PJハーヴェイ、ディラン・ルブラン、入江陽……岡村詩野が選ぶ、2016年初頭に心を震わせた5枚

 息子と父親、という数奇な関係でもう1枚紹介したいのが、米シンガー・ソングライターの隠された秘宝、スコット・フェイガンの68年のファースト・アルバム『South Atlantic Blues』のリイシュー。スコットはもともとドク・ポーマスらとも交流があったように、ブリル・ビルディングで商業作曲家を志していたそうだが、端正な風貌も相俟ってか、米アトコからこのアルバムでソロ・デビューするに至った。黒っぽいテイストを持ったヴォーカルといい、適度にホーンが挿入されたアレンジといい、ブルー・アイド・ソウル路線を体現したモダンで垢抜けた仕上がりに今聴いても感動させられる。そう、そして驚くことに、彼の息子はマグネティック・フィールズのスティーヴン・メリット。2013年に公開されたドク・ポーマスのドキュメンタリー映画でのプレミアで再会するまでスコットとスティーヴンとは全く交流がなかったそうだが、本作のブックレットではその二人の対談(というか、スティーヴンによるスコットへのインタビュー)が掲載されている他、母親を含む3人の“親子”写真も拝める。これは日本盤でのリリースをぜひどこかが検討、動いてほしいものだ。

 最後はブルー・アイド・ソウル指向の日本代表若手シンガー・ソングライター、入江陽の新作『SF』。昨年リリースされた『仕事』は大谷能生が全面プロデュース、ラッパーや女性シンガーも参加した、ケンドリック・ラマーやディアンジェロらと共振するかのような内容だったが、今作はともすればナンセンスとも思えるほどにキッチュなポップ・アマルガム作品へと大きく舵を切っている。アース・ウィンド&ファイアー、プレフューズ73、フライング・ロータスなど背後にある参照点は多く散見できるものの、最終的に彼が暮らす東京は新大久保という、怪しげな都会の闇、垢、痛みなどをユーモラスに切り取ったような、特有の臭気が感じられるストリート・ファンタジーな作品になっているのが面白い。大島輝之、カマクラくん、hikaru yamadaら彼の周辺仲間がソングライティングで貢献しているのにも注目したい。

 というところで今回の5作品は定員いっぱい。アニマル・コレクティヴの新曲「FloriDada」がとんでもなく素晴らしいのでこれにも触れたかったのだけれどスペースがないため、ニュー・アルバム『Painting With』がリリースされたタイミングなどでまたぜひ。

■岡村詩野
音楽評論家。『ミュージック・マガジン』『朝日新聞』『VOGUE NIPPON』などで執筆中。東京と京都で『音楽ライター講座』の講師を担当している(東京は『オトトイの学校』にて。京都は手弁当で開催中)ほか、京都精華大学にて非常勤講師、α-STATION(FM京都)『Imaginary Line』(毎週日曜日21時~)のパーソナリティも担当している。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「新譜キュレーション」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる