初音ミク生みの親=クリプトン伊藤博之社長インタビュー「今は“いかに狭く売るか”という試みが大事」

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「『何を作るか』ではなくて、『何が求められているか』」

――自社で運営されているCGM型音楽レーベル『KARENT』ですね。配信リリースに特化しており、一般的なレーベルのようにアーティストと専属契約を結ぶ形とはまた違った方向性を示しています。

伊藤:特定のクリエイターだけをフォローするようなことをこちらがやると、平等に扱えなくなるので、それならば最初から誰も扱わない方がいい。音楽のプロダクションなどから見れば逆の発想なのかもしれませんが、囲えば逃げますし、囲わない方が長続きします。文化として定着させることを優先すると、後者に注目した方がいいと思います。また、『KARENT』の売上の半分以上は海外です。初音ミクのfacebookページに『KARENT』の新しい情報を載せていくことで、240万人に対するPRを行った効果であり、大きくメディアとして伝えるプラットフォームを作ったからこそここまで伸びたんだと思います。

――これからもクリプトン・フューチャー・メディア社の役割は「制作においてクリエイターを支援していくこと」になるのでしょうか。

伊藤:先ほど「狭く売る」と言いましたが、それは「セコく売る」ということではなくて、いかに価値を共感してくれる人に届けるか、ということです。単に原盤として音楽を作って、出版して営業してカラオケに入れて…という繰り返しは、すごく作業的・機械的に行われているように感じてしまうし、そういうものはいい加減もういいなと思う。うちは「何を作るか」ではなくて、「何が求められているか」「どういう価値がどこで喜ばれるか」ということを念頭にやっていきたいと考えているんです。

 うちが提供するのは完成物ではなくて、「作る雰囲気」や「作るツール」、「作るきっかけ」であり、その例が初音ミクやピアプロというサイト(投稿されたイラスト、楽曲などの作品を、非営利などの条件下で会員同士が融通し合い、新たな作品を生みだせる創作の場として作られたもの)です。ネットで活動するアーティストは今後も増えるし、インターネット自体がなくなることはない。うちはアーティストを抱え込んでプロモーションしたりはできませんが、いろんなアーティストが活躍する機会、視聴されるサービスやツールを作ることが自分たちのやるべきこと、自分たちにしかできないことだと考えて取り組んでいます。

――そうしたアイデアは、社内のディスカッションなどから生まれるのですか?

伊藤:僕が考える場合もあるし、社員から上がってくる場合もあります。例えば、音楽ライブの情報を集める『gigle(ギグる)』(http://gigle.jp/)というサイトがありますが、これはうちの若手社員から出てきた発想です。チケット屋が独占的に持っているコンサート情報は、ほかのチケット屋からは出てこないし、多くの情報を俯瞰できる場所がないから、作ってしまおうと。立ち上げたあとに忙しくなって放置していてビジネスにはなっていないのですが、アクセスだけは常に右肩上がりです(笑)。

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