脚本家・野木亜紀子が描く“会話”の面白さ 『アンナチュラル』が視聴者にもたらす“満足感”を探る
不自然な死の死因究明に挑む法医学ミステリー『アンナチュラル』(TBS系)。第1話、第2話ともに視聴後の満足度は高く、「もう1時間経ったのか」はたまた「こんなにたくさんの内容を詰め込んだのに、1時間に収まっているのか」という真逆の驚きが交錯する。
どんなドラマでも、面白さの決め手となるのは、登場人物がいかに魅力的であるか。この『アンナチュラル』は、主人公の三澄ミコト(石原さとみ)は言わずもがな、登場するすべてのキャラクターがそれぞれ魅力的。そして、それらの意思が重なりあう“会話”の面白さには、否が応でも引き込まれてしまう。
ミコトは、1日の始まりである朝だからこそ天丼を食べ、「法医学は未来のための仕事」と言い切る法医解剖医。第2話で冷凍コンテナに閉じ込められ、さらにはトラックごと水の中に落とされるという緊急事態に陥っても「人間は意外としぶとい」「明日、何食べようかな」と、たくましい。幼い頃、家族が無理心中を図り、唯一の生き残りとなった過去を持つミコト。辛い過去を背負う彼女は“前向きな言葉”という鎧をまとい、本心を隠して力強く歩んでいるようにも見える。
そんなミコトの言葉には得もいえぬ鋭さがある一方で、臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)との何気ない会話に垣間見えるのは、ユーモアと柔らかさ。法医学初心者の久部六郎(窪田正孝)を前に繰り広げた「科捜研は常に順番待ち」「沢口靖子は忙しいの」といったやりとりをはじめ、2人が淡々と繰り出す会話劇はクセになる。そして、鎧から私服へとお色直ししたかのようなミコトの言葉(表現)の振れ幅が、彼女の魅力をより際立てているようにも思うのだ。
ちなみに夕子は、終業時刻前でありながら「今月の残業時間合計がすでに勤務規定を超過しているため、自主的に相殺します」と、仕事よりもプライベート優先させるタイプ。仕事を優先することで婚約破棄となってしまったミコトとは正反対なのだが、タイプが違う互いを認め合うような絶妙な距離感がたまらなく心地良い。常に「死」と向き合う職場でありながら、「私も帰っちゃおうかな~」と呟く所長の神倉保夫(松重豊)含め、この会話の軽やかさがあるからこそ、重くなりがちなテーマについてライトに描くことができるのだろう。