THE BACK HORN 菅波栄純が語る“隠されてきた原点”「自分達の曲はおそらく全部バラードです」

THE BACK HORNの“隠されてきた原点”

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「空気感がそのまま出てる」

ーー「悪人/その先へ」から1年ぶりのシングルってことですけど、「悪人」の次にこの曲が出てくるって素晴らしいですね。

菅波:あー嬉しいっすね(笑)。

ーー今回亀田さんがプロデュースってことなんですけど、これはどういうところから?

菅波:プロデューサーをたててなんかやりたいね、みたいな話を最近してたんです。オレら一回土屋昌巳さんとやったことがあるくらいで(2004年『夢の花』)、ほぼセルフ・プロデュースでやってるじゃないですか。でもたまに車検に出したくなるっていうか(笑)。自分らのスペックとか持ち味とかを、第三者の目で見てもらって、もう一回自分らを実感したいなと。悩んでるとかじゃなくて、単純に思っていてそういう話題が出て。

ーープロ野球選手がフリー・エージェントで「自分の評価を聞いてみたい」みたいな。

菅波:あーそうですね、それほんと近いと思います。でその人と仕事してまた新しいもの作りたいみたいなのがあって。それで今回の曲は実際、鍵盤とストリングスもアレンジしなくちゃいけなかったから、それを誰かにやってもらいたいねって話もあって。じゃあ今回プロデューサーに入ってもらうのがいいんじゃないかって事になりました。

ーーああ、ストリングスと鍵盤をうまく扱える人っていうことで。

菅波:そう、アレンジできる人ってことで探して。そしたら亀田さんの名前が出て来て、あと『風とロック』っていう毎年THE BACK HORNも参加してるイベントに、亀田さんも参加してて、そこで結構仲良くさせてもらっていて。もちろん亀田さんの仕事ぶりは知ってたし、亀田さんいいねってことになって。

ーーなるほど。

菅波:で、やってみたら、また「この感覚、久しぶりだなって」って思ったところがあって。亀田さんってバンドものをやるときはバンド・モードになって、バンド感を大事にするんです、バンドの演奏の空気感とかを。だから一発録りなんですよね、歌以外は。で、歌以外一発録りってそれこそーー『運命開花』の時の他媒体でのインタビューで(各楽器を)バラ録りしたって話をしましたよね。その前の作品とか一発で録ってるけど、基本ドラムのテイクを録るためにベースとギターも便宜上一緒に弾いてるみたいな一発録りだったんです。でも亀田さんはほんとに一発録りの演奏で。バンドの空気感を録りたいからって言って。そんなことやったの『ヘッドフォンチルドレン』以来で。ドラムのテイクってことじゃなくてバンド全体のテイクがいいか悪いかっていうので決めるっていうのをやったのはね。

ーー一発録りは緊張感ありますよね。

菅波:ありますね。久しぶりにやってめちゃめちゃ楽しくて(笑)。亀田さんに「結構現代っ子だから君らは」って言われたんすけど(笑)、サウンドを作る上でいろいろやってきたことがあるじゃないですか。結構自分たちでもいろいろ試してやってきたけど、一回そういうのは置いといて、「バンドって空気感じゃ?」とか「ムードじゃね?」とか「ちょっとズレたりしてもそれが味じゃね?」とか、そういうことを久しぶりに言ってくれる人が現れたっていうか(笑)。俺らも昔はそんなこと熱心に言ってたなって(笑)。それこそ「ヘッドフォンチルドレン」とか録ってる時も、すげーズレてるんだけど「いや俺絶対直さねえ」とか言い張ったりしてやっていたなーとか(笑)。

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ーーああ、亀田さんの言う「現代っ子」ってモダンなレコーディングの仕方を好んだり、バンドらしからぬ作り込んだ部分もあるっていう意味ですね。

菅波:うん、作り込んだ構築的なやり方もわかるし、テイクを直すとか、すごい慣れてるから俺らは。でも亀田さんは俺らが「ちょっとあそこ直したいんすけど」って言うと「いや直さなくていい」とか言うんですよ(笑)。久しぶりにそういう意見を聞いたっていうか(笑)。直すの当たり前みたいになってたから。直すっていうかズレてたら合わせるみたいな。

ーー今は簡単に直せるから。

菅波:「いやいや直したら空気悪くなるから」みたいに言われて。ひさしぶりだなあ、そっかそっかバンドってそうだよね、って。ドラムとかも、後々(ミックスで)音量あげるんじゃなくて演奏してる時から、タムならタムを強く叩く。それが基本なんですけど、俺ら時間も詰め詰めでやることにも慣れてたし、とにかく録って後から音量あげたりとか、いわゆるポスト・プロダクションの方が得意になっちゃって。でもむしろプリの方が大事なんだと。その前段階で一個一個ちゃんと積み上げていけば、絶対いいものになるからっていう考えで。

ーースティーヴ・アルビニ(ニルヴァーナ『イン・ユーテロ』などを手がけたエンジニア)もそういう考えみたいですね。後からフェーダーを動かしゃいいとか、ここを差し替えればいいとか、そんなことは絶対しないみたい。

菅波:そうでした、そんな感じでしたほんとに(笑)。歌録りも亀田さんが見てくれて、もちろんそんなに細かく突っ込んでくわけではないんですけど、一個一個亀田さんがチェックしてくれたものが今回の音なんですけど、歌もゴツゴツしてるっていうか人間味があって生々しい。自分達の演奏もそんなに直したりしてないんで。空気感がそのまま出てる。だから久しぶりにゴツゴツした、バラードだけどかなりバンドっぽい音だなあって思います。ストリングスとかピアノが乗ってるからちょっとまた違う味はあるけど、これすごいなって思って。

ーーでも直したいと思った部分を直さなくていいってプロデューサーに言われて、なんか落ち着かない気がしませんでした? そうは言ってもミスしてるしなあ、と。

菅波:なんだろうな、むしろ楽しかったですねその方が。直したかったところがそのまま残る、それがこいつの演奏なんだ、こういう演奏なんだって意味で残るのは、演奏してる甲斐があるなって思って。何テイクも演奏していいテイクを選んだ甲斐があるっていうか、なんていうのかな。それも含めてストーリーじゃないか。ま、ほんとに全部直しちゃったら俺が弾かなくてもよかったりしますからね。

ーーミスも含めて自分であると。

菅波:また、すごいドライなんですよ音が。そこがまたちょっと面白いっていうか、モダンにチューンナップされてる。そこが現行でやってるプロデューサーさんだなって思ったんですけど。バラードでもリバーヴ深くしたりしない。ふわーっとさせない。全部の音がほぼ、歌もほぼ生で。だから最初ちょっとびっくりしたんですよ、こんなに生なんですかって(笑)。「いや、生々しい方が伝わるから」って。自分らだと、ポスト・プロダクションでリバーヴぶわーっとかけたりとか、場面ごとに歌のリバーヴを変えたりしたくなるんですけど。

ーーDVDに同梱されるドキュメンタリー映像は菅波さんが監督やってるっていうから、実際に作業する人は別にいて、あなたは口出してるだけかなと思ったら、自分でパソコン操作してやってるんですね。あれはちょっとびっくりしたんですけど、ああいう細かい作業が好きなんですね。

菅波:あーそうなんすよ、好きなんですよ実際(笑)。細かい作業が苦じゃないんで全然。

ーー(笑)なるほど。

菅波:なので今回の音としてはほんとに演奏も含めて原点ぽいし、ロックバンドっぽいとこ引き出してくれたなあとは思います。

ーーじゃあ自分たちがちょっと忘れかけてた事を思い出させてくれたという意味でも、亀田さんとはすごくいい出会いだったと。

菅波:すごくいい出会いでしたね。もっと理論上の話しをするのかなって思ってたら、理屈ばっか言ってたのはむしろ自分達の方で(笑)、亀田さんはもっとロマンを思い出させてくれたっていうか。

ーーでも多分亀田さんは誰に対しても同じ事言ってるわけじゃなくて、THE BACK HORNの魅力はこうなんだって事をちゃんと理解した上で言ってるわけですよね。

菅波:それはそうですね。THE BACK HORNのプロデュースとして多分最高のことをしてくれた気はしますね。

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