花澤香菜の歌唱力は“驚き”に値する 栗原裕一郎の「かなめぐり」最終公演レポート
・アコースティックライヴという過酷な状況と歌手・花澤の実力
アコギとピアノだけがバックというのは、リラックスした雰囲気とは裏腹に、歌い手にとっては実力が露見してしまう過酷な状況である。北川のギターは、リズムを刻む役目も兼ねるためだろうカッティングを主体にしていたから、アレンジもシンプルにならざるをえず誤魔化しが効かない。
『Live Avenue Kana Hanazawa in Budokan』には特典映像として、2015年に行われた女性ファンだけのためのアコースティックライヴ「かなまつり」(「かなめぐり」と同編成)や、アコギ・ピアノ・ウッドベースによるスタジオライヴも収録されていて、それらからもなかば確信はあったのだが、「かなめぐり」で聴いた花澤香菜の歌声は見立てを裏切らないものだった。
歌唱は安定しているし、声量もある。声の通りもすこぶる良い。ウィスパーの箇所ですら音量があってよく抜けてくる。ニュアンスや歌い回しについても、Blu-rayで驚いたのと変わらぬ再現能力を目の当たりにできた。
特に印象的だったのはM9の「Trace」で、CDではガットギターのアルペジオが特徴的な曲だが、末永のピアノだけで演奏された。ピアノのみを伴奏に歌う花澤は、確固たる世界を築いていた。
あと個人的に推したいのは、振付がキュートなM12の「Merry Go Round」ね。あ、もちろんアンコールで披露されたデビュー曲の「星空☆ディスティネーション」や、まさかのダブルアンコールを含めて二度演奏された「We Are So in Love」などなど、どれもこれも良かったのですが、キリがないのでこのへんにしたい。
月並みだが、ライヴで聴くと印象は更新されるものだ。歌唱力という言葉が何を指すのかよくわからないけれど、ステージでこれだけのクオリティを危うげなく保っているのである以上、それはやはり歌唱力と呼ばれるべきパフォーマンス能力ということになるのではないか。何よりあの声質はやはり唯一無二だ。鈴木さんも一度ライヴで聴いてみるといいんじゃないかな。
ところで、アンコールのMCで「実はね、「かなめぐり」の最中にも楽曲制作をしていまして…」と花澤が切り出し、花澤作詞、北川作曲で新曲を何曲か制作中であることが発表された。おそらく先日発売された「透明な女の子」の次のシングルになるのではないかと思われる。
「透明な女の子」は、この「かなめぐり」ファイナルの4日前、2月24日にリリースされた9thシングルで、空気公団の山崎ゆかりが楽曲からヴィジュアル、映像までトータルでプロデュースしている。「かなめぐり」では披露されなかったが、CD購入者から抽選で招待されたお客さん限定の空気公団とのトーク&ミニライヴが4月3日に行われるので、そこで初演されるはずである(応募はもう締め切られている。僕は落選しました…)。
6thシングル「ほほ笑みモード」から始まった花澤香菜の音楽活動3rdシーズンはこの「かなめぐり」ファイナルで一区切り、「透明な女の子」は4thシーズンの幕開けに位置づけられるシングルになるそうだ。
一聴して、音域がやや低く抑えられていることに気づく。それにともなってか声のキャラクターからは、可愛らしさにも増して大人っぽさが感じられる。大人っぽいといったって、この「かなめぐり」でもファンから誕生日(2月25日)を祝福されていたが、花澤香菜は27歳になった大人の女性なのだ。年齢に見合った落ち着きとかしっとりとした雰囲気と評するべきところだろう。4thシーズンの方向性を示唆しているのかそれはわからないけれど、いずれにせよ、これからも素敵な歌を楽しみにしています。
■栗原裕一郎
評論家。文芸、音楽、芸能、経済学あたりで文筆活動を行う。『〈盗作〉の文学史』で日本推理作家協会賞受賞。近著に『石原慎太郎を読んでみた』(豊崎由美氏との共著)。Twitter
■花澤香菜「かなめぐり〜歌って、読んで、旅をして〜」セットリスト
01.ダエンケイ
02.Eeny, meeny, miny, moe
03.花びら
04.I ♥ NEW DAY!
05.ブルーベリーナイト
06.CALL ME EVERYDAY
07.flattery?
08.曖昧な世界
09.Trace
10.Nobody Knows
11.Night & Day
12.Merry Go Round
13.恋する惑星
ENCORE
14.星空☆ディスティネーション
15.We Are So in Love
16.あるいていこう(カントリーVer)
ENCORE2
17.We Are So in Love
■オフィシャルサイト
http://www.hanazawakana-music.net/