冬将軍が綴る“振り文化”クロニクル

氣志團、金爆、GLAY、ハロプロ、米米CLUB……日本独自の“振り文化”が定着した背景を探る

アイドルの“振りコピ”

 ヴィジュアル系と同様に特異な文化のあるアイドルシーン。掛け声や独特の振りを行う応援スタイルは、70~80年代より熱狂的なファンによる「親衛隊」などにより発展してきた文化であるものの、2000年代に入って多様化し、アイドルブームとともに、“ヲタ芸”と呼ばれ広く認知されるようになった。

 これまで記事内で例にあげた動画は、演者とオーディエンスの動きが対になっていることが解るだろうか。演者が右に動けば、ファンは左に動く、つまりステージと客席が“鏡あわせ”状態になっている。だが、アイドルのコンサートでは、演者とまったく同じ動きをする場合がある。ハロー!プロジェクトのコンサートにおける振りがそれであり、“振りコピ ”と呼び、ハロプロ以外の多くのアイドルや声優の鏡あわせ状態を“ミラー(演者ミラー)”と区別している。ただ、それを意識しているのは、その文化に精通している人だけであり、ヴィジュアル系ファンなどは、特に左右を意識しているわけではない。ロックやポップスにおける手を振る行為もすべてミラーである。振りを真似る、見せることを前提したものではない場合、反射的な本能としてはミラーのほうが自然なのかもしれない。

 藤本美貴「ロマンティック 浮かれモード」(2002年)をはじめ、ヲタ芸を広めた一因でもあるのがハロプロファンである。だが、多くのアイドル現場で目にする「タイガー、ファイヤー、」など叫ぶヲタ芸の定番である“MIX”を「楽曲と関係ないもの」などとして、打たないのもハロプロファンだ。振りコピはファンがコンサートを楽しむために、独自に発展してきたハロプロ文化の象徴でもあるだろう。印象的な振付けが多く、通常のミュージックビデオとは別に、一曲通して引きのカメラで構成される<Dance Shot Ver.>が制作されていたことも大きい。中でもBerryz工房はデビューから活動停止まで、キャッチーでインパクトのある振付けに徹していた面も見られ、男女問わずファンが振りコピする光景は圧巻であった。

ハロプロ&Berryz工房の振りコピ文化の象徴ともいえる「cha cha SING」フラッシュモブ風MV

「日本で最も楽しいライブ」の振りコピ

 ハロプロ以前の振りコピといえば、爆風スランプ「東京ラテン系セニョリータ」(1991年)の、当時“振付師”としてブレイクしたラッキィ池田による日本武道館1万人の振り付けミュージックビデオが話題を呼んだが、それより前にファンの自発による「元祖・振りコピ」といえるコンサートを展開していたアーティストがいた。「日本で最も楽しいライブ」と評される米米CLUBである。当時は“振り真似”と呼ばれており、ミラーではない。「ファンレターの100%が女性」というシュークリームシュの振り真似するファンで埋め尽くされる会場は壮観である。当時バンドとしては異例だった振付けビデオも販売され、ファンがメンバーの衣装を真似て自作し、会場に向かうというコスプレのはしりでもあった。

 「ファンを含めた文化が米米CLUBである」という、観客を巻き込んでいく手腕は特筆すべきところである。ライブ会場はステージと客席が一体となる空間として考えられており、デビュー当初より警備スタッフもステージの前柵も置かなかった。だからこそ生まれたファンの応援スタイルが多い。近年“タオルミュージック”とも呼ばれる頭上でタオルを回す行為(元はレゲエ発祥の“プロペラ”という「最高!」の意思表示を表すもの)よりもっと前から米米はハンカチを回していた。客席でタオルなどを“回す・振る”行為は禁じられていた時代である。2006年の再結成後のライブ会場には警備スタッフがいたが、ライブが始まると踊り出し、仕込みの振付要員だったのはさすがである。

海外に広まる日本の応援スタイル

 そんな日本独特の応援行為であるが、プロ野球に代表される、楽器を持ち込んで歌い、観客が一丸となる応援スタイルも欧米では珍しいものであり、外国人観光客が東京ドームや甲子園で野球観戦することが密かなブームにもなっている。そして、日本の応援スタイルのルーツともいうべきものも、海外から注目を浴びている。ヨーラン(長ラン)姿の伝統的な「応援団」だ。東北各地の応援団のOBが集まって組織される社会人応援団「青空応援団」は、フランス遠征を果たし、JAPAN EXPOでも話題を呼んだ。

フランス凱旋門より

 手旗による演舞をはじめ、ヴィジュアル系の振りや、アイドルファンの応援スタイルも応援団が祖といってもいいだろう。

YOSHIKIを応援する青空応援団(JAPAN EXPO 2014より)

 今や海外でもヴィジュアル系バンドのコスプレをしてヘドバンしたり、ペンライトを振りながらヲタ芸を打つ外国人も多い。音楽とともにそうした日本独自の文化が、慣習のない海外に伝わっているのである。興味のない人からは異様にも見える光景でもあるが、海外から「世界で類をみない愛のある応援スタイル」と評されることもあり、感慨深い。

 ノリ方や応援スタイルは決まっているものでも、強要するものでもない。一体感の一方で、同一空間における「アーティスト対自分」という1対1の構図を味わえる貴重な時間でもある。アイドルファンの中では熱狂的な応援と、周りのことを気にせずステージだけを目に焼き付けておきたい“地蔵”スタイルが共存している。楽しみ方は個人の自由でなのである。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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