シングル『花』インタビュー

a flood of circle佐々木亮介が表明する、“ロックンロール”への危機感「一番ポップな部分から、バンドが置き去りにされてる」

 a flood of circleが11月4日にシングル『花』をリリースした。様々な状況を乗り越えてきたバンドの歩みと未来にかける意気込みを描き、代表曲となるべく作られた意欲作だ。

 ただ、今回のインタビューは、単にこの曲の制作状況やバンドの現状を聞いたものとは違う内容のものになっている。テーマは、バンドを率いる佐々木亮介が今の音楽シーンにおいてのロックンロールを巡る状況をどう見ているか。そこでどんな挑戦をしようとしているのか。結果、彼の持つミュージシャンとしての批評性の高さを浮かび上がらせる記事になったと思う。

 ジ・インターネットから高田渡まで、数々な固有名詞が飛び交うインタビュー。彼らのことをよく知らない人も、是非読んでみてほしい。(柴那典)

a flood of circle - 花

「日本のロックンロールとして何をやるのか」

――今回の取材では、a flood of circleというバンドについてだけではなく、佐々木亮介さんが感じているロックンロールの現状と未来についても語ってもらえればと思っています。

佐々木:はい。よろしくお願いします。

――まず、今回リリースされる「花」は、バンドの歩みを歌詞のテーマにした非常に重みのある曲だと思うんですが、なぜそういう曲を作ろうと思ったんでしょうか。

佐々木:a flood of circleは来年で結成10周年になるんですけれど、うちのバンドは今年だけでもギターが3人変わってるんです。今年は事務所も変わったし、今までもいろんなことがあった。

――ですよね。メンバーの変化も含めていろんな荒波を乗り越えてきた。

佐々木:だからこそ、来年の10周年は景気よくいきたいんですね。楽しい事実だけで固めていきたい。で、俺は来年で30になるんですけど、バンド10年、人生30年やってきた中で、一つ、ちゃんと筋を通して核にできる曲を作りたかったんですよね。ここまでの10年を振り返ってみて、たとえばライヴでずっとやってきた曲、聴いてる人たちが育ててくれた代表曲もある。それは誇りだと思うし大切なものなんですけれど、俺は燃え尽きたいタイプじゃなくて、長く続ける方が格好いいと思うタイプなので。なので、バンドの次の10年も見据えて、ちゃんと意識して代表曲を作りたいと思ったんです。そう思って「花」を作ったんですね。

――なるほど。シングルとしてリリースしたというのもそういう意志の現れなんでしょうか。

佐々木:そうですね。そもそも、今の時代にシングルを出すということ自体がどんどん難しくなっていて。レコード会社の都合もあるし、シングルを買う人も減っている。俺らは別にタイアップもないし。でも何故出すかって言うと、バンド活動に一つの節目の橋を渡したかったから。で、そこに向かって曲を書こうと思ったら、重くなっちゃったっていう(笑)。それでも「ここまでの全部を一回書いちゃおう」と思ったんですね。

――a flood of circleって歌詞から先に書くパターンと曲から先に書くパターンと、両方ありますよね。これはどちらから?

佐々木:今回は歌詞からですね。曲を作るためのプロトタイプを死ぬほど作って、もう出てこないっていうところまで行って、そこで完成したのがこれだったんです。実は最初は曲調も違っていて。8分の6拍子の、ゆっくり大きいビートに乗った曲だったんです。

――完成形とは全然違いますね。

佐々木:そうですね。そこは「日本のロックンロール」というのがキーワードになりましたね。ロックンロールってすごく抽象的なジャンルで、いろんな音楽が付随してる。それによってカラーも変わってきている。だから、たとえば「アイリッシュ・パンク」みたいなものと同じように、「ジャパニーズ・ロックンロール」もあると思っていて。それを引き受けようと思った。a flood of circleが日本のロックンロールとして何をやるのかを掘り下げた感じなんです。海外の音楽に刺激を受けるというより、自分たちがここまで10年かけて作り上げた真髄を確かめるのが目的だったので。

――日本のロックンロール、というと?

佐々木:まずひとつ言えるのは「ちゃんとサビがある」ってことだと思う。だから今回の曲はサビで転調している。目立たせるために半音キー上がって、サビが終わったらキーが戻るんです。そういう曲構造って、海外のロックバンド、英語で「Rock 'n' Roll」と言ってる人は作らないんですよね。

――そうですよね。向こうにはそもそもサビという概念がない。バース・コーラス・バースですからね。

佐々木:そういうところは意識的にこだわってますね。展開とか、リズムとか。a flood of circleらしさ、自分たちがやってきた日本語のロックンロールのあり方みたいなものを極めようと思って作ったという感じです。最初はもっとフォーキーな、ゆったりテンポに乗せてボソボソ喋っていくような曲だったんですけど、a flood of circleがやってる「らしさ」を選んだ。俺らは自分たちのスタイルとして、基本的に感情を爆発させるようなタイプの音楽をやってるので。

――なるほど。今話してもらった「らしさ」を選んだということの背景には、バンドの縦軸と横軸があると思うんです。まず「縦軸」というのは、今語ってもらったようなバンドのこれまで歩んできた道のりのこと。そして「横軸」というのは、シーンを見回した上でバンドがどうあるべきか、ということ。

佐々木:時代性ということですか?

――そうですね。今の海外と日本でのロックンロールという音楽が迎えている状況を佐々木さんがどう見ているか。

佐々木:僕がいち音楽リスナーとして感じているのは、横軸も二つあるということなんです。洋楽的な感覚でロックンロールというキーワードを紐解くのと、日本でフェスによく出るようなバンドの感覚としてのロックンロールっていうのはちょっとニュアンスが違うと思っていて。

 

――今回のインタビューではそこを話していこうと思うんですね。その二つのうちの、まずは洋楽から。佐々木さんは今の海外の音楽をかなり幅広く聴いているほうだと思うんですけれども。

佐々木:洋楽で言うと、今自分が感じていることとしては、いわゆる「ロックンロール」っていう言葉の解釈を、もうちょっとブルース・ロック的に捉えている人の動きが見えている感じがしますね。それも、ソロシンガーがそれをやっているパターンが多い気がする。たとえば去年にラフ・トレードからデビューしたベンジャミン・ブッカーとか。

Benjamin Booker - Violent Shiver

もしくは、ザ・ヘヴィーみたいに大所帯でやっているタイプもいる。

The Heavy - Same Ol'

どっちもクラシックなロックンロールをやっている人たちだと思うし、その流れはあると思うんです。でもそれは、ゼロ年代のロックンロール・リバイバルとはまた違って、さらに古いことをやっている感じがする。ブルースとかリズム&ブルースを蘇らせている。

――そういうものはどう評価しています?

佐々木:めちゃくちゃ好きですよ。ただ、俺が通ってきたストロークスとかリバティーンズの頃の感じとはやっぱり違いますね。何が違うかと言うと、青春のきらめきのようなものがない。すごく成熟した、大人の音楽をやっている感じがする。キッズが自分の青春を重ねられるようなバンドがなかなかいない気がする。一方で、やっぱり日本のロックフェスにいくと、青春っぽく輝いてるバンドが沢山いる。そういうバンドには、みんな、ちゃんとペルソナがあって。

――ペルソナがあるというと?

佐々木:キャラクターがある。それに、サービス精神がすごくあると思うんです。「こうやったら盛り上がりますよ」という。それは俺が思うロックンロール的な価値観とはちょっと違うんですよね。ロックンロールってあくまで「俺はこうだぞ!」ってのをドーンと見せて「お前どうなの?」っていうもので。わかりやすくガイダンスを提示するものではないんですよね。でも日本のフェスで盛り上がってるのは、そういうものではない。

――日本のフェスではオーディエンスに「こうやって盛り上がろう」っていうのがわかりやすく提示されている。

佐々木:はい。それが良いか悪いかではなく、事実としてそうだなあと思います。だから、ロックンロールっていう言葉から意識するものが、海外と日本で違ってきてしまっていて。でも、どちらにも「青春感」というものが存在していない。

――なるほど。

佐々木:洋邦問わず、そう思いますね。ロックンロールの持つ「渋さ」が面白がられている。海外では青春感を持つロックンロール・バンドがなかなか出てこないし、日本で青春感を持ってやってるバンドはロックンロールを感じない。そういう時代になってきているのかなと思います。

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