宇野維正が“2014年最大のレジェンド帰還劇”を解説

みんなディアンジェロディアンジェロ騒いでるけど、ディアンジェロって何者?

 こんなことを書くと「他にも同じような役割を果たしたミュージシャンはたくさんいるだろ」と異議を唱える人もいるかもしれない。その通り、たくさんいる。セールスの観点からも、ローリン・ヒルやエリカ・バドゥなど瞬間最大風速においてディアンジェロよりもたくさんのレコード/CDを売ったミュージシャンも存在する。しかし、それを最も鮮やかにやり遂げ、そして現在進行形でもやり遂げているのがディアンジェロであるという事実認識は、10年後にも20年後にも揺らぐことはないだろう。それこそローリン・ヒル自身やエリカ・バドゥ自身、そしてまさに「ヒップホップ以前/以降のブラックミュージックを繋げる」ことそのものをコンセプトに掲げてきたザ・ルーツの中心人物クエストラブ(もちろん今作『ブラック・メサイア』の制作にも深く関わっている)がディアンジェロに寄せてきた/寄せている深い信頼が、何よりもの証左である。

 最後に。日本国内のブラックミュージック系の批評家/ライターの中には、今回のディアンジェロ騒動を受けて、自分のようなアウトサイダー(笑)がディアンジェロばかりを神格化することを疑問視/嘲笑する向きもあるようだが、実際に『ブラック・メサイア』のあの恐ろしいほどに奥行きのある音像、ギターやドラムやストリングスの響きと音の配置、絶対に他のアーティストではあり得ないあのタメにタメたリズムなどのディテールと、何よりも彼の唯一無二のあの歌声を体験した後にもそう思うなら、御愁傷さまと言うしかない。ディアンジェロ登場以降、当然のようにディアンジェロの音楽は多くのミュージシャンにとって強烈なインスピレーションとなり、一時期は似たようなサウンドも世の中に氾濫した。そして『Voodoo』から15年経った今も、それは綿々と続いている。中には昨年グラミーも獲得したジャズ・ピアニスト、ロバート・グラスパーのリーダーアルバムのように、ディアンジェロと同じ人脈のミュージシャンを総動員し、明確にディアンジェロの音楽を更新しようとする志の高い作品もあった。しかし、それらの事象も含めて今なおディアンジェロはとびっきりスペシャルな存在であり、その圧倒的な「違い」を再証明してみせたのが今回のサードアルバム『ブラック・メサイア』だと断言しよう。他でもないディアンジェロに関してなら、20年ぶりの来日公演の実現(日本における本作のiTunesStoreや輸入盤CDの現在の売れ行きをふまえればそれも夢じゃないはず!)までしっかり見据えた上で、自分は積極的にこのスターシステムに加担していこうと思っている。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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