>  > 小野寺系の『モリーズ・ゲーム』評

不道徳さと道徳的な要素が密接に絡み合う 『モリーズ・ゲーム』の立体的で複雑な人間像

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 一晩で1億ドルを失った客もいたという、超高額レートの秘密ポーカークラブを、ロサンゼルスやニューヨークで運営し、レオナルド・ディカプリオなどの映画俳優、投資家やスポーツ選手など名だたるセレブリティを集めたといわれている実在の女性、モリー・ブルーム。違法行為があったとしてFBIに逮捕され、スキャンダラスな「ポーカー・プリンセス」としてアメリカ市民に知られるようになった彼女の実話が、このほど『モリーズ・ゲーム』として映画化された。

 かつてモーグル(フリースタイル・スキー)選手として、冬季オリンピック出場も有望視されていたモリー・ブルームは、同時に高いIQと美貌と若さを持つ、どの分野に挑戦しても一定の成功をあげることが期待できる、類い希な人物である。本作『モリーズ・ゲーム』では、そんな彼女が、なぜこのような違法な闇のビジネスに関わってしまったのかということを描いていく作品だ。ここではそんな本作の、映画を観ただけでは分からない背景や、劇中の描写などから、ねらいや面白さをできるだけ深く読み取っていきたい。

 ジェシカ・チャスティンが演じるモリーは、オリンピック出場への道をあきらめ、田舎からロサンゼルスに移り住み、不動産業を営む経営者のアシスタントを務めながら、将来のキャリアのため法律の勉強をしていた。その経営者は、サンセット大通りの端にあるバーを根城に、地元の著名人を集め、不定期に秘密のポーカー・クラブを運営していた。一夜の参加費は、なんと日本円にして100万円を超える、1万ドルだったというが、L.A.の富裕層にとって、それは小銭のようなものらしく、彼らは気軽にポンと払って、莫大な額を賭けたカードゲームに興じるのだ。

 ポーカー・クラブでの記録や接客を担当することになったモリーは、セレブ客からのチップだけで、地味に生活費を稼ぐのがバカバカしくなってしまうくらいの金額を一夜に稼いでしまった。この経験が、成績優秀、品行方正なモリーの、真っ当な出世ルートを妨げてしまうことになる。

 クラブの運営側にとって最も重要な客は、ある有名ハリウッド俳優である。彼のカリスマによって、クラブの格や信用度が上がる。裕福な参加者たちは、映画スターと同じクラブに入っているという、財力だけでは手に入らないステータスに酔いしれることができる。

 この実在の俳優は「プレイヤーX」として名前が伏されている。彼はポーカーに興じる理由について、「人が破滅するところが見たい」などと口走るようなあぶない人物として描かれているが、その正体はアメコミ映画でブレイクした有名俳優“T.M.”ではないかと噂されている。映画で見せる柔和な印象からは想像しにくいが、本作では同様にあどけないイメージのマイケル・セラ(『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』)に、その「プレイヤーX」を演じさせている。

 景気の良い時期は長く続かない。モリーはその後、不動産経営者との金銭的いさかいによってクビにされ、実入りの良いポーカー・クラブから放り出されてしまう。普通の人間ならここで、大人しく学業の道へ帰っていくところだが、“転んでもタダでは起きない”のがモリーの持ち味だ。彼女は入手していた顧客リストを使い、高級ホテルの一室を借りきって、セレブにふさわしいリッチな雰囲気を提供するポーカー・クラブを作り上げ運営し始める。さらにロサンゼルスでの活動がまた頓挫すると、次はもっと金持ちの多いニューヨークに居を移し、ハッタリをかましノウハウを活かして、マンハッタンのプラザ・ホテルにて、さらに大きな規模のポーカー・クラブを開き、財界人やスポーツ選手を呼び込むことに成功する。

 つまずいてもつまずいても、モーグル競技で培った根性と明晰な頭脳によって、その状況をチャンスに変えていくのがモリーなのである。違法性があるビジネスだとはいえ、男性社会のなかで理不尽な現実を突きつけられながらも、へこたれずに成功を勝ち取っていく彼女の姿には、多くの観客が痛快さを覚えるのではないだろうか。だがそんな成功と引き換えに、モリーはついにロシアンマフィアとのトラブルによって、危険な状況に陥っていく。激務とプレッシャーのなかで、彼女は違法薬物に依存するようにもなる。

 このように本作は、不道徳さと道徳的な要素が密接に絡み合っている。そこで生まれる立体的で複雑な人間像を描くところが、本作の面白いところであり、それが秩序よりも個人の自立した価値観を尊ぶアメリカ映画の一つの醍醐味だといえるのだ。

      

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