『横山健―疾風勁草編―』DVD化記念インタビュー(後編)
横山健が語るレーベル運営のリアル ピザオブデスはなぜ100%利益優先にならないのか
「いわゆるメロコアと呼ばれてるものはもうガラパゴス化してる」
横山:たとえばね、今後ピザではWANIMAっていうバンドのマネージメントも手がけることになったけど、それも僕は関わってない。スタッフみんながやりたいって言うから「じゃあやってみたら?」って。それでいいの。変な話、自分たちでバンドを育てていけないんだったらピザオブデスはただの「横山健の会社」になっちゃう。それは社員自身が思ってるみたいで。だから、社長として僕がいるのはしょうがないけど、自分たちの力量で何かやりたい、もっと踏み込んで言うと「横山さん関係ないところでトライしようよ」っていう。それは僕も嬉しいし、むしろ歓迎すべきことで……嫌われてなければ、だけどね(笑)。
一一健さんが直接関わったのは、若手のプロデュースですかね。今年の3月に出たドラッドナッツ。プロデュース業はハワイアン6以来、12年ぶり。
横山:そう。でも気持ちは自分でもびっくりするくらい一緒だったかな。ただ、世の中への響き方がこうも違うのかと思って……。ハワイアン6は新鮮さをもって世の中に受け止められたけど、ドラッドナッツはまだ、たくさんあるメロディック・パンクのひとつ、くらいにしか受け止められてないんだなぁって。それはバンドの力量もあるだろうけど、10年経ってしまった、っていうことも大きいのかな。だからドラッドナッツのメンバー励ます意味で「これが10年前だったら、お前らハワイアン6どころじゃなかったよ?」って慰めにもならないことを言ったりして。
一一ははは。酷い(笑)。
横山:でもね、若いといっても30代……バンドによっては30代後半で、それでも音楽をやっていこうっていう、その姿は美しいし。そこにアドバイスするのは自分の責任なんだろうと思う。やっぱりね、僕、メロコアって言葉は大嫌いだけど、メロディック・パンクやってる連中が可愛くてしょうがなくて。
一一それは、自分に影響を受けてくれたから?
横山:だと思う。だからなるべくフックアップしたいし、なるべく直接話したい。「独自のことやってかなきゃダメだ」「メロコア聴いてメロコア鳴らしてるようじゃダメだぜ」って、どこ行っても話すようにしてる。
一一今のメロコアの大半は、バンドも客も含めて「メロコアというカタチが好きな人」だけの遊び場になっている気もします。
横山:まさに。俺もそう思う。メロディック・パンクはまた違うけど、いわゆるメロコアと呼ばれてるものはもうガラパゴス化してる。それぐらい凝り固まっちゃったかな。これ以上伸びようがない気がするし。でもね、ある若手にそれを言ったら「でも! メロディック・パンクって一番格好いいと思いません?」って返されて。音楽の一番いいところ全部取ってるんだ、メロディが綺麗で、アレンジは気が効いてて、エナジーがあって、メタルっぽいザクザクのリフもあって。「だから一番格好いい音楽だと思うんですよ!」って力説されて「……確かに!」って思った自分もいたな。だから、それだけじゃダメだと思いつつ、ほんと可愛いし、応援したいんだと思う。
一一健さん、なんだかんだと楽しそうですよね。状況は決して良くないし、たまにはヘソ曲げたくなる事実もあるだろうし、「もう若い連中のことは知らんわ」って言いたくなっても不思議はないのに。
横山:うーん。今ふと思ったのは……結局、成功とかおカネっていうのは大切なことじゃないから。もちろんバンドが成功したほうが関わる人間は嬉しいし、ピザオブデスとしても役割を果たせるんだろうけど。でも本当に大事なのはそこじゃない。生きてく上でね。どれだけ笑ってどれだけいい時間を過ごしてどうやって死んでくかっていうことで、そっちのほうがよっぽど大事。僕、いっつもそんなこと考えてる。それはピザオブデスが100%利益優先にならない理由でもあって。もちろん成功したら嬉しいけども、一緒にいるだけでも嬉しい。周りに人がいてくれて、慕ってくれる奴もいて、「お前バカだなぁ」とか言いながら笑って。それが人生豊かってことだし、それが今は本当に楽しい。もちろん、怒りの部分が強くなればまた次の作品で何かモノ言いたくなるだろうけど。ちょうど今はこういう時期なのかもしれない。
(取材・文=石井恵梨子/写真=石川真魚)
■リリース情報
『横山 健 -疾風勁草編-』
発売日:9月24日
価格:3,800円(税抜)
収録分数:本編 117分 + 特典映像 37分
発売元:PIZZA OF DEATH RECORDS
特典:DVDでは劇場本編には収録されていない特典映像も収録のほか、
Ken Yokoyamaの新曲を収録したシングルCD付き。