unBORDEヘッド鈴木竜馬氏インタビュー(後編) 「マイノリティに勇気を与える作品を」

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「きゃりーもゲスも、本当に楽しみながらやっている」

――先ほど「10万が5万になるかもしれない時代だ」と伺いました。CDのようなパッケージに関しては確かにそれは免れないでしょうが、ストリーミングなど新しいテクノロジーを駆使すれば、全体の収益として5が10に戻る可能性はあるのでしょうか。それとも5という現状を踏まえた上で新しい戦略を練るべきでしょうか。

鈴木:サブスクリプションもソニーミュージックやエイベックスなどの大手がいろいろ仕掛けていますが、薄利多売という手法がありうるのか、ということについても答えは出ていません。今まで100万枚で喜んできましたが、薄利多売によってそのパイが広がるならば手法としてアリでしょう。今はCDショップでさえままならなくなってきましたが、「KIOSKに置いた方がよかったのではないか?」という議論は昔からありました。しかしそれをやらずに来た業界です。デジタルになって届けやすくなった、ということは、発想としては「KIOSKで薄利多売」と同じことです。ただ、今までそれをやらずに来た業界全体の贖罪だと思いますが、音楽から引いてしまった人が多すぎて、薄利多売を成しえるのか、という疑問があります。

 今は正直なところ、その部分はそのマーケットを見るチームに預けています。自分と自分のチームが生きていくために勝ち残らなければいけない部分は、5になった部分をきちんと埋めるマネジメントサイドとのビジネス上の共存共栄です。御存知の通り音楽市場は3000~4000億円規模から急速に落ちて2500億円に突入しつつあります。それに対してフェスも含めた音楽興行市場は2000~3000億円に向かって右肩上がりです。波がありますがマーチャンダイジングビジネスもそれに紐付いて上がっています。ビジネスの考え方としては、この両者をどう合わせて良いものにしていくか、ということを重視しています。

――では鈴木さんが主に考えているのは、興行やマーチャンダイズなどの実際的なトータルプロデュースの面ですね?

鈴木:はい。それによってアーティスト自身を魅力のあるものにするということが、僕が考えていることです。

――レーベルの将来像に関して、50アーティストに増やす、というようなことは考えていらっしゃらないと。

鈴木:それでいいと思っています。みんな「やれ」って言うんですけどね。

――これだけ実績が出ると、会社としてもその事業を大きくしたくなるのでは。

鈴木:でも結局は丁寧に磨かないと良いものにはなりませんから、大量生産をやろうとは思いません。メジャーメーカーにいながらそれを言うのは甘いのかもしれませんけれど。

――少し一般的な話を伺います。レーベルの役割として、例えばアトランティックのような大レーベルのやり方は可能でしょうか? それとももうそういう時代ではないのでしょうか?

鈴木:僕はクリエイション(注:英国の名門レーベル。オアシスやプライマル・スクリームなどを輩出)でいいと思っています。やっぱりそこにプライマルがいてマイブラがいて、というカテゴライズがあって、アラン・マッギーもやっぱり不良だったから、レーベル論としてはそっち側でいいなと思います。今の時勢でアトランティックのようなモンスターにはなれません。最近はレーベルを統合する動きもありますが、僕は個々のレーベルカラーがあっていいと思っています。インディーでも個々のレーベルがアイデンティティを持ってやっているわけですから、スタンプという意味合いとしてレーベルはもっとあっていいでしょう。

――メジャーのレコード会社の中でのレーベルの役割とは?

鈴木:レーベルは“活性剤”になると思います。そしてそれが、ひいては音楽全体のためになると思う。またゲスが売れるのは、当然unBORDEとワーナーにとっていいことだけれど、それ以上に、最近新人のブレイクのない音楽業界にとってもいいことなのではと。きゃりーのときも、彼女が売れたことで音楽業界全体が明るくなりました。もともと中田ヤスタカくんは「彼女を原宿の元気玉にしましょう。彼女で原宿が元気になり、東京代表、日本代表になっていけば、音楽業界も元気になる」と言っていました。プロジェクトを始める前にそう言ったのだから、本当にスゴいと思います。こういうレーベルであれば、このご時勢で、しかも不良軍団でも、楽しいことをやって音楽業界を盛り上げることができる。きゃりーもゲスも、本当に楽しみながらやっているんです。

 レコード業界や音楽業界は、華やかであるべきです。ファッション業界は、売れていても売れていなくても明確なアイデンティティがある。出版業界を見ると、「本が売れない」といいながらも、毎年多くのヒット作が生まれているし、リスキーなところにも踏み込んでいて。そんななかで音楽業界を見ると、例えば神聖かまってちゃんが新作を出すたびに、レコ倫など識者? と言われるような第三者ともめるようなことも多々あったりして。そんなことだから、音楽業界はどんどん日和っていく。ちゃんとカウンターカルチャーでいなければいけないな、と思います。

――“自主規制への挑戦”という気持ちがあるのですね。

鈴木:すごくあります。反体制というわけではないけれど、常にパンクではいたい。だから、かまってちゃんで立ち上げられたのは最高に良かったし、何があっても一緒にやっていたいと思います。彼らから学ぶことは多いし、マイノリティに勇気を与える作品を供給できるレーベルでありたいですね。

 ただ、マイノリティが化ける時があることを、僕はRIP SLYMEで経験しました。ゲスはマイノリティではないと思うけれど、きゃりーちゃんだって本当はマイノリティだったと思う。だって、親に禁止されているのにトイレであの格好に着替えて原宿に行っていたわけでしょう? いまやその子が世界ツアーをやっているんです。ビジネスとして、日本の1億2000万人に売ろうとしているわけではない、ということです。

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