージが流れている印象もありました。聴き手としてはどうしてもメンバーの脱退と結びつけてしまうのですが、実際はどうだったんですか?

きみコ:“いつか終わる”という気持ちはずっと持っているんですよね。今回はたまたまメンバーが脱退するタイミングでアルバムが出ましたけど、もともとnano.RIPEはメンバーチェンジを繰り返しながら続けてきたバンドだし、“出会いがあって別れがあって、いまのメンバーがいる”ということはこれまでにも曲にしていて。ただ今回の場合は脱退の発表と同時にアルバムが出たから、そういうふうに感じる人は多いだろうなとは思ってます。

——そこはリスナーの解釈に任せる?

きみコ:はい。「メンバーの脱退のことを歌ってる」と取ってもらってもぜんぜんいいし。あたし自身、アルバムが出来上がったときに「そういう感じだな」と思ったし、ライブで歌ってるときもそういう意識があるので。バンドに限らず、友達や家族に対しても「始まりがあれば、終わりがある」というのはずっと考えていますからね。たとえば「ルミナリー」という曲は、宇宙の誕生からひとつの星の消滅までを自分の人生に置き換えて書いていたり。

——“終わりがある”ことを受け入れている感覚なんでしょうね。

きみコ:もちろん終わりが来るのは悲しいことだし、つらいことだったりもするけど、それは仕方のないことなので。今回もそれは同じで、ふたりが抜けるのはすごく悲しいし、ササキジュンとふたりで再スタートを切るのも大変な作業なんだけど、ここでバンドを終えるのは絶対に違うんじゃないかなと。この4人で作ってきた音はすごく良かったと感じているし、「スペースエコー」もいいアルバムだと思っていて。ここで解散してしまえば、その音も鳴り止んでしまう気がするんですよ。この先もずっと続けていかないと4人でやってきたことの意味もなくなってしまうというか。続けられない環境だったらしょうがないですけど、いまはバンドを続けられる環境があるし、ぼくらも続けたいので、nano.RIPEを守っていこうという気持ちが強いですね。ササキジュンとも改めて話をして、「きみコがやるなら、俺も絶対にやめない」と言ってくれたし。

——なるほど。アルバムのレコーディングのときは「この4人で作る最後の作品」という意識もあったんですか?

きみコ:そういうことを改まって口にするタイプでもないから、「最後までいい作品を作ろう」みたいな感じはなかったですね。ひとりひとりが「4人で録るのはこれが最後」と思っていたというか。いまやっているツアーも、いつも通り普通に「よし、がんばろう」という雰囲気なんです。いい意味で自然体の4人だから、それをいちばん良い形で出せたらいいなって。湿っぽい感じはないから、お客さんも安心してくれたのかもしれません。ステージからも「いつも通りの4人で安心した」という感じに見えたので。

——メンバー同士の関係性やバンドの状況よりも、音楽をしっかり届けることのほうが重要なんでしょうね。

きみコ:そうかもしれないですね。あと、これもさっきの話につながるんですけど、ライブのときは常に「これが最後かもしれない」っていう意識があるんです。もしかしたらメンバーの身に何か起きるかもしれないし、移動中に何かあるかもしないし、壮大な話でいうと地球がどうにかなっちゃうかもしれないじゃないですか。お客さんのなかにも「この日しか見られない」とか「今日のライブが終わったら、しばらく来れない」という人がいますからね。海外に行くとか受験の準備なんかで「しばらくはライブに行けません」という手紙をもらうこともあるし、いつが最後のライブかを決めるのは自分たちではないと思うんです。もちろん納得いかないライブをやってしまって「悔しかったら、次はがんばろう」というときもあるけど、最初から「次がある」なんて思ってたら全力を注げないので。

——なるほど。ちなみにアルバムに収録されている「ディア」はファンに向けた曲なんですよね?

きみコ:はい。もともとあたしはお客さんに向けてメッセージを歌うことはなくて、まずは「自分はこう思っている」ということを吐き出すんです。それを受け取って共感してくれた人が「これは自分のために歌ってくれている」とか「私と同じ気持ちだ」と感じてくれるのがいいなって。ただ、今回のアルバムには自分を主張している曲が多くなったし、この4人の最後の作品ということもあったので、ライブハウスでMCをしているような気持ちで書いてみたいなって。お客さんからもらった手紙を全部取ってあって、事あるごとに読み返しているんです。ちょっと自信をなくしたときとか、しばらくライブがなくて寂しいときとかに手紙を読んで、元気や勇気をもらっていて。その返事を曲にしたのが「ディア」なんですよね。ライブでもいちばん歌いたかった曲なんですよ。ササキジュンのアイデアでギターを持たず、フロアタムをドンドン!って叩きながら歌ってるんですけど、太鼓を叩くことが楽しくなってきて、言葉を丁寧に紡ぐような歌い方ではないんですけどね(笑)。まあ、お客さんも笑顔になってるし、「きみコ、楽しそうだな」って顔で観てくれてるから良かったなって。

——(笑)。ファンの方が手紙を送ってくるのもいいですね。そういうところにもバンドとオーディエンスの関係性が出てるというか。

きみコ:あたしが「手紙が好き」って言ってるから、送ってきてくれるんだと思います。普段、手紙を書くことなんてあまりないと思うんだけど、直筆ってすごく伝わるものがあるんですよね。「ディア」のなかに<震えた声の向こう>という歌詞があるんですけど、それくらいの気持ちで書いてくれてるんだろうなって。文字の形にはその人の性格が出ていると思うし、温度が伝わってくるものが好きなんですよね。

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