西寺郷太『TEMPLE ST.』全曲解説インタビュー(前編)
「仏教と洋楽の“土着化”は似ている」お寺育ちの西寺郷太が初ソロで挑戦したこと
02. TEMPLE/SHAKE
Tears For Fears/The Working Hour(1985)
Stevie Wonder/Dark 'N' Lovely(1987)
Peter Gabriel/Sledgehammer(1986)
坂本龍一/Free Trading(1987)
Harbie Hancock/Rockit(1983)
――ティアーズ・フォー・フィアーズの「The Working Hour」は意外なセレクションでした。
西寺:これは“2曲目イズム”ですね(笑)。ティアーズ・フォー・フィアーズの「The Working Hour」は『Songs From The Big Chair』の2曲目、大ヒットした「Shout」の次に収録されている曲なんですけど、ジャズの要素が入っていたりして「俺たちはこんなこともできる!」みたいなケンカの強さを見せつけてるあたりが“2曲目イズム”を感じさせる。この「TEMPLE/SHAKE」はまさにそんな感じで、7/8の変拍子になっているのと、Negiccoの「愛のタワー・オブ・ラヴ」みたいにヘンなベースラインがしつこく鳴ってるところがポイントですね。シンセ・ベースならではの耳に残るベースラインは、スティーヴィー・ワンダーの「Dark 'N' Lovely」を考慮してつくったところはありました。ピーター・ガブリエルの「Sledgehammer」とか、ああいう鉄っぽい感じですね。
――80年代のポップス特有の味わいですよね。
西寺:「TEMPLE/SHAKE」ではいつもNONAのプロデュースを頼んでいる冨田謙さんがピアノ、宮川弾さんがフルートを担当しているんですけど、この2人は僕にとってトータル・プロデューサーの二大巨頭なんです。今回はNONAと同じになっちゃうから冨田さんではなく弾さんに全体的なコプロデュースをお願いして、冨田さんには“監督”ではなく、あえて“選手”として参加してもらいました。それぞれに思いっきり演奏してほしいってお願いしたんですけど、自分的には竜と虎を戦わせたような感じでしたね。それがこの曲の勝因につながってるのかなって。僕の考える究極のマエストロである2人に演者になってもらった面白さがあると思います。マイルス・デイヴィスがよくやっていたように、優れたプレイヤーを呼んでくること、揃えることが仕事だったみたいなところはありますね。
――後半はまさに竜と虎の戦いというか、冨田さんと宮川さんのインプロヴィゼーションの応酬で混沌とした展開になっていきます。
西寺:ヒクソン・グレイシーじゃないですけど、2人とも本当にケンカが強いから意外と動かないんですよ。その間をつくった戦い方がまたグッとくるというか。埋めるんじゃなくて抜いてくる感じがまたこの曲に合ってますよね。2曲目に比較的ポップス的ではないこういう曲を入れることが“2曲目イズム”になるのかなって。この曲や7曲目の「SILK ROAD WOMAN」は歌が入ってるけどそれほど歌詞は重要ではないというか、どちらかというとインスト的な良さがある曲ですね。
――坂本龍一さんの「Free Trading」は、冒頭で話した『TEMPLE ST.』のエキゾチシズムやオリエンタリズムにリンクしてくる楽曲ですね。
西寺:坂本さんのアルバムでは『Neo Geo』をいちばんよく聴いていて。ちょっとしたオリエンタリズムみたいなものがありますけど、この曲にしても中国語の語りが入っていたりして。でもこれは僕が連想したというよりは、冨田さんに「TEMPLE/SHAKE」を渡したときに「『Free Trading』を思い出した」って言われたんですよ。「似てるというわけでもないけど感覚的に合う」って。
ハービー・ハンコックに関してはすべてにおいて詳しいわけではないんですけど、『Sunlight』(1978年)みたいなポップに寄っていったものは結構好きだったりします。「Rockit」は賛否両論あると思いますけど、僕らのようなMTV世代にはデカい曲だし、ああいうインストなんだけどインパクトがある曲は自分のなかでやってみたかったんですよね。
03. SCHOOL GIRL
Mr. Mister/Broken Wings(1985)
Blow Monkeys/It Doesn't Have To Be This Way(1987)
Maylee Todd/Hieroglyphics(2011)
Dr. Original Savannah Band/Cherchez La Femme(1976)
Pharrell Williams/Happy(2013)
――郷太くんのこういうブルー・アイド・ソウルっぽい歌ごころが出る曲は好きですね。Mr.ミスターの「Broken Wings」はちょっと意外でしたが。
西寺:空間的だけど淡々としてる感じが「Broken Wings」にちょっと似てるかなって。車がスローモーションでゆっくり進んでいくような絵がイメージとしてあったんです。最初から歌詞もできていたし、本当にサクッと出来上がった曲なんですよ。
ブロウ・モンキーズの「It Doesn't Have To Be This Way」に関しては、こういうゴーゴーっぽいリズムの曲は打ち込みでしかできない曲というのがあって。NONAでもやれるタイプの曲だとは思うんですけど、そうするともっとホットな仕上がりになるような気がするんですよね。自分でもドラムを叩いてるんですけど、それはもうサンプルしてるから、そこは無機質にグルーヴと歌だけでもっていく感じにできたのがソロっぽさなのかなって思ってます。
――さっきのトロ・イ・モアじゃないですけど、メイリー・トッドは郷太くんと音楽の趣味が合いそうなアーティストですよね。
西寺:メイヤー・ホーソーンなんかもそうですけど、最近は話が合いそうなアーティストが増えてきました。昔からNONAがやってきたことだったり、僕が好きだったことが海外から発信されてまた戻ってきたというか。サバンナ・バンドの「Cherchez La Femme」に関しては、ディレクターから「ああいうのつくってほしい」ってリクエストをもらっていたんです。『MUSIC 24/7~TAMAGO RADIO』(2013年10月から2014年3月までTBSラジオで放送された西寺郷太がパーソナリティを務める音楽番組)のテーマ・ソングとしても使ってるんですけどね。
「SCHOOLGIRL」は10代のころに可愛い女の子をずっと眺めてるときの気持ちを歌ったような曲なんですけど、そういうドリーミーな雰囲気を表現するのにサバンナ・バンドのビッグ・バンド的なタッチは打ってつけだなと思って。ファレル・ウィリアムスの「Happy」は、この曲のレコーディングが終わったころに聴いた曲で、永遠に繰り返せる感じが近いなと。
――その「Happy」が入ってるファレルのニュー・アルバム『G I R L』は、今回の郷太くんのソロに通じるところがあると思いました。やっぱりさらりと聴けるというか、良い意味での軽さが心地よいんですよ。
西寺:その軽さみたいなことは今回学んだところです。自分もミュージシャンで音楽好きだから一生懸命になって曲を聴いてしまうんだけど、世の中の人って良い意味で音楽と距離を置いて接してますよね。なんていうか、お店に入ったらずっと付きまとってくる店員みたいな音楽じゃなくて(笑)、声をかけたらいろいろ教えてくれるけどサッといなくなる店員のような音楽のほうがいいのかなって思い始めたんです。ようやく今回それができましたね。
――ファレルの『G I R L』って、音楽史に残るようなマスターピースを目指してつくったアルバムというよりは、いまこのタイミングで出すことが重要だからつくったアルバムという感じがするんですよね。彼はいま絶好調じゃないですか? 郷太くんも同じようにここ最近はクリエイティビティに溢れていて、その延長でつくられた作品という印象を受けるんです。
西寺:今回はおそろしく悩んでないんですよ。
――まさにそれが『TEMPLE ST.』の聴きやすさというか軽やかさにつながってるんだと思います。だからファレルの『G I R L』とは音楽的な同時代性も感じるし、スピリット的にも重なる部分があると思いますよ。
(後編に続く)
(取材・文=高橋芳朗)
■リリース情報
『TEMPLE ST.』
(GOTOWN/ VIVID SOUND)
発売:3月25日
価格:2,800円
〈収録曲〉
01. EMPTY HEART
02. TEMPLE / SHAKE
03. SCHOOLGIRL
04. I CAN LIVE WITHOUT U
05. SANTA MONICA
06. BLUEBERRY BAG
07. SILK ROAD WOMAN
08. YOU MUST BE LOVE
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