「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『ナラタージュ』『あゝ、荒野』

週末映画館でこれ観よう!

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品&特集上映をプッシュします。

 『ナラタージュ』

 「嵐の松本潤? ああ、彼は俺の一個下だよ」がキメ台詞、ティンコウ松田がオススメするのは『ナラタージュ』。

 『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)の行定勲監督による最新作で、何を考えているのかわからないミステリアスな高校教師・葉山貴司を松本潤が、クラスに馴染めずにいたところ、声をかけてもらったことから葉山に強い恋心を抱く工藤泉を有村架純が、泉に執着する大学生・小野怜二を坂口健太郎が、それぞれ新境地となる演技で挑戦している話題作だ。すでにご存知の方も多いだろうが、有村架純はふたりとの濃密なラブシーンも披露している。

 話の筋はこうだ。大学2年の春、泉の元に高校時代の演劇部の顧問教師・葉山から、後輩のために卒業公演に出演してほしいと誘いの電話が来る。泉は、卒業式の日の誰にも言えない葉山との思い出を胸にしまっていたが、再会により気持ちが募る。しかし、葉山が実は既婚者であることを知り、自分を想ってくれる大学生の小野と付き合うが……というものだ。

 原作小説が発表されたのは2005年、作者の島本理生が21歳の時だ。前年となる2004年には、当時19歳だった綿矢りさが『蹴りたい背中』で、当時20歳だった金原ひとみが『蛇にピアス』で芥川賞をW受賞している。若手の女流作家による一連の作品群は、同世代の女性からだけではなく、娘の気持ちがわからないと悩む親たちにも求められ、社会現象にまでなった。それぞれ作風は異なるものの、若者ならではの瑞々しい感性をペシミスティックな視点から切り取ったという意味では、共通するトーンがあり、それは時代の空気を描き出してもいた。街では浜崎あゆみの歌が頻繁に流れていた頃だ。

 そうした時代背景もあり、このたび満を辞して映画化された『ナラタージュ』は、昨今流行しているティーンムービーとは一線を画した作風となっている。主要人物の3人は、心に醜さも持ち合わせたごく普通の男女で、禁断の恋に溺れるあまり、お互いに傷つけあう。泉にせよ、葉山にせよ、小野にせよ、決して褒められるような人格者ではないが、しかしそれは同時に我々自身の姿でもある。時には他人の不幸までも恋愛の障壁として捉え、感情の昂りへと変えてしまうのは、人の性なのかもしれない。

 タイトルの“ナラタージュ”は、映画などで過去の出来事を回想する手法のことで、実際に原作では、主人公の泉が過去を回想し、その時の出来事を今なお続く痛みとして捉えている。物語としては陳腐とも言える色恋沙汰を、優れた文学表現として成立させることができたのは、島本理生による繊細な心理描写や肉感の表現に依るところが大きいだろう。

 では、本作を映画化する場合、島本理生の文章表現に置き換わるものは何か。それは脚本であり、カメラワークであり、編集でもあるが、何よりも本作に於いては、役者陣の演技に委ねられた部分が大きいはずだ。実力、人気ともにトップレベルの役者である彼/彼女らが、本作ではそのイメージを大きく損ないかねない演技に挑戦し、言葉の裏に隠された人の心のさもしい部分や、理性では抗うことができない愛欲の発露を、その表情や立ち振る舞いで表現している。松本は無表情な中に純粋な愛情とは言い難い背徳的な感情を滲ませ、有村は上目遣いの中にあざとさを感じさせる。そして坂口は、相手を慮るかのような言動の中に、独占欲と独善にまみれた性根を覗かせる。それぞれ、これまでの役柄のイメージとは大きく異なるため、観ていて心を痛める方もいるかもしれない。

 そして、有村とふたりのラブシーン。息遣いや匂いまでもが感じられるような生々しい映像にこそ、この作品が問いかけるもののすべてが詰まっていると言っても良いかもしれない。それほど本作に於けるセックスシーンは重要であり、意味を持つものだ。果たして、傷つけ合い、騙し合い、それでも強く思い合った彼/彼女らのセックスは、その心に何を残したのだろうか。劇場でその答えに思いを巡らせてみてほしい。

■公開情報
『ナラタージュ』
10月7日(土)全国ロードショー
出演:松本潤、有村架純、坂口健太郎、大西礼芳、古舘佑太郎、神岡実希、駒木根隆介、金子大地、市川実日子、瀬戸康史
監督:行定勲 
原作:島本理生(「ナラタージュ」角川文庫刊)
脚本:堀泉杏
音楽:めいなCo.
主題歌:「ナラタージュ」adieu(ソニー・ミュージックレコーズ)/作詞・作曲:野田洋次郎
配給:東宝=アスミック・エース
(c)2017「ナラタージュ」製作委員会

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