アイドルから松崎しげるまで……意外なプロデュースワークに見る亀田Pの「真の武器」

 声優アーティストの中で、亀田が長らく関わっていたのが國府田マリ子。編曲の大半に携わっていたのはもちろん、ライブではバックバンドのベーシストとしても参加していた。今でこそ、当たり前となった声優の歌手活動だが、亀田が関わっていた90年~00年初頭と言えば、ちょうどその動きが活発になってきた、いわば黎明期。この時期のJ-POP界はエイベックス系クラブサウンドと、ミスチル等のロックバンド勢がチャートを席巻していた時代だったが、声優アーティストたち(及びそのファンたち)には王道の歌モノ人気が高かった。そんな背景の中、数多のアイドルたちの楽曲制作経験を経てきた、キャッチーなアレンジは、ニーズに見事合致。メロディックなベースラインも際立ち、以降のさまざまなタイプのアーティストプロデュースに繋がる点も多い。

 一方で、既存の楽曲のアレンジを手掛けてもいる。そのひとつが松崎しげるの「 愛のメモリー 2012 ver.」(!)。楽曲の発売35周年を記念して、さまざまなバージョンの「愛のメモリー」がおさめられている『愛のメモリー(発売35周年 アニバーサリーエディション) [Single, Maxi]』中の1曲となっている。ピアノが印象的なイントロから、ホーンや弦楽器を使ったサビは、「2012ver」と銘打っているだけに、今風のテイスト。JUJUやアンジェラアキなど、亀田プロデュースの女性アーティストが歌うバラードのアレンジによく似て、ゴージャス感が増している風でもある。誰もが知る有名曲を新たな手触りに生まれ変わらせる。それもまた高い技術の賜物だろう。

 曲調だけでなく、時にはアーティストのイメージすらガラっと変えてしまうことができる--プロデューサーの役割とはそれだけ大きなものだ。そんな中でこれだけ引く手あまたとなれば、その理由はテクニックだけではないはず。亀田と仕事をした多くのアーティストは、インタビューの中で「物腰の柔らかい、魅力的な人」などと語っているが、その人間性こそがもうひとつの要因だと思われる。そしてそれを裏付けたのが、昨年開催されたライブイベント「亀の恩返し2013」。スピッツ、スガシカオ、いきものがかりなど日本の音楽界を代表するトップアーティストたちが、亀田を慕いレコード会社の垣根を越えて集結し、イベントは大成功を収めた。こんな風にアーティストと強固な信頼関係を築けること、そしてそれぞれに合わせて、絶妙のプロデュースワークを展開できること、さらには日本人の心に響く耳馴染みのよい“亀田節”。各所で発揮される柔軟で器用な立ち回りこそ、プロデューサー・亀田誠治の真の武器であるように思う。
(文=板橋不死子)

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