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メジャーデビュー・アルバム『百六十度』インタビュー

ヒグチアイが明かす、挫折から再生までの道のり「自分の過去は「敵」ではないと気づいた」

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「「色んなものは裏切るよな」っていうことが常にある」

ーー自分で曲を作ろうと思ったのは?

ヒグチ:高校三年生くらいの頃です。これを誰かに言ったら傷つくのは分かってて、でもそれを自分の中でうまく消化できない、そういう思いも歌にしてしまえば誰も傷つけなくて済むんじゃないかって思ったことがあり、実際に歌にしてみたんです。それが初めて、ちゃんと自分で歌詞も曲も書いた曲ですね。

ーーつまり「メロディを奏でる」というよりは、まず言いたいことや歌いたいことがあって、それをカタチにする感じだったのですね。

ヒグチ:はい。それは今も変わっていないです。言葉を「響き」や「リズム」と捉えているミュージシャンもいるじゃないですか。そういう人たちの音楽を聴いていると、「音楽には色んな可能性があるんだな」って思いますし、言葉だって音なのだから、そんな作り方も出来たらもっと楽しいだろうなっていつも思うんですけど、結局いつもの作り方に戻っちゃうんですよね(笑)。まだまだ言いたいことがあるみたい。一体いつまで続くんだろう….。

ーー(笑)。言いたいことは、どんなところから生まれてくるんですか?

ヒグチ:例えば、「今日食べたトンカツめっちゃ美味しかったな」って思うところからですかね(笑)。「なんであんなに美味しかったんだろう?」って考えているうちに、「そういえば、今日はすごく晴れていたな」とか、「好きな人と一緒に食べたっけ」とか、「すごく嫌なことがあったけど、1日の最後にトンカツ屋さんに行って、閉店ギリギリに間に合ってラッキー」とか、「美味しかった」に至るまでのドラマがいっぱいあることに気づくんです。

ーーなるほど。

ヒグチ:「トンカツが美味しかった」から始まって、「今日はいい日だった」ということを確認したいっていうか、本当に言いたいことは、そこにある気がするんですよね。もちろん、「トンカツ美味しかった」っていう歌でもいいんですけど。「今日はいい日だった」っていう歌のタイトルが「トンカツ」でもいいですし。そうすると、どんなことでも歌にできる気がして。

ーー書き進んでいくうちに、自分の中の本当の気持ちに気づくような。

ヒグチ:はい。怒っているときは、「自分は怒っている」ってすぐ分かるんですけど、嬉しいことって、なかなか気づかないんですよね。あんまり「わーい!」とか言えないタイプなので、ずーっと心の内側でモヤモヤ燻っているというか(笑)。「嬉しい」という感情を、自分の中で何度もなんども確認して、「あ、これは嬉しいんだよな、幸せでいいんだよな」って思えたら、それを全てまとめてようやく「嬉しい、よかった」って心から言える性質らしく。

ーー「安易に『嬉しい』とか思っちゃいけないんじゃないか?」っていう気持ちもあったりします?

ヒグチ:ありますね。「この幸せには何か、裏があるはずだ!」って。

ーー面倒くさい!(笑)。

ヒグチ:なんなんでしょうね(笑)。なんか昔から、「色んなものは裏切るよな」っていうことが常にあるというか。どんなに信じているものでも、「絶対」ではないと思い知らされているので。幸せな時でも、「こんなに幸せなはずがあってはならない」って。悲しい話のようではあるけど、そう思うことで自分を保っていられるわけでもあり、悲しい話とも思っていないんですよね。でも、こういうことを親しい人に話すと、「そんな寂しいこと言わないでよ」って言われます。

ーーそりゃ、そうですよね。幸せを共有していたはずの人が、横でそんなこと考えてたら(笑)。

ヒグチ:あははは。そうなんです。

ーーあ、あとヒグチさんの曲は、ピアノのリフがすごく印象的ですよね?

ヒグチ:誰だったか忘れましたが、海外の有名なミュージシャンが「リフができたら8割がた曲が完成したようなもの」と言ってて。「そうか、リフが書ければいいのか」と思ったんですけど(笑)、確かにリフを考えるのは結構好きなんですよね、そこに合わせてずっとメロディを乗せていくというのが。リフに合わせてAメロを書くというところまでが、曲作りの中で一番好きなプロセス。そこから先が、なかなか思い浮かばなくて苦労するんですけど。サビを考えるのが一番嫌いですね(笑)。

ーーリフやメロディは、普段の生活の中で思い浮かぶのですか?

ヒグチ:そうですね。どこにいても「こんな感じのリフをピアノで弾きたいな」みたいなことは考えています。ふと浮かんでくることが多いので、ボイスレコーダーか何かに吹き込んでおく。ボイスレコーダーが手元にないときは、手帳とかに「ミ、ソ…」みたいな感じで書いたりしています。

ーーアルバムタイトル『百六十度』というタイトルの意味は?

ヒグチ:人間の視野は、360度のうち200度と言われていて、見えてない部分は160度になるわけですけど、今までの自分は見えている部分、CDを買ってライブに来てくれたお客さんのことだけ見ていたのかも知れないと思ったんです。例えば、会わなくなっちゃった人たちとか、まだ会ったことのない人にも実はものすごく支えられているというか。そういう人たちが全員、自分の後ろにいて支えたり後押ししたりしてくれるから、今の自分がいると思えたんです。

ーーなるほど。

ヒグチ:あと、自分の過去は「敵」ではないということに、ようやく気づきましたね(笑)。例えば『百六十度』というアルバムも、すでに自分にとっては過去の作品で、次の作品はもう勝てないかも知れないと思うと「敵」になるわけじゃないですか。そう考えると、常に見えない自分の過去と戦っている状態なんですよね。でも、そんなことをモヤモヤと考えてる間にも、ファンの人たちはライブに足を運んでくれたり、あるいは『百六十度』で初めてヒグチアイを知ってくれる人もいたりするわけで、それって過去の自分に、今の自分が助けられているようなものですよね。「超えなければならない」という意味では「敵」でもありつつ、一番の味方でいてくれるのも過去の自分なのだなと。『百六十度』は、過去の自分や、見えない人たち、会えない人たちがいる領域で、そういう場所が存在することを、忘れたくないという気持ちで付けたタイトルです。

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