セクシュアル・マイノリティがテーマの映画はどう変遷した? レインボー・リール東京担当者に聞く

「レインボー・リール東京」インタビュー

 「第27回レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」が、7月7日に東京ウィメンズプラザホールで開幕した。会場をスパイラルホールに移し、7月13日から16日まで開催が続く本映画祭は、セクシュアル・マイノリティをテーマとする作品を上映する映画祭で、今年27回目の開催を迎えている。昨今はセクシュアル・マイノリティを扱った作品が日本でも多く見られるようになってきたが、25年以上も前からそのような作品を取り上げてきたこの映画祭は、セクシュアル・マイノリティを取り巻く社会的な変化や作品の多様性に、どのように対応しているのだろうか。

 今回、リアルサウンド映画部では、フリーランスで映画の宣伝を行っており、本映画祭ではプログラミングや広報などを担当している村井卓実氏に取材を行い、映画祭の変遷や上映作品などについて話を聞いた。

「セクシュアル・マイノリティ作品の見せ方、宣伝の仕方の変化は感じる」

ーー今年で27回目を迎えるこの映画祭では、日本を含む世界各国さまざまな作品が毎年上映されています。上映作品の選定はどのように行っているのでしょうか?

村井卓実氏(以下、村井):今でこそ、セクシュアル・マイノリティへの理解がようやく進みつつある機運になってきましたが、27年前はカミングアウトするのは当然、困難なことでした。その時世に、映画というツールを通して、セクシュアル・マイノリティへの偏見を少しでも無くし、理解を進めようと立ち上がったのが、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭です。27年に渡り、全員ボランティアで運営しています。上映作品の選考も、そのボランティアスタッフの中の数名で行っています。スタッフの中でもシネフィルであったり、映画業界で普段働いていたりするメンバーで構成しています。今年は4名で選考しました。洋画は、セクシュアル・マイノリティを主題にした映画がワールドプレミアで多く集まるベルリン国際映画祭や、海外のセクシュアル・マイノリティ映画祭のラインナップなどを参考にしますし、27年も運営していますので、ワールドセールスから直接持ち込まれることもあります。今年は、ベルリン国際映画祭や、サンダンス映画祭、BFIなどから作品をピックアップしています。邦画は、洋画と違い、セクシュアル・マイノリティをテーマにした作品が潤沢には存在しません。BL映画はそこそこ制作されますが、当事者にとってリアリティのある骨太な作品はなかなか制作されないのが実状です。なので、当映画祭では一般からの公募を広く呼びかけています。メジャー作品ではありませんので、バジェットも少なく、有名な俳優が出演しているわけでもありませんが、セクシュアル・マイノリティを率直に捉えた、商業映画にはない自由な発想のものが多く、選考している私たちも楽しんで試写しています。

ーー「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」から「レインボー・リール東京」と映画祭の名称を変更したのは2016年でした。名称変更にはどのような意図が?

村井:かなり以前から、改名したいという思いは持っていました。映画祭が立ち上がった当初は、「レズビアン&ゲイ」という名称で、レズビアンやゲイの当事者が楽しめればそれで良かったのですが、当然世の中には、バイセクシュアルやトランスジェンダーの映画も人も存在します。東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも、そういったテーマの映画を上映するようになり、観客にもバイセクシュアルやトランスジェンダーの人たちが増えてきました。となると、「レズビアン&ゲイ」という名称では、現状に合っていない違和感のようなものが生まれていました。そこで、新名称を考え始めたのですが、今流行の「LGBT」では、また漏れてしまうセクシュアリティの人たちが出ますし、新しい名称に相応しい言葉がなかなか見つからず、何年も経っている状態でした。2016年の“第25回”という節目の年になったとき、ここで踏ん切りを付けるべく、何とか絞り出したのが、現在の「レインボー・リール東京」です。ただ、「映画祭」という言葉が入っていないため、一見何のイベントなのか分かりにくいという心配があり、5年間は「レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」という長ったらしい併記で行くと決めて、今年で3年目になります。浸透したとは全く言えない感じがするので、またもしかしたら変えるかもしれませんね(笑)。

ーー映画祭の集客面、客層や動員についても教えてください。

村井:客層で一番多いのは、もちろんセクシュアル・マイノリティの当事者たちで、全体の6割くらいです。3割は、ヘテロセクシュアルの人たちです。これは海外のセクシュアル・マイノリティの映画祭と比べても異様に多い数字ですね。また、全員ボランティアによる運営のため、スタッフはみんな仕事と掛け持ちしながら参加しています。ですので、毎年同じマンパワーが集まるとは限りません。その年の映画祭の規模は、マンパワーに左右されることも多いです。その規模によって観客動員も変わりますね。

ーー昨今は社会的にもセクシュアル・マイノリティを取り巻く状況が、一歩ずつではありますが変化しています。日本でも、LGBTを題材にした作品の配給や制作が増えてきた印象がありますが、実感としてはいかがでしょう?

村井:以前からコンスタントに、劇場でもセクシュアル・マイノリティ作品は公開されてきました。ただ、その見せ方、宣伝の仕方の変化は感じます。以前は、同性愛がテーマである作品にも関わらず、同性愛を「人間愛」と置き換えていたり、シノプシスにも一切出てこなかったりなど、珍しくありませんでした。ただ、当事者はスチールから漂う雰囲気、においみたいなものから直感で嗅ぎつけて劇場に通っていましたけどね(笑)。今は、そこまで隠して宣伝するということは見られなくなったような気がします。また、制作ですが、昨年『彼らが本気で編むときは、』という荻上直子監督・脚本による作品がありました。主役のトランスジェンダーを演じたのは生田斗真さんで、そのパートナー(恋人)役は、桐谷健太さんでした。もっと前であれば実現しなかったキャスティングだと思います。少しずつではありますが、メジャー作品の環境、考え方も変化している証しなのかもしれません。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる