香月孝史が神宮公演2日間を分析
乃木坂46が掴みつつある「らしさ」とは? 神宮2Days公演に見たグループの成長
今回のツアーは全体を通じて、「乃木坂らしさ」というフレーズがキーになっていた。もっとも、ここで追求されている「らしさ」にはあらかじめ明確なイメージはない。思えば乃木坂46は、これまでも形の定かでないものを追いかけてきたグループだった。「AKB48の公式ライバル」というデビュー前からの肩書きは現在でも生きているが、当初すでに巨大な存在だったAKB48に対して、生まれたばかりの乃木坂46は一体何で対抗すればいいのか、ビジョンは見えていなかった。AKB48の姉妹グループのように常設劇場という拠点もないなかで、「ライバル」たりえる方向性を模索するほかなかった。言ってみれば、その独自の方向性が「乃木坂らしさ」になるはずのものなのだろう。
その独自の方向性はとくにこの一年ほどで、イメージやトータルのコンセプトよりも先に個別の要素として花開き始めた。「君の名は希望」「何度目の青空か?」に代表されるミディアムバラードは、いつしかグループを代表する楽曲レパートリーとして認知されてきた。また、長期間をかけてファッション誌との関わりを築いて、モデル業に進むメンバーを輩出してきた流れや、演劇活動への傾斜を本格化させていく兆候も今年に入って明確になった。それらのいずれも、瞬発力でファンをつかむ性格のものではない。落ち着いた環境でゆっくり時間をかけてその特性、魅力を伝えていくような持ち味の活動である。そして、そうした性格は昨今、乃木坂46独自のブランディングを方向づける基調になってきたように感じられる。あらかじめコンセプトや特定のカルチャーを当てはめられていたわけではない乃木坂46の場合、「らしさ」とはこのように後から生まれ出てくるしかないものなのだろう。その意味では、独自のブランディングを築きつつある今年だからこそ、「らしさ」という一見当て所のない言葉をテーマにすることにも意味があるのかもしれない。
実のところ、ライブ本編終盤の展開は、とても周到に「乃木坂らしさ」を用意したものであるように見えた。生田絵梨花の弾くピアノとフルオーケストラをバックに歌われる「何度目の青空か?」「君の名は希望」は今ではグループのトレードマークになっている。そして本編ラストの「悲しみの忘れ方」もまた、その2曲を引き継いでフルオーケストラでライブを締める。先に述べた、落ち着いた環境でゆっくりその魅力を伝えていく乃木坂46の基調が、この本編大詰めを迎えて最大限に発揮されていた。本編最終盤のこのパートがもたらしたインパクトは、この先の乃木坂46のライブパフォーマンスにとって重要な先例になるに違いない。
模索をしながらグループに合う方向性をようやく探り当てたからこそ、いま掴みかけている「乃木坂らしさ」は強い。日常的にライブを行なうAKB48とは、そもそも「らしさ」を作っていくための前提も大きく異なるだろう。しかしそれでも、乃木坂46の性格をフルに押し出すことで、荘厳なインパクトの強さを見せつけるライブを成し遂げることができる。細かな完成度はまだいくらも高める余地はあるはずだが、今後につながる形を見つけたこのツアーは、グループが順調に成熟していることをうかがわせるものだった。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。