映画『バクマン。』音楽の驚くべき手法とは? サカナクションが手がけた劇伴を解説
状況内音楽と状況外音楽
そして、音楽大学を舞台にしたドラマなどで「実際に楽器を弾くシーン」に合わせて流れる音楽や、「店の中で店内BGMがかかっているシーン」などで使われる「状況内音楽」についても言及したい。これらの場合、誰もが知っている既存曲が使われると「状況内音楽」と認識されやすいが、そうでない場合は、店などのBGMと関係ないものである「状況外音楽」と区別しにくい場合が多い。「状況外音楽」とは、ストーリーの中で実際に聴こえていない音楽で、一般的には映像作品には状況内音楽より多く存在するケースがほとんどである。
そして、この映画でも物語の終盤に「状況内音楽」が出てくる。卒業式のシーンで流れる「旅立ちの日に」である。二人の主人公は卒業式に出席せずに教室に残っているなか、学校で実施中の卒業式で歌われている楽曲が、教室まで聴こえてきているという設定であり、「2人の主人公」と「その他の学校の生徒」という、少なくともこの映画においては役割が大きく異なっている人物をうまく対比させ、主人公を浮き立たせている効果が確認できる。
ここまで、映画『バクマン。』の中で使われている劇伴の手法の一部について考察したが、上記した内容にも関連していることとして、劇伴、映像共にスピード感の緩急が見事であることも記しておきたい。たとえば、週刊少年ジャンプが紹介をするシーンでは、劇伴のスピード感が段々と上がっていき、「ジャンプ歴代最高部数を記録」というナレーションに合わせて劇伴のピークが持ってこられている、というものだ。
こういった細かい音楽表現も合わさって、実在する要素とCGを混在させ、スピード感あふれる映像の世界観を引き立てた同作。改めてその完成度の高さに驚かされるばかりだ。
■高野裕也
作曲家、編曲家。東京音楽大学卒業。
「映像音楽」「広告音楽」の作曲におけるプロフェッショナル。
これまでに様々な作品に携わるほか、各種メディアでも特集が組まれる。
公式HP