『新MINMI☆FRIENDS~“BAD”“MINMI”というネタをラッパー、トラックメーカーがどう料理したのか~』レビュー

MINMIが最新リミックス盤で示した“遊び”としての音楽とは? 磯部涼が楽曲解説&テーマ分析

 さて、引き続き、ダンスホール/ラップとベース・ミュージックのクロス・オーヴァーという観点からアルバムを解説すると、このアプローチにおける先駆者とも言えるDJ/プロデューサー・ユニットのHABANERO POSSEは、サンバをベースにしたエモーショナルな「ラララ~愛のうた~」を、ドープなトラップからアッパーなゲットー・テックへとスウィッチするトラックに、Jazee Minorの素晴らしく下世話なラップをフィーチャーすることで、愛というよりは〝性のうた〟に転換している(トラック08)。また、2010年に音楽制作を始めたばかりであるものの、今や日本におけるEDMの新世代を担う存在になっているbanvoxは、乙女・EDMと言いたくなるようなキュートな「jealous」を、アーメン・ブレイクとワブル・ベースを効かせ、フロア向けにリビルドしているが、そこにラップを乗せているのが95年発表の日本語ラップ・クラシックであるキングギドラ『空からの力』の20周年記念盤もリリースされたばかりのベテラン=K DUB SHINEだという組み合わせの妙も面白い(トラック07)。

 他にも、banvoxと同じく、ネット・レーベル<Maltine Records>からリリースし、今年、Seihoとのユニット=Sugar’s Campaignでメジャー・デビューも果たしたAVEC AVECは、京都のシンガー=粧(Mei)をフィーチャー。先述のMonster Rionによるスカ・チューン「MONSTER SUMMER」を、彼らしいバブルガムなベース・ミュージックに一変させている(トラック10)。CUBISMO GRAFICOの松田〝CHABE〟岳士が、「いていたいよ」の壮大なムードはそのままに、リズムをより細かく刻み、PANORAMA FAMILYのセンチメンタルなラップを乗せることで、原曲とはまた違ったニュアンスを生んでいるのも見事な仕事だ(トラック13)。そして、アルバムの中でも最も悪ノリと言っていいくらい遊びまくっているのがアイドル・グループ=Especiaのプロデュース・ワークで知られるSchtein&Longerこと横山佑輝による「サタデー・ナイト」で、一応はMINMIの「パラレル・ワールド」をネタにしているらしいが、そもそも、タイトルさえまったく違うものになっているし、ヴェイパー・ウェイヴ風のイントロから、突然、エレクトロ・ブギーにスウィッチする楽曲は、Especiaをフィーチャー……というよりは、完全に彼女たちのオリジナル。こういったアプローチさえも許してしまうのが『新MINMI☆FRIENDS』の懐の深さと言ったところだろうか。

 このように、『新MINMI☆FRIENDS』は、EDMがグローバルなポピュラー・ミュージックとなり、ベース・ミュージックがアンダーグラウンドなネットワークを広げていく中で、ジャンルの壁が壊れたというよりは、むしろ、新たに多くのサブ・ジャンルが生まれ、日々、それらが様々な組み合わせによって盛んに交配を行っている、現在のダンス・ミュージックのダイナミズムに対する日本からの回答とでも言うような性格を持っている。ところで、アルバムの幕を閉じるのは、「BAD」(トラック02)でもリミックスを手掛けたRED SPIDERのプロデュースのもと、ハードな4つ打ちの上でKENTY GROSS、BES、APOLLOといった大阪のディージェイたちがマイクを回す「さくら」の新たなヴァージョンだ(トラック15)。この楽曲で歌われているメッセージは言わばジェネレーション・ギャップを越えようということだが、『BAD』のリリース時に、MINMIは同アルバムのコンセプトについてもこう語っていた。

 「『I LOVE』のツアーが終わったときに、次の大きな挑戦としては、母親であることとか、女性であることとか、年齢に縛られない自分を表現していきたいって思って」。また、そう思わせてくれたのは他でもないダンス・ミュージックだったという。「この7年間くらい子育て中心の生活で、ダンスミュージックを聴いたり、クラブに行くこともなかったんです。でも、子どもも大きくなって、そういう自分の時間を持てるようになって、母親っていうのとは違う世界がまた見えるようになってきて」。そして、MINMIは〝遊び〟を通して改めてアイデンティティに自覚的になっていった。「何歳なのに結婚してないとか、何歳なのに子供がいないとか、そういうのなんて統計でしかないんだし、勝ち組・負け組みたいな境界線は誰かが決めたものなんだから、自分が一番やりたいタイミングでやりたいことをやることに勇気を持ってね、みたいな。そういうことを感じ取ってもらえるアルバムであって欲しい」(引用はhttp://www.universal-music.co.jp/minmi/news/20140821 より)。あるいは、『新MINMI☆FRIENDS』という、様々な個性が自由に遊ぶプレイグラウンドも、そんな彼女の思いを発展させたものだとは言えないだろうか。このアルバムをリプレイ(再生)する度に、あなたもまた自由になっていくだろう。

(文=磯部涼)

■リリース情報
『新MINMI☆FRIENDS ~“BAD” “MINMI”というネタをラッパー、トラックメーカーがどう料理したのか~』
発売:7月22日
価格:¥2,800(税込)

http://www.minmi.jp/

http://www.universal-music.co.jp/minmi/

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