ソロ2ndアルバム『Lazaretto』インタビュー
ジャック・ホワイトが語るソロ新作とアナログ再評価「針で溝を引っかく以上に美しいものがあるかい?」
「アナログ・レコードっていうのはメカニカルな物体であって、音楽を本当に愛する人々を惹きつけるんだよ 」
――あなたはアルバムを3人の女性たちに捧げていますね。アイコンと呼べる偉大な女性たちに。なぜ彼女たちを選んだんですか?(注:2012年に亡くなった最後の第一次大戦従軍者フローレンス・グリーン、フェミニスト作家のヴォルテリーン・デ・クレイア、米海軍准将かつ科学者のグレイス・ホッパー)
ジャック:曲を書きながらふと書き留めていたのが、彼女たちの名前だったんだ。僕の好奇心をすごくそそる人たちなんだよ。キャラクターを核に曲を書く時には、ほかのキャラクターや人物について調べて、その人たちがどんな風に生きたのかを知ることも、すごく参考になる。そうやって得た知識が、曲のキャラクターのパーソナリティの一部になったりもする。俳優でもいいね。もしくは、映画のキャラクターになり切って、そのキャラクターを好きなように行動させて物語を作ったり……。例えば、ジョン・ウェインと『オズの魔法使い』のティンマンをミックスして、別のキャラクターを生み出すとかね。実在の人物でも、そうじゃなくても構わないんだ。その女性たちに関しても、もっと詳しく知りたいと思ってメモしていたんだよ。それに面白いことに、アルバムは「Three Women」っていう曲で始まるから、3人に捧げることでアルバムが一巡して完結するような気がした。あと、娘にもいいかなって思ったんだよね。お手本に出来る、力強い女性像を娘に提示してあげたかった。昨今、そういう人を見つけるのはすごく難しいからね。
――そしてアナログ・レコードの再評価にもあなたは貢献してきて、ここにきて見事に復活をとげて急成長していますよね。
ジャック:ああ、本当に好調だよね。
――あなたは最初からカムバックを確信していたんですか?
ジャック:僕には自分なりの想いがあった。今年でサード・マンは誕生5周年を迎えるけど、オープンした当時、みんなに「アナログ・レコードを売るってマジかよ?損するに決まってるのに」と言われたものさ。でも損なんかしなかった。最初からずっと利益はあった。かといって金儲けのためにサード・マンを始めたわけじゃないけどね。アナログ・レコードっていうのはメカニカルな物体であって、音楽を本当に愛する人々を惹きつけるんだよ。音楽を本当に愛する人々は、実際にお店に足を運んで、欲しいレコードを探して手に入れる。単に車を運転しながら音楽を聴きたいっていう人たちもいるけど、それはそれで構わない。でも本当に音楽を愛しているなら、実際にどこかに行って、何かを手に入れて、何かを読んで、何かを眺めたいと思うものなんだ。そういう欲求を満たしてくれる、最高の形態なのさ。僕自身は、それがカセットテープだろうが8トラックのテープだろうが、手で触れることが出来れば何だって構わなかった。ただアナログ・レコードが最高の形態だというだけ。本当に美しいものだからね。だって、針で溝を引っかいているだけなんだよ。これ以上に美しいものってあるかい? それは未だ滅びてはいないし、人々の愛情も薄れていない。ほら、将来映画館さえ無くなってしまう可能性があるなんて、本当に恐ろしい話だよね。ケータイで映画を観る時代が来るかもしれないんだ。ゾッとするよ。音楽も、もう少しのところでそういう憂き目に遭うところだった。でも幸運にも、この5年間に人々は気付いたんだよ、「アナログ・レコードこそ本物の音楽だ」とね。こうしてカムバックして、今やセールス面では一番勢いがあるフォーマットだ。こんなことが起きて、人類の一員として本当に誇らしく感じているよ。
――じゃあ『Lazaretto』を聴くのに最も適したフォーマットもアナログということですね。
ジャック:ああ、そう思うよ(笑)。
――あなたという人物に関する誤った認識があるとしたら何でしょう?
ジャック:おかしい話なんだけど、コントロール・フリークだと思われてしまうことがある。サード・マンみたいな場所に来ると、きっと、「ここは青く塗るんだ!」と僕が誰かに大声で命令しているところが思い浮かぶんだろうね。でも僕と一緒に働けば、全然そうじゃないってことが分かる。例えば僕の場合、「この部屋を思い切りカッコ良くしようよ。ブリキで天井を張るのは可能なのかな?」と提案する。すると誰かが「出来るよ」とか「無理だね」とか返事をして、無理だと言われたら「じゃあ代わりに銅を使おう。銅なら大丈夫かな」と相談するんだ。それって、「オレの知ったことか!今すぐブリキを持って来い!」と命令するのとは違う(笑)。僕はとにかく、ほかの人たちと力を合わせて、何か美しいものを作り出し、何かを成就することを好む人間なんだ。自分がボスだろうがボスじゃなかろうか、そんなことはどうでもいい。ただ、こういうヴィジュアル的な主張が強い場所を目にすると、人間って自然に「ああ、こいつはコントロール・フリークだな。偉そうにして人に命令するのが好きなんだ」って思い込んでしまう。でも実際には、紙切れに「あの壁を黒く塗ってもらえますか?」と書いて誰かに手渡すほうが、僕には合ってるんだよ。誰かに実際にそう頼む自分の声を聴くのもイヤなくらいで(笑)。それでもやっぱり、カッコいい壁にしたいって気持ちは変わらないんだけどね!
――ところで、英国BBCの『Peaky Blinders』というドラマに多数のあなたの曲が非常に効果的に使われていたんですが、観たことはありますか?
ジャック:うん、1話だけ観たけど、すごく良かったよ。曲を使いたいと依頼されて、これなら全然構わないと思って、オーケーしたんだ。
――そういうオファーは積極的に受け入れるほうですか?
ジャック:そうだね。でも最近は判断に困るケースがある。例えば、ザ・デッド・ウェザーの曲をビデオゲームに使いたいという話が舞い込んで、僕はどう判断していいのか分からなくて、ほかのメンバーに訊いたんだ。すると、構わないんじゃないかって言うから、オーケーしたんだけど、ひとつに「イエス」と言ったら、ほかも全部許可しなくちゃいけなくなるだろ? どれもビデオゲームで、僕には違いが分からないし、だったら全部に「イエス」と言うしかない。僕はゲームはやらないし、僕の周りの人にもゲーム好きはいないから、例えば『コール オブ デューティ3』に使いたいと言われても、それが何だかさっぱり分からないんだよ(笑)。それに、テレビのCMに曲を提供するってことに関しても、昔とは全然考え方が変わったよね。僕が子供だった頃のアメリカでは、有名な映画スターが日本でシャンプーのCMに出ていたりして、それが日本であれば全く構わなかった。でもアメリカで同じことをやったら笑い者になる。なぜそうなのか理解出来なかったし、未だに謎なんだけど、最近ではアメリカでもそれが許されるようになった。自分が好きなアーティストの曲が、どんどんCMから聴こえてくる。だから僕の考え方も変わったよ。いい曲を書けば、遅かれ早かれCMや映画に使われることになるんだ。「CMにオレの曲は絶対使わせない」と拒み続けたとしても、自分が死んだら誰かが勝手にオーケーするだろうしね。コートニー・ラヴがいったい何回カート・コバーンの曲の使用を許可したか、考えてご覧よ! カートなら決して許さなかったような代物にね(笑)。だから、いい音楽を作ればいつかどこかで耳にするだろうし、究極的には、一旦曲を書いて発表したら、それは自分の手を離れる。もはや僕のものじゃないんだ。
――そういえばソロの新作のほかにもう1枚進行中だとコメントしていましたよね。
ジャック:もう1枚はニール・ヤングのアルバムだよ。間もなくリリースされる予定で、僕がニールと共同プロデュースした。サード・マンのショップにあるレコーディング・ブースで全編録音したんだ。あまり詳しくは話せないけど、素晴らしい体験だったよ。
(取材=新谷洋子/制作協力=Sony Music Japan International)
■リリース情報
『Lazaretto』
発売:6月11日
価格:¥2,200+税
<収録内容>
1. Three Women | スリ―・ウィメン
2. Lazaretto | ラザレット
3. Temporary Ground | テンポラリー・グラウンド
4. Would You Fight For My Love? | ウッド・ユー・ファイト・フォー・マイ・ラヴ?
5. High Ball Stepper | ハイ・ボール・ステッパー
6. Just One Drink | ジャスト・ワン・ドリンク
7. Alone In My Home | アローン・イン・マイ・ホーム
8. Entitlement | エンタイトルメント
9. That Black Bat Licorice | ザット・ブラック・バット・リカリッシュ
10. I Think I Found The Culprit | アイ・シンク・アイ・ファウンド・ザ・カルプリット
11. Want And Able | ウォント・アンド・エイブル