猪又 孝が「RIPサウンドの変遷」を解説

RIP SLYMEの音楽はなぜいつも「新感覚」なのか? ニューアルバム『10』までの歴史を辿る

 他に類を見ない画期的なサウンドでJ-POP界に現れ、衝撃を与えたRIP SLYME。しかも、彼らが生み出す音は、新奇なのにキャッチーだった。じゃなければ、「楽園ベイべー」のヒットは生まれていないだろうし、セカンドアルバム『TOKYO CLASSIC』は100万枚セールスを記録していないはず。ちなみに「楽園ベイベー」は、ドラムがキックの音しかない(つまりスネアがない)という、ポップスとしてはかなり実験的な構造だが、いまだにサマークラシックとして人気の曲。「ヒップホップ・バラード」の先鞭をつけたのも彼らの「One」だろう。

 そんな彼らのサウンドに大きな変化が表れたのが4作目『MASTERPIECE』(2004年)。生音を多用するプロダクションが一気に増え、「黄昏サラウンド」という良質メロウナンバーが誕生。このアルバムでは完全バンドスタイルでツアー(MASTERPIECE TOUR 2004)を開催し、日本のヒップホップにまたもや新しいスタイルを開拓した。続く『EPOCH』『FUNFAIR』では振り子作用もあってか生音のプリミティブな感じやアナログ感をデジタルの打ち込みで表現するという方向へ。ただ、デビュー当初は盛る方向だった打ち込みが、徐々にシンプルな作りに変化していったのがこの頃だ。そして8作目『JOURNEY』辺りから、もともとFUMIYAにあった60〜70年代ポップス/ロックサウンド志向が大きく開花。『STAR』ではそこにRIP SLYMEのもうひとりのサウンドブレインであるPESが80年代シンセポップ感を加味。ヴィンテージな音や雰囲気を現代にアップデートさせた音作りが増えていくなかで、前作『GOLDEN TIME』に収録されたディスコ調のシングル曲「SLY」も生まれた。

 懐かしさや安心感を覚えるような耳に馴染みやすいアナログな質感と、イマドキの最先端ダンスミュージックの融合。アナデジ両方の旨味を活かす二元的サウンドデザイン。これが最近のRIP SLYMEの音作りのテーマだ。融合といってもトレンドの音をそのまんま取り込むのではない。そのエッセンスを前例のないカタチで、予想外のジャンルに、絶妙な塩梅で採り入れる。たとえば最新作収録曲「KINGDOM」は、90年代オルタナと70年代フォークロックとダブステップの融合。こんな音でラップしてるグループは世界を見渡してもいないと思うし、最新作『10』ではそのサウンドデザインが洗練を極めた感すらある。

 違和感を覚える音なのに、いつの間にかクセになってる。どこかで聴いたことがある音だけど新感覚。クラシックでありながらモダン。そんな音をいつもRIP SLYMEは生み出し、J-POPの第一線を走り続けてきた。『FIVE』から14年、10作目。それだけの年月を経れば当然音作りは進化する。サウンドのスタイルは変わる。でも、スタンスは同じ。前衛的なのに普遍的。だから、いつ聴いてもフレッシュ。そんな音を鳴らす永遠の異端児、RIP SLYME。最新作『10』には、変わりゆく自分たちの変わらないものが詰まっている。

■猪又 孝
音楽ライター、ときどき編集者。日本のソウル/R&B/ヒップホップを中心に執筆しつつ、カワイイ&カッコイイ女の子もダイスキ。音楽サイトMUSICSHELFで「猪又孝のvoice and beats」を連載中。三浦大知のアーティストブック『SHOW TIME!!』ではメインライターを担当。

■リリース情報
『10』
発売:2015年9月30日
価格:¥3,000(税抜)
【初回プレス盤】
・デジパック仕様
・"RIP SLYME presents 真夏のWOW Powered by
G-SHOCK"LIVE映像 視聴シリアルナンバー封入
(視聴期間:’15/9/29(火) 12:00〜’16/1/31(日)23:59)
《収録曲》
01.Powers of Ten
02.ピース
03.POPCORN NANCY(Album ver.)
04.KINGDOM
05.だいたいQuantize
06.いつまでも
07.青空
08.気持ちいい for Men
09.TIDE
10.Happy Hour
11.JUMP with chay
12.Vibeman feat.在日ファンク
13.メトロポリス
14.この道を行こう
15.時のひとひら

■ライブ情報
「RIP SLYME『10』SPECIAL LIVE」
9月30日(水) 大阪 心斎橋 BIG CAT
10月2日(金) 東京 渋谷 CLUB QUATTRO

「RIP SLYME TOUR 2015-2016」
2015年
10月30日(金) 千葉・市川市文化会館 大ホール
11月2日(月) 神奈川・神奈川県民ホール 大ホール
11月3日(火・祝) 静岡・静岡市民文化会館 大ホール
11月12日(木) 兵庫・神戸国際会館こくさいホール
11月14日(土) 広島・広島文化学園HBGホール(広島市文化交流会館)
11月15日(日) 愛媛・松山市民会館 大ホール
11月23日(月・祝) 茨城・茨城県民文化センター 大ホール
11月27日(金) 北海道・わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)
11月29日(日) 宮城・仙台サンプラザホール
12月5日(土) 石川・金沢本多の森ホール
12月6日(日) 新潟・新潟県民会館 大ホール
12月15日(火) 岡山・倉敷市民会館
12月17日(木) 熊本・市民会館崇城大学ホール (熊本市民会館)
12月19日(土) 福岡・福岡サンパレスホテル&ホール
12月21日(月) 大阪・大阪フェスティバルホール
12月22日(火) 大阪・大阪フェスティバルホール
12月26日(土) 愛知・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール(名古屋市民会館)
12月27日(日) 愛知・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール(名古屋市民会館)

2016年
1月9日(土) 東京・日本武道館
1月10日(日) 東京・日本武道館

ツアー特設サイト
http://www.ripslyme.com/tour2015/

http://www.ripslyme.com/

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