『hollow world』リリースインタビュー

ぼくのりりっくのぼうよみが語る、ネットと音楽のリアル「僕自身すぐにコロコロ変わっちゃう」

 17歳の現役高校生ラッパー/ボーカリスト、ぼくのりりっくのぼうよみが1stアルバム『hollow world』で12月16日にメジャーデビューを果たす。抜きん出た歌唱力とラップのスキルを発揮すると同時に、抽象度の高いリリックを自在に操る本作は、デビュー作の次元を完全に越えている。シリアスな作品世界を生み出しながらも、JPOPシーンを席巻しそうなチャーミングな歌声を併せ持つ--ぼくのりりっくのぼうよみとは一体何者なのか? 初めてのインタビューでは、音楽を始めたきっかけから歌やラップ、言葉に関する考え方、さらには「別の窓を作りたい」という今後の活動についても話を聞くことができた。

「気づいたら『あれ? 大人がいっぱいいる』みたいな」

ーー1stアルバム『hollow world』を聴かせてもらって、2つの点ですごいと思いました。ひとつはJ-POPとしての可能性も感じさせるラップと歌の高いスキル、もうひとつは奔流のような言葉、リリックの世界です。まず「ぼくのりりっくのぼうよみ」と名乗り始めたきっかけは?

ぼくのりりっくのぼうよみ(以下、ぼくりり):明確に覚えてはいないのですが、たぶん2012年の終わり、高校1年生くらいだったと思います。最初に曲ができて、ニコニコ動画に投稿しようかな、と思ったときに、初めて名前について考えて。それが夜中の1時半とかで、眠いから早く動画を上げて寝たいと。そこで、適当に自分の特徴みたいなものを考えて、「めっちゃ棒読みみたいな気がする」ということで、この名前にしました。

ーーすごくインパクトのある名前ですけど、実際の楽曲は「棒読み」ではないですよね。

ぼくりり:今はなくなっちゃいましたけど、最初期はそういう感じがあったんです(笑)。

ーーなるほど。そもそも音楽を作り始めたきっかけについても聞きたいのですが、録音を始めたのは、中学生くらいでしょうか。

ぼくりり:そうですね。最初に音楽にガンガン触れ始めたのは中学生のころ、インターネットを通してです。録音を始めた当初は、ただ「歌ってみた」という感じ。ボカロの曲をいろいろ歌っていて、ハチ(米津玄師)さんの「ドーナツホール」なんかは、自分としては一番うまいと思うんですけど、評価はそんなに……という感じで(笑)。

ーーラップミュージックに出会ったのも、やはりネットを通じて?

ぼくりり:はい。今はちょっと衰退してしまっているんですけど、インターネットでラップをするコミュニティ、ニコニコ動画だったら「ニコラップ」が盛り上がっていて。特にVACONっていう人がヤバかったんですよ。その人とコラボするなど、ちょっと仲良くなって、「ラップやってみれば?」と。それがきっかけですね。

ーーそもそもラップと歌のスキルはどうやって身につけたんですか。

ぼくりり:とにかく、ネットでめちゃくちゃ聴いていましたね。ただ、自分の場合は土壌として最初に歌があったから、こういう形になっているんだと思います。最近はそういうものが好きだし、まったく揶揄するわけではなく言うんですけど、最初からいわゆるJヒップホップとか、「YO!YO!」みたいなものをずっと聴いていたら、こうなってはいなかったかなと。あくまで音階として合っていて、リズムもよくて気持ちいい、たまに韻も踏んでる、みたいな感じ。リリックをつくる上での優先順位が、ほかの人と違うのかもしれません。

ーーメロディやリズムの気持ちよさが先にあると。確かに2曲目の「パッチワーク」なんかは歌モノ、ポップスと言ってもいい楽曲だと思います。とはいえ、ラップもかなりうまくて、いろんな作品を聴いて吸収していった部分もあるんですか。

ぼくりり:最初はインターネットを見ているだけだったんですけど、この1~2年はメジャーな作品を聴くことも増えていますね。AKLOとか、RHYMESTERとか。

ーーただ、ヒップホップの流れを順を追って聴いてきた、ということではないと。

ぼくりり:全然ないです。ラップって、聴いているだけでうまくなるんですよ。歌はのどを鍛えたり、腹式呼吸を覚えたりいろいろあるじゃないですか。でもラップは、リズムが自分のなかにあれば、それをトラックにはめて、言葉を乗せていけば、誰でもつくることはできる。問題はリズムの引き出しを自分のなかにどれだけ多く持っているかだから、ネットでも聴きまくっていたらできるんじゃないかと思うんです。それと、あまり流行りに乗っかっていると、例えば海外の翻訳になって終わっちゃうかもしれない。それなら元の曲を聴いた方がいいような気がするし、日本語にしたときの面白さもあるんでしょうけど、リズムだけ体に入れて、もっとオリジナルなものをやったほうがいいかな、と思ってます。SALUとか流行っているしメッチャ好きなんですけど、同じことをやるんなら、僕は必要ないし。

ーーヒップホップは歴史的にコミュニティを重視してきたけど、今作を聴くと、なにかを“レペゼン”している感じもないですよね。

ぼくりり:そうですね。地元を代表するみたいな感覚はないし、友だちはいても、そこに音楽が関係あるのか、という感じ。レペゼン・インターネットということでもないし……ゆとり世代だからですかね、どこどこを盛り上げるために、みたいな意識がなくて。そもそも自分がやっているジャンルもよくわからない。自分ではラップだと思ってやっているんですけど、どう捉えられても別にいいかなって。

ーー最初は歌から入ったということでしたが、そこからラップに入ったのは、歌だけでは表現できないことがある、ということでしょうか?

ぼくりり:ラップは言葉の数を詰められるのがすごい利点だと思うんですよね。あと、韻とか“かぶせ”で、リズムが強調しやすい。歌はメロディを強調して、ラップはリズムを強調する……僕はそのどっちもやりたい、っていう贅沢な考えなんです。

ーーそんなネットで音楽を発表するなかで、アルバムをつくって17歳でメジャーデビュー、というところまで想定していましたか?

ぼくりり:いえ、ぜんぜん。気づいたら「あれ? 大人がいっぱいいる」みたいな感じで。「曲を選んで」と言われても、最初は「僕のことなんですか?」という感じでした(笑)。

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