JKT48はインドネシアでなぜ成功した? 現地アイドル文化の特徴を読み解く

JKT48はインドネシアでなぜ成功?

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インドネシアで一番有名な日本人=仲川遥香

 JKT48でも大人気なのが、AKB48の3期生であり、2012年11月に同グループから移籍した仲川遥香だ。彼女は「ゴン」の愛称で親しまれている。現在はインドネシア語も流暢に操り、公演でも現地のテレビのバラエティ番組でもインドネシア語で話しているほか、すでに20本以上のテレビCMに出演している。JKT48のメンバーとの交流には言語の習得が欠かせないということで、インドネシア語を短期間であっという間に学習し、現在でも日に日に上達しているのだ。先述したように仲川もSNSを活用し、インドネシア語と日本語の両方で積極的に情報発信を行なっており、Twitterには120万以上のフォロワーがいる。

 また、仲川は映画内でこうも語っていた。「今のAKB48にいても、変われない。違うところで頑張るということでJKT48に行きたいと言った」。最初は秋元康総合プロデューサーも戸惑うほどの申し出だったらしいが、その選択は今の活躍をみると間違っていなかったといえるだろうし、今ではインドネシアで一番有名な日本人と言っても過言ではない。テレビでも仲川やJKT48を見かけない日はほとんどないし、現地のテレビ局のプロデューサーも仲川さんについて「インドネシア語の話し方がかわいいのが魅力的」と語っていた。

 もちろん、メンバーとの意思疎通もばっちりで、現地のバラエティ番組でも会話に困った様子は見られない。JKT48が来日した際には、彼女たちの通訳代わりにもなっている。AKB48から覚悟を決めてインドネシアに渡った仲川は、見た目のかわいさと破天荒なキャラクターとは裏腹に情熱的でJKT48のことをしっかり考えているメンバーだ。現在ではチームTのキャプテンとして、AKB48とJKT48で培った経験をもとに後輩の指導もしているし、そのキャラクターと発信力でJKT48をインドネシアで有名にした立役者といえるだろう。JKT48の選抜総選挙でも2位、3位と常に上位メンバーとして選抜入りしている。AKB48では3期生の妹キャラだった仲川だが、JKT48では「誰からも一目を置かれる存在」にまで成長し、グループ内とインドネシアで揺るぎない立ち位置を築いた。

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第二の仲川は登場するのか

 しかし仲川は、2016年2月27日にジャカルタで開催されたJKT48の『リクエストアワー』でJKT48からの卒業を発表した。会場内は大きな驚きともに騒然となり、涙するメンバーやファンの姿が多くみられ、現地のメディアでも大きく取り上げられた。仲川は2016年12月末までJKT48で活動を続け、「日本の皆さん、わたしはもうちょっとジャカルタで頑張っていきます! 見守っててくださいね!」と卒業後もインドネシアで活動していくことを明らかにしている。

 また、仲川は卒業前にJKT48で「伝説を作る」という目標を立て、2016年5月から6月の12日間で、ジャカルタからスラバヤまで約800kmの道のりを自転車で走破した。これは東京から広島までの距離とほぼ同じだが、道路の整備や暑さ、臭いなどは日本の800kmとは比べ物にならないくらい劣悪な環境を自転車で走行しきった。仲川の自転車走行は毎日TwitterやYouTubeなどでアップされ、その頑張る姿に多くの現地人が感動し、ジャワ島でも有名に。仲川がやってくるときには多くのファンや地元の人が沿道に応援に駆け付けた。

 その仲川は映画の中で、現在のAKB48グループのメンバーに向かって、「日本で暇しているなら、絶対に海外に行った方がいい」と海外グループへの移籍を本気で勧めていた。

 AKB48グループはマニラ、バンコク、台北でも姉妹グループを新設することを発表している。新興国は経済成長も著しく、これから人口も増加が期待されている。インドネシアは人口2億5,000万人以上で、国民の平均年齢は28歳。若者が多く熱気が溢れている。そして日本のことが大好きで、AKB48グループのこともネットを通じてよく知っている。経済成長著しいインドネシアの首都ジャカルタに拠点を置くJKT48は、同国の住民にとってはクールな存在だ。日本のように誰もが簡単にAKB48劇場に公演を見に行ったり、ライブや握手会に行けるわけではない。経済成長が著しいとはいえ、まだ経済格差が激しく、特に地方では貧困層も多い。まだその日の生活に追われている人もたくさんいるが、そのような貧困層でもスマホは普及しているし、テレビはよく見ているのでJKT48のことはよく知っている。インドネシアでJKT48の劇場やライブに出かけることができるのは、地方や都市部の貧困層から見たら憧れの生活だ。「自分たちもいつか金持ちになったらジャカルタでJKT48の公演に行って仲川さんを見てみたい」という現地の人が物凄く多いのだ。仲川さんやJKT48は本当に「スターのような存在」で、「会いに行けるアイドル」をコンセプトにしている日本のAKB48とは存在の位置付けが違うといえる。

 誰もが成功できる保証はないが、仲川が指摘するように、日本で暇を持て余しているなら海外で新たなチャレンジをした方がいいのかもしれない。日本では想像もつかないような大きなチャンスが広がっているのだから。この先、日本のAKB48グループから移籍となるメンバーは現れるのだろうか。

(写真提供=(C) JKT48 Project)

■佐藤 仁
シンクタンク研究員。ポップカルチャーやエンタメ・コンテンツが国際社会や日本経済に与える影響を研究。例えば日本とアジアのソフトパワーの源泉はどこにあり、これからどのように進化していくのかについてミクロ(個人単位)からマクロ(社会全体)まで幅広い視点から探求。

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