矢野利裕のジャニーズ批評

Sexy Zone「カラフルEyes」に隠された“まさかの展開”とは? 矢野利裕が音と歌詞から読み解く

 Sexy Zoneの「カラフルEyes」は、一聴してぜいたくな作りだ。というのも、音数の多いこの曲は、全編生オーケストラで演奏されている。とくに、生楽器でのホーンとストリングスは、それだけで豪華に響く。

 プログラミング技術によって、低予算でクオリティの高いサウンドをいくらでも作れてしまう現在において、全編にわたって生楽器であるということは、それだけでなんらかのメッセージ性を感じる。筆者が抱いたのは、良い意味での歌謡曲感である。すなわち、Jポップ以前の、生バンドをしたがえて歌われていた、あの歌謡曲感だ。Sexy Zoneに対しては、ドレスアップがわざとらしくならない、という点において、少年隊的なきらびやかな雰囲気を担っていると思っている。その少年隊が「仮面舞踏会」でデビューしたとき、歌番組にはいまだ、生演奏を披露するバンドがバックにいた。「カラフルEyes」のアレンジをしているのは、少年隊の「仮面舞踏会」を手がけた船山基紀だが、「カラフルEyes」もまた、そのような時代の雰囲気がシミュレートされているように思える。曲調としては、少しフィリー感の入った70年代ソウルだが、もう少しポップス寄りで、モータウンあたりを感じさせる。

 ジャニーズで言えば、ブラック・ミュージックの意匠を積極的に取り入れた、90年代前半~なかばのSMAPに近いか。シンプルなメロディもSMAPのようだ。その意味で、少しマニアックな視線で往年のジャニーズを見ていた人などは、気に入るかもしれない。と、このように書いていると、ノスタルジックなだけの楽曲かのように思うかもしれないが、もちろんそれだけではない。とくに言葉の選びかたと乗せかたは、凝っていて面白い。リスナーの特権として、この曲における「うたのしくみ」(細馬宏通)を、自由に考えたい。

 歌詞カードを見ながらでないとわからないが、1曲を通じて強調されているのは、「Eyes」と「愛す」が発音的に掛かっているということだ。つまり、この曲の中心にあるのは、歌詞の一節を借りれば「瞳(Eyes)で愛す」ということである。このとき重要なことは、「瞳で愛す」ということに、「言葉では明示しない」ということが含意されている、ということだ。すなわち、「言葉では明示せずに、瞳(Eyes)で愛する」というのが、この曲のテーマである。

 だとすれば、こんな見事な出だしはない。歌詞を確認せず、最初に音のみで聴いた、筆者のようなリスナーのうち、いったいどれほどの人が、最初の「Ah~i‐sh[無声音] Ah~i‐sh[無声音]」を「愛す愛す」という言葉として認識していただろうか。さらに言えば、「愛す」に続く「Loving you」の直前、「You said」が挿入されていることに、どれほどの人が気づいただろうか。つまり、この曲は、最初の時点ですでに、「愛す」を言葉で明示しない、という意志を持っているのだ。だからこそ、最初のメロの出だしは、「今僕のことを好きだと言ったの?」という歌詞になっている。実はイントロの時点で言っていたのだ、「愛す」と。したがって、この歌詞には、ふたつの主体が存在している。すなわち、周到に隠しながら「愛す」とささやき続ける主体と、それを必死に聴き取ろうとする主体という二者だ。後者の主体は「Show me your love(あなたの愛を見せて)」と願うが、前者の主体はそれをなかなか見せようとしない。「カラフルEyes」という曲は、そのような二者の「愛=eye」をめぐる闘争の場となっている。

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