姫乃たま『音楽のプロフェッショナルに聞く』001 松永天馬(アーバンギャルド)

姫乃たま、松永天馬に作詞のコツを教わる「新しい自分の一面に出会って、掘り下げていかないと」

 音楽のこと、プロの人から学んでみたいと思いました。

 リアルサウンドで連載していた地下アイドルにまつわるコラムが、『潜行』という書籍にまとまって落ち着いた時、そう思いました。

 ここまで独学でやってきた私の作詞、もっと書き方があるんじゃないかな。最初の授業は、作詞。先生は詩人で作詞家の松永天馬さんです。(姫乃たま)

職業作詞家として

「歌詞って短いし、文字は少ないけど、その中にいかに遊びを詰め込めるか」

松永天馬(アーバンギャルド)

姫乃たま(以下、姫乃):えー、いま僕とジョルジュという音楽ユニットを組んでいるのですが、その新譜のために15分の曲をみっつ作詞しないといけなくて、非常に困っているのです……。正直なところ、これまで独学でなんとかかんとかやって来てしまったのですが、ここできちんとプロフェッショナルから作詞を学びたく……。

松永天馬(以下、松永):僕がプロフェッショナルですか! うーん、ものすごく当たり前な誰でも言いそうなことを言うと、まず曲をよく聴きこんで……あははは! 情景をイメージしてから、フックになるメロディに当てはまるワードを出して、そのワードを元に歌詞を広げ……。

姫乃:あーっ、いまそんな感じで作詞してます。間違ってなかったかも……! しかし作詞家にも、曲があって作詞できる人と、曲がない状態でも書ける人がいて、私は圧倒的に前者なんですが、天馬さんは後者ですよね。

松永:そうですね。でも、自分で曲を作る時はメロと歌詞が同時に浮かんでくることもありますし、人に歌詞を提供する時は曲が先です。歌詞ってなんとなく、ふわっと書けちゃう人もいると思うんですけど、職業的に作詞をする際に大事なのは、まず歌詞のモチーフになるアイテムを明確に決めることです。AKB48の曲を思い出して欲しいんですけど……

姫乃:あー、「Everyday、カチューシャ」「ポニーテールとシュシュ」……えー、ギンガム……

松永:ギンガムチェックでしたっけ。

姫乃:ギンガムチェック!

松永:女性アイドルだとファッションアイテムが使いやすいですね。作詞提供する時は、その人のモチーフとアイテムを決めると、とても作りやすいです。たとえば上坂すみれさんだったら、彼女は昭和のレトロなものが好きなので……アイテムはレコード。それから、すみれという名前がとてもハイカラなので、繋げて「すみれコード」にしました。すみれと言えば宝塚じゃないですか。すみれの花~♪ 宝塚の世界には実際に「すみれコード」なる隠語もあるんで、前者と後者をはめこんでタイトル決定。作詞はパズルみたいなものです。

姫乃:パズルはどうやって組み合わせいるんですか。

松永:これ、アーバンギャルドの「ワンピース心中」のメモなんですけど、パフスリーブとかノースリーブとかワンピースの関連ワードがたくさん書いてあって……実際の歌詞には使われていないんだけど、まずはとにかく言葉をいじくりまわしてます。連想ゲームって感じでしょうか。表記の仕方もいろいろありますよね。漢字で書くかとか、ひらがなかカタカナか、英語にするかとか。「ワンピワンピ」の繰り返し部分も、「Want Want」にならないかとか「Once Once」にできないかとか書き換えてある。僕は基本的にパソコンで書いちゃうんだけど、最初はイメージを広げるためにノートに書き出してみたり、縦読みにしてみたり。

姫乃:縦読み!

天馬:歌詞って短いし、文字は少ないけど、その中にいかに遊びを詰め込めるかってことだと思います。

作詞と自分の関係

「自分で書いた歌詞を歌うっていうのは恥ずかしいこと」

松永氏のノート

姫乃:作詞って時間をかければ良いわけではないと思いますが、時間をかけたほうがいい気もします。

松永:この「君にハラキリ」なんかは、ほんとに短時間で書けてしまったんだけど、昔、松本隆さんが新聞かなにかのインタビューで、「歌詞というものは短いけれども、ウイスキーが樽から一滴一滴垂れてきて、ある程度の量が溜まったらやっと出荷できる」という風に言ってました。それは本当にそうで、歌詞ってひらめいてから書き始めたら、1、2時間でほとんど書けてしまうんだけど、自分の中に言葉が一滴一滴溜まって書き始めるまでに時間がかかる。

姫乃:たしかに実作業よりも、それまでの時間のほうが長いです。でも時間をかけた詞よりも、ささっと書けた詞のほうが反応が良いことってありませんか。

松永:あります。あれは、リスナーが聴く速度の問題だと思うんですよね。こちら側が何年かけて作詞しても、聴く時は数分じゃないですか。いろいろ詰め込んでも、少し聴いただけだと拾いきれないんですよね。でも作詞って本質的には、一行一行に意味を凝縮すればするほど、良いものになると思います。悲しみが蓄積されて、感情の閾値に達した時に涙が一滴流れるのと同じで、その一滴をスポイトでシュッッ!!!っとやって、歌詞にするわけです。さっきはアイテムを決めるとか職業的な作詞の話をしましたが、まずは自分を掘り下げることなんじゃないかと。自分の辛い部分をよく吟味するというか……。

姫乃:ほかの何でもなく、辛い部分なんですね。

松永:うーん、僕はやっぱり辛くて恥ずかしい部分が重要だと思いますけどね。そもそも自分で書いた歌詞を歌うっていうのは恥ずかしいことなんですよ。ミュージシャンになりたい若者は自然とやっているけれど、本来はすごく恥ずかしいというか辛いことだと思う。

姫乃:私も歌い始めの頃は、人前で歌うことより、自分の歌詞を歌うことが辛かったです。どうですか、もう乗り越えましたか?

松永:いまも恥ずかしいですよ! 昔とは違う苦しみがありますね……。韻を踏んだり、リズムで面白くしたり、職業的な作詞の技術は増えたんですけど、自分をどんどん掘り下げないといけない辛さが。昔書いていた歌詞が、自分の地下一階とか二階だったとしたら、そこはもう掘り下げているので、もっと掘っていかないといけないじゃないですか。それに中二病を患ってた若い時に比べて、年取ってくるとさあ、言いたいことに一段落ついちゃうんですよね。どうですか、中二の頃に比べて!

姫乃:いやあ、一段落どころか、二段落も三段落もついて、ほぼ何もないですね。

松永:そうでしょう! 10代の時のように、世の中に対して何か言いたいみたいなことだけでは書けないわけですよ……! どんどん新しい自分の一面に出会って、掘り下げていかないと。アーバンギャルドはもう何枚もCDを出しているので、バンドもメンバーも成長したり、それに合わせてお客さんも成長したり年取ったり入れ替わったりもしているので、その変化に合わせて歌っていくのかなあ。最初は代表曲を作るにあたって、自分達の人となりを表現するために、水玉をアイテムに使ってみようと思ったんですよね。ヴォーカルの浜崎容子に水玉ワンピースの衣装でステージに上がってもらっていたら、お客さんも伝染したかのように、段々と水玉グッズを身につけるようになった。それで「水玉病」って歌を書きました。

姫乃:歌詞でセルフプロデュースするためにも、自分のことを掘り下げないといけないですね。いつもこの曲にはどんな歌詞が合うかということばかり考えていました。もっと自分のことを考えないと。

関連記事