宇野維正のチャート一刀両断!
MAN WITH A MISSIONの異色スプリット盤の意義と、『マッドマックス』ED曲起用について考える
参考:2015年5月18日~2015年5月24日のCDアルバム週間ランキング(2015年6月1日付)
今週のアルバムチャート1位は堂本剛『TU』。さぞ圧勝かと思いきや、このところ出す作品すべてトップ3に放り込んでいるMAN WITH A MISSIONが、カリフォルニアのミクスチャーロックバンド、ZEBRAHEADとのスプリットEPという異色の作品で2位にピタっとつけています。このスプリット盤という作品形態、元々は80〜90年代のアメリカのパンク系インディーズレーベルがよく使っていた手法(例えばあのニルヴァーナもブレイク前/ブレイク後にかかわらず多くのスプリットEPをリリースしています)で、これから売り出していきたい複数のバンドの音源、あるいは既に売れているバンドとこれから売り出していきたいバンドの音源を、合わせて1枚の作品としてリリースするというもの。レーベルのサンプラー盤的な意味合いが強いわけですが、その根底にはアメリカの音楽界における「フックアップ」という思想があります。つまり、売れているバンドが「こいつらの音楽も最高だよ」と自分の未発表曲をエサに自分のファンに他のバンドをレコメンドするある種の互助システムですね。ちなみに、この思想がヒップホップになると、大物ラッパーが自作において無名新人ラッパーをフィーチャリングするといった別のかたちをとります。
そういう意味では今回のMAN WITH A MISSION×ZEBRAHEAD、所属しているメジャーレーベルこそ一緒ですが、国も違えばキャリアの長さも違う。先ほど「異色の作品」と言ったのは、こうしたスプリットEPという形態の作品が日本の音楽チャートの上位にくること自体が異例な上、そのスプリットの在り方そのものがかなり変則的だからです。マンウィズにとってZEBRAHEADは90年代から憧れの存在のバンド。つまり、本作は世代や国を超えたリスペクトによるスプリット盤という新しいジャンルを開拓した作品とも言えるのです。
さて、本作について語る際に避けては通れないのが、両バンドが共作した冒頭の表題曲「Out of Control」が6月20日公開の映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』日本版エンディングソングになったということ。映画の仕事も音楽の仕事も同じくらいの比率でしている自分は、世代的にも『マッドマックス』シリーズに強い愛着がありますし、今回の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』も既に観ています。一方、本作についてマンウィズにも雑誌で取材をしました。そんな立場で、関係者の誰もハッピーにならないことを書かなくてはいけないのは大変気が引けるのですが、ここは映画/音楽ジャーナリストの矜持としてちゃんと触れておきましょう。火中の栗は拾ってなんぼです(冷汗)。