香月孝史が神宮公演2日間を分析
乃木坂46が掴みつつある「らしさ」とは? 神宮2Days公演に見たグループの成長
乃木坂46が8月いっぱいをかけて催してきた『真夏の全国ツアー2015』は、8月30・31日の明治神宮野球場での公演でファイナルを迎えた。明治神宮野球場は昨年のツアーファイナル以来、一年ぶりの会場である。昨年のライブでは経験と自信をつけてきたアンダーメンバーの躍進や、センターポジションを背負った西野七瀬の頼もしさなどの見どころが随所にあったが、今年はまたグループ総体としての成熟度に、昨年からの大きな進化が見られた。
昨年との比較でいうならば、アンダーライブの経験値によってパフォーマンスを牽引したアンダーメンバーにせよ、センター経験者たちが蓄えてきた力強さにせよ、去年の段階では、まだそれらの要因はグループ全体としてひとつに溶け合ってはいなかったのかもしれない。だからこそアンダーはライブ経験を武器に、選抜メンバーに対抗する存在として目を引いたし、またシングル表題曲では、センター経験者各々の頼もしさが際立った。しかし今年のツアーファイナル2公演は、いわばメンバー個々の要素よりも“乃木坂46”というグループ総体としての統一的なレベルアップの方が強く印象に残った。それは、この一年を通じて選抜、アンダーそれぞれが徐々に対等の役割を獲得していくなかで、個々の武器がひとつのグループとして溶け合ってきたということのように思える。12thシングル『太陽ノック』リリースに際して、リアルサウンドに掲載した伊藤万理華・中元日芽香インタビューでは、二人がともに、選抜/アンダーと分かれるのではなくグループ全体としての活躍を意識した発言をしていたが、このツアーではそうした意志が結実していたともいえそうだ。
昨年のライブではアンダーの象徴としての意味合いが圧倒的に強かった「ここにいる理由」も、30日にのみ披露された10thシングルのアンダー楽曲「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」も、今年はアンダーメンバーを際立たせるための楽曲というよりも、乃木坂46というグループ全体の一パートを担う印象になっていた。それはセットリストの中で、「ガールズルール」「夏のFree&Easy」「気づいたら片想い」といった表題曲と並列されることでより明確になる。このツアーのセットリストでは、アンダー楽曲は選抜表題曲に対抗するものではなく、表題曲と同格にグループを支えるものになっている。二期生を含めた全員が正規メンバーになっている環境を含め、全員が横一線に並んでひとつの統一感を作れていることが大きい。
個々のメンバーのことよりも、グループ一体となってのレベルアップの達成について書いてきたが、それでも乃木坂46の軸として常に意識せざるを得ないメンバーがいる。それが12thシングル時点でのセンター、生駒里奈だ。開演すると、ライブ1曲目の「太陽ノック」を控えて、彼女は花道が交差する中央点にただ一人で立ち、静かにメンバーを待つ。その佇まいの気高さは、彼女がただ最新シングルのセンターであるだけでなく、ここまでに乃木坂46が築いてきたグループとしての厚みを象徴する人物でもあることを思わせるものだった。そして、デビュー以来どのポジションにいようと、乃木坂46の絶対的なシンボルであり続けてきた生駒を基点にして、周囲のメンバーにも光が当てられるように感じる。生駒がセンターポジションを離れていた6thから11thシングルまでのおよそ2年間、白石麻衣、堀未央奈、西野七瀬、生田絵梨花といったメンバーがそれぞれに葛藤しながらセンターポジションを経験してきた。そのことによって、グループの顔になるメンバーの数は確実に増えている。ライブ後半のパートでは生駒以外のメンバーがセンターを務めた楽曲が続いたが、巨大な求心力を持つ生駒が存在するうえで、さらに主役を張れるメンバーが他に幾人も存在していることを示す時間でもあった。乃木坂46というグループの層はいま、かつてなく厚い。彼女たちがフロントとしての安定感を盤石にしたことで、今度は次なるフロントメンバー候補の動きも楽しみになる。かねてより存在感の強い衛藤美彩、「魚たちのLOVE SONG」で普段の柔らかなイメージとは違う強い表情を見せた深川麻衣、といったメンバーは、センター経験者に伍するだけの準備ができているように見えた。こうした「次」をうかがうメンバーたちの活躍はグループ全体を昨年とは一段違うレベルに上げていく。