森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.15
くるりのベスト盤に感じた、音楽を生み出すことへの真摯さーー9月14日発売の注目新譜5選
その週のリリース作品の中から、押さえておきたい新譜をご紹介する連載「本日、フラゲ日!」。9月14日リリースからは、山下達郎、くるり、04 Limited Sazabys、DAOKO、Flowerをピックアップ。ライターの森朋之氏が、それぞれの特徴とともに、楽曲の聴きどころを解説します。(編集部)
山下達郎『CHEER UP! THE SUMMER』(SG)
前作『光と君へのレクイエム』以来、約3年ぶりとなるニューシングル『CHEER UP! THE SUMMER』は、音楽ファン待望のサマーチューン。サーフィン・ホットロッドのテイストを軸にしたリズム・アレンジ、エネルギッシュなボーカル、一人多重録音によるコーラス・ワークを含め、1980年代前半のリゾート・ミュージックとしての山下達郎の音楽(<夏だ、海だ、タツローだ>)を想起させる。「クリスマス・イブ」が収録されたアルバム『MELODIES』(1983年)から意識的に夏のイメージから脱却したことを考えると、ファンにとっては<30年ぶりに達郎の夏が戻ってきた!>ということになるのかもしれない。
そしてこの楽曲はおそらく、ライブを強く意識して制作されている。才能あふれる若きドラマー・小笠原拓海がバンドに参加した2008年以来、定期的にツアーを重ねている達郎。CDビジネスの終焉とコンサートに重点を置いた活動への移行という時代の流れのなかで彼が、ライブ映えする新たなサマーチューンの必要性を感じたとしても不思議ではないだろう。次はぜひ、ツアーバンドのメンバーとのスタジオセッションによる、ダンスチューンを中心したアルバムを聴いてみたい。
くるり『くるりの20回転』(AL)
新人のバンドに取材していると、かなりの確率で「将来的には“くるり”のようなバンドになりたい」という言葉が聞かれる。1作ごとに作風を大きく変えながら、熱心なファンは離れることなく、ミュージシャンからも尊敬され続けている、そういうバンドになりたいと。筆者は「それは素晴らしいことだけど、仲良しバンドのままだと“くるり”にはなれないよ」と密かに思っているのだが、結成20周年に際して制作され、デビュー曲「東京」(1998年)から最新作「琥珀色の街、上海蟹の朝」(2016年)までを網羅したこのベスト盤をじっくり聴いて、「人間関係よりも、徹底して音楽を優先する覚悟がないと、こういうバンドにはなれない」ということを改めて強く感じた。ギターロック、エレクトロ、クラシック、ワールドミュージックなどを行ったり来たりしながら自らの音楽性を広げ、深めてきたくるりは、デビュー当初から現在に至るまで“音楽に殉ずる”という姿勢を一貫させてきたのだと思う。若いリスナーにもぜひ、このバンドの変遷と進化を体験し、音楽を生み出す真摯で真っ当な姿勢を感じてほしい。
04 Limited Sazabys『eureka』(AL)
自ら主宰した大型フェス『YON FES』を地元・名古屋で開催、2017年2月には初の日本武道館公演が決定するなど、まさに破竹の勢いで躍進を続ける04 Limited Sazabys。混戦が続くバンドシーンのなかで頭一つ飛び出している感がある彼らは、現在の状況をさらに加速していくであろう、素晴らしいアルバムを作り上げてみせた。シングルのリード曲「Letter」「climb」に象徴されるメロディック・ポップ・チューンはもちろん、メンバー個々のプレイヤビリティがぶつかり合うような「Night on」、J-POP的情緒性が感じられる「mahoroba」、まさにディスコードしまくりの爆発パンクチューン「descord」、アルバムの最後を飾る感動的なバラードナンバー「eureka」まで、バンドのなかに存在していた音楽性を自由に解き放っているのだ。朝から夜、そして、新しい夜明けに至る時間の経過を表現したアルバム構成も見事。“我、見つけたり!”という意味を持つ「eureka」というタイトル通り、フォーリミは本作によって、バンドとしての存在意義をしっかりと掴み取ったようだ。