柴 那典が電気グルーヴ『Fallin’ Down』を聴く
電気グルーヴが到達した“スーパー陳腐”の洗練とは? 新シングルがもたらす快楽を解析
たとえば「Upside Down」(2009年)の〈曖昧は罪になる〉という一節。
たとえば「shameful」(2012年)の〈目に見えるだけど見えてこない〉という一節。
たとえば「Missing Beatz」(2013年)の〈今の絶頂感 つまり全能感〉という一節。
どれも、単なる「ナンセンス」の一言では片付けられない深い味わいがある。喩えるならば、虚空に放たれたパンチラインというか。そのへんに転がってくる石を並べていたら枯山水になっていた感じ、というか。
今回の『Fallin’ Down』の〈タテもヨコも無い 上下すらない〉というのも、その系譜に連なる一節なのではないかと思う。ジャケットのアートワークにメビウスの輪が選ばれていることが象徴するように、おそらく曲のモチーフは「いつのまにか表が裏に、裏が表になっている」というようなイメージ。あくまで平易な言葉で、実はかなり深遠な射程を描いているのではないだろうか。
とはいえ、これはあくまで一つの「深読み」。別に全ての曲が深遠なわけでもない。前述の『新しい音楽とことば』でも、石野卓球は歌詞に使う言葉を「断捨離後のゴミのようなもの」と表現していたが、やっぱりヒドい歌詞はホントにヒドい(笑)。ここ最近でも、昨年にリリースした『25』収録の「電気グルーヴ25周年の歌(駅前で先に待っとるばい)」では〈前髪垂らした知らないヤツが便所の窓から覗き込む〉というような、おおよそJ-POPの歌詞とは思えない強烈なリリックを繰り出してきていた。
おそらく、こうした今の電気グルーヴの方向性の原点になっているのは2000年にリリースした『VOXXX』だろう。「N.O.」や「Shangri-La」や「富士山」など今もライブの定番になっている代表曲をリリースした90年代を経て、砂原良徳が脱退し石野卓球・ピエール瀧の二人体制になってリリースしたアルバムだ。その後00年代の前半から中盤にかけては活動休止期間や「電気グルーヴ×スチャダラパー」としての活動もあったが、2008年の『J-POP』からは電気グルーヴとしてコンスタントにリリースやライブを続けてきている。
そして、2010年代以降はそのキャリアも円熟の境地に達している。ピエール瀧は役者やタレントとしても引っ張りだこの存在だ。2013年以降は『あまちゃん』『アナと雪の女王』に出演し2年連続でその年最大のヒットコンテンツに絡んでいる(ちなみに今夏は実写版『進撃の巨人』に出演)。一方、石野卓球もDJとして日本各地、世界各国を飛び回る多忙な日々が長く続いている。
それぞれの活動の充実がもたらした「スーパー陳腐」の洗練。それが今の電気グルーヴの円熟した魅力に繋がっているのではないだろうか。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter
■リリース情報
『Fallin’ Down』
初回生産限定盤 CD+DVD:¥1,500+税
通常盤 CDのみ:¥1,165+税
■電気グルーヴ・オフィシャル・ツイッター<@DENKI_GROOVE26>企画
電気グルーヴ・オフィシャル・ツイッター・アカウント<@DENKI_GROOVE26>とハッシュタグ<#電気グルーヴのフォリダン>、『Fallin’ Down』の感想のすべてを一度に、下記の開催期間中に呟いた人の中から、スタッフによる独断と偏見で当選者を選出し、『Fallin’ Down』オリジナル・ステッカー & ポスターを合わせてプレゼント。
開催日時:2月24日(火)22:00~23:00
2月27日(金)24:00~25:00
当選者数:30名
【ご注意】
※参加者はオフィシャル・ツイッター・アカウント<@DENKI_GROOVE26>のフォローをしてください。
※当選者にはオフィシャル・アカウントからDMにて当選通知および手続きのご連絡をします。