一青窈が自身のルーツの向こうに見出した“歌“とは?「1回全部受け入れて、できることだけ書こうと」

「自分の中に眠っている……女豹を呼び起こす感じ(笑)」

――わかりました。では、もうちょっと曲について訊きます。「他人の関係」は、ドラマ『昼顔』で使われて、かなり話題になりましたけど。

一青窈:このSOIL(&“PIMP”SESSIONS)のアレンジはやっぱりすごく秀逸なんですね。唄ってて、すっごい楽しいです。ライブでは唄うたびに、そこにいる男性をちょっとステージの上に上げていじってるんですけど、それも楽しい。肉食系女子になれるっていうか。

――ふむふむ。あなたは肉食系じゃないんですか?

一青窈:いやいやいや! そんな、べつに私……毎回ツアーごとに若い男性を呼んでとか、そんなことはないですから!(笑) 仮に実際にそうしたいなと思ったとしても、やったことないです(笑)。でも唄うのは楽しいですね。

――そうですか。そこは演じてるという感じなんですか?

一青窈:あのね、自分の中に眠っている……女豹を呼び起こす感じですね(笑)。

――(笑)メヒョウですか。ふだんは眠ってると。

一青窈:うん。ふだんは飼いならしてるけどね(笑)。

――でもこのアルバムには「ロマンス♡カー」という、かわいいラブソングもありますけど。

一青:そう、驚くべきことに、初めてのアカペラ曲なんですよね。やっとア・カペラ曲をやらせてもらえるぐらいの歌唱力になったんだなって(笑)。

――つまりア・カペラをやりたかったんですか?

一青窈:そう、ロッカペラとかテイク・シックスとかTRY-TONEとかVOX ONEを大学生の頃聴いてたから、ぎゃんちゃん(川江美奈子)にそういう曲をお願いしたら、4曲返ってきたんです。その通り「ピンク・パンサー」みたいな曲とか超絶技巧の曲とか出てきたうちのひとつがこの「ロマンス♡カー」ですね。あんまり重くしたくなかったから、勢いで書きました。大瀧詠一の「夢で逢えたら」とか「A面で恋をして」みたいな、何でもないけどずっと聴いてたい、かわいいラブソング書きたいなって。

――「勝負!!!」は盧廣仲(クラウド・ルー)の作曲ですね。

一青窈:そう、盧廣仲(クラウド・ルー)は台湾のハナレグミみたいなアーティストで、NHKの番組で一緒に唄う機会があって、意気投合したんです。それで台湾で飲んだら、本当にハナレグミみたいな生活をしていて……全然携帯も見ないし、かと思ったら「早起きして散歩」「ネコがいる」「おじいさんが道を掃除」みたいなのをLINEで送ってくるんですよ。なんてかわいい人なんだと思って、とにかく大好きになりました。その時にちょうど富山の黒部であったSOIL&“PIMP”SESSIONSのライブに飛び入りで出演したんです。で、黒部といえば黒部ダム。ダムを見に行く歌を作ろうと(笑)。ここらへんはライトに聴ける曲を作りたかったんですね。

――で、全体として、気持ち的に開いてきてるイメージを持つアルバムなんですよ。

一青窈:そうですね。うーん、気持ち的に開いた……何がそんなに変わったんだろう? わかんないな……わかんないけど。たしかに、より開放的になりましたね。

――それには、やっぱりさっきの本を書いたことが大きかったと思うんですよ。そこには血縁をたどりたいということのほかに、何があったんですか?

一青窈:うーんと、4年前に……知人と話してたら、「君のところの顔家の話は相当面白いよ!」って言われたんです。台湾の九份(キュウフン)って、わかります? 『千と千尋の神隠し』のモデルになったと言われてるところで、石段と提灯のある、ガイドブックによく載ってる場所なんですけど。あそこの山が半分、顔家のものなんですよ。

――ええ!? ほんとに?

一青窈:そう。そこから昔、金が獲れたんです。顔家は、そのゴールドラッシュの時代に金工夫を雇って、財を成したんですね。そのあと石炭も出たし。で、うちの父はそこの第一夫人の長男なんですけど、第三夫人までいて、それぞれ12、13人ずつ子供がいるんですよ。

――んん? つまり、あなたのおじいちゃんにあたる人には……孫が30人以上いたと!?

一青窈:そうなんです。で、すっごい広い敷地に第一夫人から第三夫人の家がそれぞれあって、それぞれの長男が財産分配が一番大きいわけです。だから一番いい教育を受けられる。それでそれぞれの長男と次男が日本に送られて、日本の技術を学んで、それを台湾に持ち帰って頑張ってもらおうとしたわけなんです。ところが、その時に戦争が起きてしまった……と。

――ほんとに激動だったんですね、あなたの家は。

一青窈:そうなんですよ。それで本を書きはじめたんですけど、思った以上に時間がかかって。まず人の名前を覚えるのが大変(笑)。「誰の子供でしたっけ?」「誰の奥さんが何したんでしたっけ?」みたいな。それでほんとに巻物みたいな家系図をバッと開いて見たりして、そしたら家の敷地の見取り図もあって、ディズニーランドみたいに池があったり、タワーみたいなのもあったりで……何だこれ?みたいな(笑)。

――(笑)……話がすごすぎます。

一青窈:それを見て、「何でこの人が、貧乏なうちのお母さんと結婚したんだろう?」と。ある日突然、母が姉を身ごもって、「結婚します」ってなったんですよ。でも台湾の実家は大反対ですよね。やっぱり長男だから、政治的に強い家系と結婚してほしいんですよ。そんな中でなぜか私と姉が生まれて、「じゃあ私、何で唄ってんだろう?」って思ったわけです。ほんと「LINE」みたいな世界ですよね。何の因果か台湾のことをこんなに私は描いている、みたいな。

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