柴那典「フェス文化論」 第13回

10-FEET主催フェス「京都大作戦」はなぜ特別な場所であり続けている? 2日間の熱狂を5つのポイントから解析

 10-FEETが主催する野外フェス「京都大作戦2016 〜吸収年!栄養満点!音のお野祭!〜」が、7月2日・3日、京都府立山城総合運動公園・太陽が丘特設野外ステージにて開催された。

 今年で9回目を迎えた同フェスは、2日間で延べ約4万人を動員。しかしその数字では測れない特別な雰囲気が、京都大作戦にはある。

 動員数だけで言えば、同じような規模の野外フェスは他にもあるだろう。ラインナップの傾向が重なるフェスも、きっとあるはずだ。しかし、あの場所にあるムードは、他の場所では決して味わえない。

 筆者が初めて「京都大作戦」を訪れたのは去年のこと。「すごい」という噂はその前から聞いていた。熱を込めてそれを語る人が周囲にも沢山いた。いわく、チケットが毎年アーティスト発表前に早々にソールドアウトする、お客さんが全員ゴミを拾って帰る、アーティストもほとんどが最後までバックヤードに残っている、と。確かにそうだった。筆者自身、これまで数々のフェスに足を運んできた。舞台裏を見る機会も少なくない。そういう視点で見ても京都大作戦は他のフェスとは一線を画している。

 では、京都大作戦は、実際のところ、何がどう特別なのか? それを2日間のアクトから見えた5つのポイントから振り返りたい。

憧れの場所としての京都大作戦

 

 まず1つ目のポイントは、いまや多くの若手バンドにとって京都大作戦が憧れの場所になっている、ということ。

 それをまず実感させてくれたのが、1日目に出演したヤバいTシャツ屋さん。「貴志駅周辺なんもない」などネタ満載の楽曲とユーモラスなメンバーの掛け合いで客を笑わせていた彼ら。実はこやま(Vo/G)が宇治出身で、高校生だった初年度の2008年から毎年客として京都大作戦に訪れていたという。憧れの舞台に立ち、感無量の表情を見せていた。

 04 Limited Sazabysもそうだ。Gen(Vo/B)は「尊敬と憧れの詰まった京都大作戦に最高の形で戻ってくることができました!」とステージ上で叫んでいた。京都大作戦にはメインステージの「源氏ノ舞台」とサブステージの「牛若ノ舞台」の二つのステージがあり、小高い丘がそれを隔てている。去年に「牛若ノ舞台」をパンパンの入場規制にしたフォーリミは一年でその丘を越えて「源氏ノ舞台」に立った。しかも彼らが地元・名古屋で開催した「YON FES」は京都大作戦の影響を受けていることを公言している。

 WANIMAもすさまじい盛り上がりだった。彼らも2年連続出場で去年に「牛若」を入場規制にしたバンド。評判はあっという間に広まり、一躍シーンのニューヒーローへと駆け上がった。2日目「源氏」のトップバッターをつとめた今年は、貫禄すら感じさせるステージ。京都大作戦がメロディック・パンクやラウド・ロックのシーンを活性化させていること、10−FEETがバンドシーンの後輩たちに大きな影響を与えていることを感じる。

ジャンルを超えたラインナップ

 

 そして、2つ目のポイントは、京都大作戦ではジャンルを越えたボーダレスなラインナップが実現していること。10-FEETが様々なアーティストと旺盛にコラボを繰り広げてきたこともあり、いわゆるラウド系のフェスとは違って、レゲエやヒップホップのシーンで活躍するアーティストも登場する。

 1日目には5年ぶりの出演となるライムスターが登場。「B-BOYイズム」〜「ザ・グレート・アマチュアリズム」〜「K.U.F.U.」とノンストップのメロディーで盛り上げ、新曲「スタイル・ウォーズ」でオーディエンスを熱く沸かしていた。

 2日目はFIRE BALL with HOME GROWNが登場。彼らも京都大作戦の常連だ。凄腕のバンドと4人の歌声が容赦なくテンションを上げ、「俺らはレゲエという音楽に生かされてここに立ってる」とピーター・トッシュやジミー・クリフの名曲をカバーしていたのも印象的だった。

 2日目のトリ前に登場した湘南乃風のステージも大迫力だった。フィールド後ろまでぎっしりと人が集まり、全員のタオルがグルグルと振り回される。ダンスホール・レゲエのグルーヴで否応なしにオーディエンスのテンションを上げていく。ヒット曲「巡恋歌」では10-FEETの3人も飛び入りし、「睡蓮花」でクライマックスを記録していた。

 ロックファンとレゲエファンが重なりあって一つに融け合う風景は、他の場所ではなかなか見れないだろう。これも京都大作戦ならではだ。

数々の「伝説」が生まれるステージ

 

 3つ目のポイントは、京都大作戦が数々の名演が生まれる場所になっている、ということ。京都大作戦は、ベテランのバンドマンたちにとっても本気を見せる場所になっている。その代表筆は皆勤賞のDragon Ash。「The Live」や「百合の咲く場所で」や「Fantasista」など熱狂必至のナンバーを惜しげもなく披露。「ロックフェスはバンドのもんじゃねえ、金払ってるお前らのもんだ!」と叫び、強靭なステージを見せていた。

 1日目のトリ前をつとめたKen Yokoyamaもそう。「Punk Rock Dream」から「10-FEETが作ってくれた場所をお前らが守るんだよ」と語って「This is Your land」を披露。「I Won't Turn Off My Radio」と続け、「Ricky Punks III」をプレイする前には自らのスタンスをオーディエンスに語りかける。パンク・ロッカーとしての矜持を示すようなステージだった。

 ROTTENGRAFFTYやG-FREAK FACTORYのような10-FEETの盟友バンドたちは思いのこもった熱いステージを見せる。そして初登場のバンドは爪痕を残そうと全力を尽くす。だからこそステージでは、数々の伝説が生まれる。今年はコミックバンドの四星球がかなりの反響を呼んでいた。メンバー4人が白塗りメイクで登場、「運動会やりたい」でオーディエンスを紅組と白組にわけて競わせたり、セキュリティをパンツ一丁にしたり、全力でオーディエンスを笑わせていた。

 また、2日目のトリに「牛若ノ舞台」に登場したThe BONEZも伝説の一つとなった。ステージの電源が落ちるトラブルに見舞われ数十分の中断となってしまった彼らだが、その中断時間を観客として見に来ていたCOWCOWが「当たり前体操」で繋いだり、Jesseと仲間のミュージシャンがメガホンでフリースタイルラップを披露してリカバー。なんとかステージを貫徹した。来年へのリベンジの期待も含め、フェスとバンドが物語を生んだ瞬間だった。

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