ドラムとキーボードが歌い、ダンサーが盛り上げる Gacharic Spinの“エンタメ力”に迫る

危機を乗り越えて進化を遂げた

 通常のバンドの枠に収まりきらない彼女たちのエンターテイメント性は、始めから備わっていたわけではなかった。メンバーチェンジなど、逆境に見舞われた末に進化を遂げたのが、今の姿である。

 THE PINK☆PANDAを脱退したFチョッパーKOGAが、かつてのバンド仲間である、はなと共に組んだところからガチャピンは始まっている。当初はフロントマンとしてのボーカリストがいる普通のロックバンド編成だった。しかし、2012年にボーカル・Armmyの脱退というアクシデントに見舞われる。だが、リードボーカル不在という危機を、バンドと交友のある様々なボーカリストを迎えることで、ワンマンを含めたツアー、そして初の海外ツアーを成功させている。

「ドールズ・コレクション」Special Trailer/DOLL$BOXX

 この時期にガチャピンのサイドプロジェクトとして、サポートとして参加したLIGHT BRINGERのボーカリスト・Fukiを迎え入れた形のバンド、DOLL$BOXX(ドールズボックス)が始動する。ハードロック・ヘヴィメタルをベースとしたサウンドはガチャピンとは一味違った硬派なバンドとしての側面を垣間見ることが出来る。この経験がバンドとして更なる飛躍に繋がったことは言うまでもないだろう。

GacharicSpin / 『ヌーディリズム』スポット

 バンドとして最大の危機を迎えたガチャピンだが、新たなボーカリストを迎えることなく、ドラム・はなとキーボード・オレオレナによるツインボーカル体制で新たな姿を見せていくことになる。ボーカリストとして、ギタリストとしてもバンドデビュー経験のある、パワフルなはなの歌と、ピアノ弾き語りシンガーソングライターとして活動していたレオナのしなやかな歌。タイプの違う二人のボーカリストは楽曲の振り幅を広げ、二人とも楽器を演奏しながら歌い上げるという姿は、見え方においてもバンドの強烈な個性であり、武器となっていった。

最強・最狂の全力エンターテイメント

 年間100本にのぼるライブをこなす、生え抜きのライブバンドである彼女たちはパフォーマンスに徹底的なこだわりを見せる。ギターのTOMO-ZOが加入した際も楽曲を覚えることよりもまず、“ギター回し”を習得したという。ストラップが外れないように楽器をガムテープでぐるぐる巻きに固定するなどの工夫は、 何かと見た目にこだわる女性プレイヤーが多い中、なかなか出来ない発想だろう。

 楽器を演奏しながら歌うという形態は、センターボーカリストのようなライブにおける煽りが出来ないというマイナス面がある。それを補うべく、バンドはパフォーマーを加入するという奇策に出る。1号 まいと2号 ありさは、ダンサーであると同時にあくまでパフォーマーであり、盛り上げ役である。今や、煽りと演出上の仕掛けとしてなくてはならない起爆剤となっている。バンドの顔、フロントマンの不在を逆手に取り、様々なアイデアとメンバー各々の見せ方を徹底することによって“全員が主役”ともいうべき、強烈な個性のぶつかり合いのバンドとして変貌していったのだ。

Gacharic Spin Never Say Never 7/16 Bass Magazine Presents The Power of Low-End

 一見、コミカルに見られがちなGacharic Spinだが、バンドと音楽に対する姿勢は生半可なものではない。確かな実力に裏付けされた徹底的な全力エンターテイメントは、原宿アストロホールに始まり、リキッドルーム、Zepp DiverCity、そして来年5月に決定している渋谷公会堂と、 実戦と口コミで着実に動員を伸ばしている。よもやガールズバンドという肩書きなど必要のないとさえ思える、アグレッシブでストイックな活動は今後もますます旋風を巻き起こしてくれるに違いないだろう。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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