「DJに求められるものが違う」瀧見憲司が語る、海外のクラブ現場事情

Kenji Takimi @ Retro Futuro, Tipografia Club, Pescara

――でも日本国内だけでなく、海外でプレイすることをやめないですよね。

瀧見:呼ばれるうちは行っておこうと思いますけどね。プロのクラブDJなら、たとえ自分のファンがいない状態でも、やらなきゃいけない。そこで呼ばれるってことは、プロとして評価されてるってことだし仕事だから。でも自分のプレイのどこが面白がられているのか、正直よくわからくて、読めないからこそ面白い現場もありますけどね。ハマってるのか外してるのか、どこまでやっていいのかわからなくなるときがある。そこもまたジレンマなんですよ。

――となると、日本人であることを前面に出していくしかないってことですか。

瀧見:そういうやり方でお手本になるような前例がないんですよ。いわゆる音楽的にジャパニズム的な方向にはまったく興味ないし。ただ、もちろんアーカイヴィングと新しいもののバランスとかに違いを見いだしてもらってるのかな、と感じるときはあります。

――海外のお客さんと日本のお客さんの違いは感じますか。

瀧見:僕なんかがやってる界隈でいえば、お客さんの音楽的な知識量レベルは日本のほうがはるかに高いですよ。向こうのDJは「日本人はほんとわかってる」って言いますね。曲をちゃんとわかって聴いている、と。向こうのクラブって、日本でいうカラオケと居酒屋とクラブが合体したような感じなんですよ、<場>としては。あらゆる人がいるわけです。年齢も職業も含めて。ボーイ・ミーツ・ガール的な男女の出会いの場や社交場としても機能している。日本のクラブはマニアックなお客さんが多いハコと、若い一般の人が多いハコが現状かなり分化してる。でも向こうでは、音楽には全然詳しくなくて、酒を飲みにくるだけの人もマニアックな客より比重としてはたくさんいる。ただ、曲は知らなくても音はわかるんですね。そこが全然違う。

――なるほど。曲を知らなくても、いいプレイなら踊ってくれると。

瀧見:そう。だからそこのスキルをすごく要求されるわけですよ。場をキープするグルーヴ感の抑揚と時間軸に対する感覚がかなり違う。DJも一人5〜6時間とか普通だし、パーティ自体も一昼夜とか毎週普通にやってますからね。逆に、ヨーロッパでバリバリやってるDJが日本のマニアックな客相手に向こうと同じ調子でやって外すこともありますね。「普通じゃん!」って。DJに求められるものが違うから。日本ですごく人気があっても、ヨーロッパではそうでもない、って人もいるし。

――ああ、わかります。

瀧見:あと、海外の客はエネルギーの量が違うと感じる時は多いですね。その場における熱量のこもり方というか、パワーの出し方がストレートなんで。非言語コ ミュニケーションではあるけど、でもやっぱりコミュニケーションはとらなきゃいけないわけで。そこでエネルギーも使うし。

――どっちがやりやすいんですか。

瀧見:それは、音楽的にやりたいようにやれるという意味では、マニアのお客さんがたくさんいる日本のクラブの方がやりやすいですよ。

――でもそこで安住してるだけでは自分の世界が広がっていかない。

瀧見:それはあるかな。ただそう思ったとしても、DJっていうのは呼ばれないと成り立たない職業ですからね。需要がないところでやっても仕方ないわけで。お客さんがいてこそだから。お客さんに引っ張られて場が変わるというのは凄い面白いですからね。

――そこらへんがアーティストとDJの一番の違いかもしれませんね。

瀧見:逆にそれがあるからこそ、ある程度歳が行ってもやれてるのかなと。メンタリティが違うんですよね。アー ティストって「自分を見てくれ」という職業じゃないですか。自分を紹介するっていうか。でも自分の思うDJとは、自分を介してほかの音楽や状態を紹介する仕事ですからね。

――そこに関連してなんですが、1年ぐらい前のアンドリュー・ウェザオールとの対談で、DJがアーティストとして音楽を作るときの限界、というようなことを話されてましたよね。

瀧見:限界というか……単純に聞き手として、音楽としてどっちに感動するかといえば、もちろんDJが作る音楽にもいいものはたくさんあるけど、ギター一本で歌う歌にはかなわないんじゃないか、というのが常にある。つまりDJって長い時間体験しないと良し悪しがわからないじゃないですか。即効性がそんなにない。一曲単位ではDJは勝負できないですからね。長編小説なんですよあくまでも。だからひとつかみで掴めるかっていったら、難しいんじゃないかと。

――ああ、なるほど。一瞬のインパクトがあるかないかということですね。それを羨ましいと思うんですか。
瀧見:羨ましいとは思わないけど。ただそこの溝は絶対埋まらないんだろうなとは思います。領分が違う。そこは違うものとして割り切ってやるしかない。だから自分が音楽を作るときにも、ミュージシャン的な作り方はあえてしないようにしている。それはミュージシャンに任せておこうと。

――でもアンディはそういう考え方じゃないみたいですね。

瀧見:そうですね。自分に自信があるんじゃないかな。

――その違いはどこにあるんですか。

瀧見:それは最初(の質問)に戻るかな。バックグラウンドとメンタリティの違いは確実にある。同じようなものを聴いていたとしても。だからビジネス的な効率だけを考えたら、ドメスティック・マーケットだけでやるのがいいんですよ、どう考えても。(後編:「音にフォーカスすると国境を越える可能性はある」瀧見憲司がJPOPと距離を置く理由に続く)

(取材・文=小野島大)

■リリース情報
『XLAND RECORDS presents XMIX 03』
発売:2013年10月9日
価格:¥2,520(税込み)

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