ふくりゅうが『QUIT30』を徹底分析

TM NETWORKが活動30年で見出した"集束点”とは? ふくりゅうが新作アルバムを解説

今年で30周年を迎えるTM NETWORK。

 2014年4月21日に30周年を迎えたTM NETWORK、その遺伝子を感じられる音楽プロジェクトが同時多発的に勃発している。物語性あふれるテーマパーク的なコンサートの楽しみ方といえばSEKAI NO OWARI、テクノロジーを駆使した最先端の音楽表現といえばサカナクション、自作の小説を含むマルチメディア表現といえばじん(自然の敵P)。それらすべてのアプローチを80年代に予言者のように実現していたのが、先駆者である3人組ユニットTM NETWORKだ。

 そんなTM NETWORKが7年振り12枚目のアルバム『QUIT30』をリリースした。デイリーでオリコン初登場6位を記録した本作は、1984年にデビューしたTM NETWORKの30年の拡散活動を集約する"集束点”と定義されている。“集束”とは、いまや社会的インフラとなったSNS現象におけるシェア=“拡散”と対となる、小室哲哉が定義する収穫ポイントを示すマーケティング・ワードだ。

 そもそもTM NETWORKという記号的なユニット名には“ネットワーク”という、80年代の結成当時でいう国際電話、現在でいうところのインターネットを意識させるワードがあるが、アルバム『QUIT30』では、テン年代のコミュニケーションのインフラとなったSNS=ソーシャル・ネットワーク・サービスを意識した歌詞世界が印象的だ。そこで繰り広げられる“拡散”と“集束”という現象、それらを“俯瞰”する視点の大切さを、SF的な物語を通じてアルバム作品として表現している。

TM NETWORK / アルバム『QUIT30』ダイジェスト

 『QUIT30』は、気になる歌詞フレーズがたくさんあるアルバム作品だ。「絶えない対立の種」(by Alive)、「大国のトップがシャウトしたってほとんど世界はほほえまないから」(by Iam)、「人が人を管理出来ない」(by "QUIT30" Birth)、「70億のほんの少しの誰かが何かを支配する」(by "QUIT30" Loop Of The Life)など、多様性を持つ問いかけのような言葉たちが好奇心を刺激してくれる。そんなフレーズが飛び交うヴィジュアル・イメージは、新曲「Alive」の映画的なミュージックビデオで体感して欲しい。この映像作品はツアー『TM NETWORK 30th 1984〜 QUIT30』へのイントロダクションとなっている。

TM NETWORK / QUIT30 Trailer Ver.2(music:Alive)

 小室哲哉曰く、ヒット曲「Self Control (方舟に曳かれて)」の続編と定義したTMらしさ溢れるリード曲「Alive」からはじまる本作は、歴代の国内作詞家セールス・ランキング4位という小室哲哉の作詞センスが炸裂しているメッセージ性の強い「I am」や、鈴木あみのカバーで知られる人気チューン「Be Together」の続編とでもいうべきライブで盛り上がる「LOUD」、シングル・カップリングの「ある日ある時いつか何処かで」、「君がいてよかった」という既発シングル曲の新ミックスによる存在感の強さが興味深い。

 さらに、26年前の1988年にリリースし、累計100万枚をセールスしたコンセプト・アルバム『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』の続編をイメージしたという22分の組曲「QUIT30」など、何事もシステム化されコンビニエンスな時代の流れとは相反する、全22曲2枚組仕様の重厚なコンセプト・アルバムに仕上がっている。『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』時代のナンバーを4曲セルフ・カバーしているギミックも、FANKS(TMファンの総称)にとっては気になるポイントだろう。賛否は否めないだろうが、当時莫大な予算をかけて制作されたロンドン・レコーディングに負けないクオリティの高さを誇っているのだから驚かされる。

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