嵐メンバー主演映画に変化の兆し? 『忍びの国』『ナラタージュ』大人客を魅了する良作続く

嵐メンバー主演映画に変化の兆し?

 嵐のファンにとっては当たり前すぎてもはや考えることさえないことかもしれないが、これまでの嵐の各メンバーのフィルモグラフィーは少々いびつである。声だけの出演などを除いたメンバー単独出演作品に限るなら、松本潤は2013年10月の『陽だまりの彼女』が、櫻井翔は2014年3月の『神様のカルテ2』が、相葉雅紀は2014年11月の『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』が、二宮和也は2015年12月の『母と暮らせば』が今のところ最新の公開作。現在、主演作品『忍びの国』がヒット中の大野智も、その前の単独出演作となると2011年11月の『映画 怪物くん』だから、実に約6年ぶりに主演映画が公開されたことになる。

 話題や観客が分散しないよう、同じ時期に複数のメンバーの出演作が公開されるのを避けてきたのは大前提として、各メンバーの主演作品の間隔が3年や4年開くのも当たり前。言うまでもなく、嵐のメンバーの「本業」は嵐としてのテレビ冠番組やコンサートツアーなどの活動であり、各メンバーの役者の仕事に関しても、これまで映画よりもどちらかというとテレビドラマの方が優先されてきたことは、それぞれの出演作品の本数からも明らかだ。

 その結果どんなことが起こったか? 例えば二宮和也は、クリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』における名演技によって世界中で注目を集めたのにもかかわらず、その後、海外に進出をするどころか、国内での役者活動においてもそれまでのペースが大きく変わることがなかった。身体が一つである以上、それは仕方のないことだし、グループとしての活動を最優先することは、嵐のファン、事務所、そして何よりも嵐のメンバー自身(自分は相葉雅紀以外の4人のメンバーと役者の仕事についての比較的長いインタビューをしたことがあるが、嵐での活動に関しては異口同音に強い思いを語っていた)が望んでいたことだった。主に役者の仕事を通じて嵐と接点を持つ自分の立場(もちろん音楽作品も聴いてますが)からすると、「もったいない!」と思うしかなかったが。

 そんな嵐のメンバーの出演映画に、今年に入ってから変化の兆しがある。現在公開中の『忍びの国』の監督は中村義洋。大野智にとって中村義洋監督は、映画の出演作品としては前作にあたる『映画 怪物くん』以来の勝手知ったる仲ということになる。あまり自分から積極的に慣れない環境に溶け込もうとはしない(あくまでも取材での発言から受けるイメージですが)大野智にとっても、作品に集中しやすい環境であったはずだ。

 しかし、同じ監督×主演タッグによる作品であるにもかかわらず、『映画 怪物くん』と『忍びの国』とでは、作品から受ける印象は大きく異なる。子供の観客でも楽しめることを念頭に置いていた『映画 怪物くん』と違って、『忍びの国』は和田竜による原作からしてかなり精密な構造を持った謀略ものの時代劇。中村義洋監督はそんな物語に真正面から取り組み、観客によっては置いてきぼりになってしまいかねないほどスピーディーかつ巧みな語り口で映像化してみせている。『白ゆき姫殺人事件』『予告犯』『残穢 -住んではいけない部屋-』と、ここ数年、シリアスな現代劇においても充実した作品を残してきた中村義洋監督の手腕が存分に発揮された、手加減なしの直球。『忍びの国』は一言で言うと、「ストーリー自体が滅法面白い快作」となっていた。

 一足早く観ることができた、今年10月公開の松本潤主演作品『ナラタージュ』の見事な仕上がりにも強い感銘を受けた。こちらの原作も大人向けの、島本理生によるベストセラー恋愛小説。監督は、コミック原作映画全盛期のこの時代にあって、敢えてコミック原作の企画を避けて大人向けの作品を作り続けてきた行定勲(『ナラタージュ』の次作となる岡崎京子原作『リバーズ・エッジ』で初めてコミック原作に挑むこととなった)。いかにも行定作品らしい、高湿度の色っぽい質感の画面で2時間20分にわたってじっくりと語られる、一人の女と二人の男の揺れ動く心とそれぞれの秘められた本性。嵐のメンバーの主演作品というと、スター映画的に主人公だけが「立った」作品をイメージする人もいると思うが、本作における松本潤は「主要キャスト3人の1人」としてのバランスを最後まで保ち、男の「カッコよさ」だけでなく「カッコ悪さ」も赤裸々に表現して、作品の高い完成度に貢献していた。

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