PJハーヴェイ、ディラン・ルブラン、入江陽……岡村詩野が選ぶ、2016年初頭に心を震わせた5枚

 去年は後半あまりこの新譜キュレーションのコーナーに登場することができなかったですが、今年はまたたくさんの新作を紹介していきたいと思っていますので何卒よろしくお願いします。今年も多くの素晴らしい作品との出会いを多くの方々と共有できますように。

 さて、まず今年に入って最も気持ちが激しく揺さぶられ、高揚させられたのがPJハーヴェイのニュー・シングル。1月21日、BBC Radio6の16時台の番組で初オンエアされたその「The Wheel」は、“真性ブルーズ”と呼ぶに相応しいポーリー・ジーン・ハーヴェイの怒りと哀しみが熱情的に沸点まで達したような曲だ。ハンドクラップでビートが重く激しく刻まれる横で高らかに響くサックスとギターのわななきは、まるで戦場で命を失われていく子供達の叫びを伝えているかのようだし、後半に 繰り返されるゴスペル風の“And Watch Them Fade Out”のコーラスはその現状を嘆いては祈祷しているようでもある。言わば、ブラインド・レモン・ジェファスンとスーサイドを両脇に抱えたようなこのフィールド・ハラー的鎮魂ブルーズが収録されたニュー・アルバム『The Hope Six Demolition Project』は、4月15日リリース予定。2011年の前作『レット・イングランド・シェイク』も母国イギリスへの愛とジレンマを綴った大傑作だったが、衝撃のデビュー作『ドライ』から実に24年、46歳を迎えたポーリーは今再び絶頂期に入っている。

  そんなポーリーが英国白人としての贖罪を攻撃的な形にする表現者なら、ヨークストン/ソーン/カーン名義で届けられた『Everything Sacred』は、英国の民族的クロスオーバーをあくまで伝統的なフォーク・ミュージック・スタイルからひたすら深く掘り下げることで歴史ある国としての豊かさ、包容力を伝える重要作だ。現代のスコットランド随一のフォーク・シンガー、ジェームス・ヨークストンと、インドの伝統的な弦楽器であるサーランギーを演奏するシンガーのスハリ・ユサフ・カーン、そしてアイルランド出身のジャズ・ウッドベース奏者のジョン・ソーンの3人はそれぞれ異なる民族であり異なるバックボーンを持つが、決して郷愁感ある美しいメロディック・フォーク・スタイルだけに終始することなく、ミニマルに淡々とリフを繰り返す演奏を随所に挿入。スコットランド、北アイルランド、ウェールズといったエリアのフォークロア・ミュージックの深層を丹念に描いている。ブックレットに “Women of the world,take over”と、スコットランドの詩人/ソングライターであるアイヴァー・カトラーの作品(ジム・オルークもカヴァーした)のタイトルがあしらわれているの も感動的だ。

  さて、続いてはアメリカに飛んで、ルイジアナ出身のシンガー・ソングライター、ディラン・ルブラン(Dylan LeBlanc)の『Cautionary Tale』。昨年末に公開された先行曲「Cautionary Tale」が素晴らしかったのでアルバムを首を長くして待っていたところ、これはえらい大傑作が誕生したと驚きを隠し切れない。ディラン・ルブランはマッスル・ショールズの名プレイヤーで自身もカントリー・ロック~AOR調の名ソロ作を残しているレニー・ルブランの息子。後にピート・カーと組んでルブラン&カーとしてヒットさせるそんなレニーの血筋をしっかりと受け継いだアメリカーナ・スタイルの過去作品も素晴らしかったし、エミルー・ハリス、ルシンダ・ウィリアムスら先輩との交流が彼を作品ごとに成長させてきた印象もあったが、ここではニール・ヤングあたりをも脅かすような彼の人間味溢れるソングライターとしての躍動、表情豊かなヴォーカリストとしての説得力がこれまでになく鮮やかに伝わってくる。加えて、今作はブリタニー・ハワードとザック・コックレルというアラバマ・シェイクスのメンバーが参加、バック・アップ。いなたい南部風味を残しながら、洒脱な演奏を纏った仕上がりは現代最高のアメリカン・ルーツ・ミュージックと言えるだけのものだ。

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