>  > 『堕ちる』姫乃たま×栗原裕一郎対談

アイドルへの“ガチ恋”は、なぜかくも切ない? 栗原裕一郎と姫乃たま、映画『堕ちる』を語る

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 地下アイドルの女の子に“ガチ恋”してしまった中年男性の姿を描いた村山和也監督の短編映画『堕ちる』が話題だ。寡黙な熟練の織物職人・耕平が、ふとしたきっかけでローカル地下アイドル「めめたん」にハマっていく過程が描かれる本作は、きりゅう映画祭「きりゅうシネマ2016」作品として9月10日に公開されると、現役アイドルやアイドルファンを中心に大きな反響を呼んだ。その後、Loft9 Shibuyaなどでも上映され、現在も追加上映が順次予定されている。リアルサウンド映画部では、評論家・栗原裕一郎と現役の地下アイドルとして活動中の姫乃たまによる対談を、11月5日に行われたアンコール上映の後にセッティング。映画の興奮冷めやまぬ2人が、アイドルとはなにか、ドルオタとはなにかを、熱く語り合った。

ドルオタの超“あるある”

栗原裕一郎(以下、栗原):LOFT9 Shibuyaで開催された、村山和也監督『堕ちる』の上映会と、映画評論家・柳下毅一郎さんをゲストに迎えたトークショーを観終わって、別の場所に移動してきています。いやー、チケット完売の満員で、あんなに人が入っているLOFT9は初めて見ました。

姫乃たま(以下、姫乃):今日はアイドルファンの方よりも、映画好きのお客さんが多かったですね。LOFT9はユーロスペースと同じ建物にあるので、映画のイベントは相性良いのかもしれません。

栗原:今日のイベントは実はアンコール上映で、10月30日にやはり上映+トークのイベントが2回開催されたんだけどすぐにソールドアウトになってしまって、急遽、今日の開催が追加されたようです。映画、どうでしたか?

姫乃:いやあ、なんか前半部分で号泣しちゃって。

栗原:前半? 前半は割とコミカルな展開だったと思うんだけど、どのへんで号泣?

姫乃:そうそう、私だけ泣いてて恥ずかしかったです。主人公の男性、耕平さん(中村まこと)が、ライブハウスでアイドルが歌ってる姿に衝撃を受けて、普段から彼女のことを考えて楽しそうにしたり、ファンミーティングでほかのファンと仲良くなったりしていく姿を観ていたら、涙がぼろぼろと……。地下アイドルに疎い人が見たら、そんなに都合よくアイドルにハマったり、生活が豊かになるわけないだろって思うと思うんですけど、実際のファンってあんな感じなんですよね。

栗原:そのへんがリアルだったんだ。

姫乃:逆に嘘くさくなるくらいリアルでした。私はファンに対してこれくらい希望を与えられているんだろうかとか、最近は慣れてしまった地下アイドルの魅力を改めて思い出したら、涙が。

栗原:我が身に引き寄せて。それはアイドル当事者ならではの視点だなあ。

姫乃:あとは良かったねという気持ちが。耕平さん、生活に楽しみが見つかって良かったね~~って。

栗原:耕平さんの行動は“ドルヲタあるある”な感じ?

姫乃:超“あるある”です。私のファンの人は耕平さんタイプ多いですね。アイドルファンってふたつのタイプに分かれていて、まず根っからのヲタク気質の人。私はナチュラルボーンヲタクと呼んでいるのですが、秋元康さんに搾取されまくるのが人生で2回目、3回目みたいな。

栗原:おニャン子クラブからずっと、という。

姫乃:そうですね。おニャン子好きで、チェキッ娘に行って、いまはAKB48追いかけてるとか。もうひとつのタイプが、耕平さんみたいに後天的にアイドルファンになる人です。生活に疲れていたり、何か悩んでいる時に、ふとアイドルが目に入って好きになっちゃう人って多いみたいなんです。現場に来てもアイドルTシャツになるのが恥ずかしくてジャケットを脱げない描写とか、すごくリアルで監督さんは勘がいいなと思いました。

栗原:姫乃さんの新しいTシャツもけっこうヲタク試してると思うけど(笑)。

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姫乃:そうですね、春画をモチーフにしたイラストに私の名前入りっていう(笑)。映画のヒロインめめたん(錦織めぐみ)のTシャツもファンの忠誠心を試すタイプじゃないですか。そもそも黄色だし、めめたんって書いてあるし!

栗原:大森望さんが着てるピンクの「大森(望)」みたいな(笑)。

姫乃:そうそうそう(笑)。

栗原:その大森さんが本(『50代からのアイドル入門』)に書いてたんだけど、ヲタクはそういう恥ずかしいTシャツのほうが嬉しいって。

姫乃:そうなんですよ! 忠誠心を表明できる感じがいいそうです。

栗原:耕平さん役の中村まことさんはどうでした? 無口な織物職人という役どころで、渋い人ですよね。劇団「猫のホテル」創設メンバーで、看板役者だそうです。現在53歳。劇中の耕平さんの年齢設定もたぶんだいたいそのくらいですかね。

姫乃:耕平さんの喋り下手なキャラクターはリアルでした。中村さん、すごくはまり役だったように感じます。あ、でも演技が上手な人はなんでもはまり役みたいになるのかな……。私のファンは後天的にアイドルファンになった人が多いのですが、中村さん演じる耕平さんは本当にそっくりで胸にきちゃいました。

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栗原:姫乃さんのファンの、ナチュラルボーンヲタクと後天的ヲタクの比率はどのくらい?

姫乃:うーん、うちは7、8割くらいは後天的タイプかもしれないですね。めめたんみたいに思いっきりアイドルっぽい子のファンはナチュラルボーンヲタクのほうが多いと思うので、めめたん現場にとって耕平さんは異質な存在だったと思うんですよね。そもそも最初に現場じゃなくて、実家の美容室で出会ってるのもあれですよね。ちょっと面倒くさいところです、正直。

栗原:めめたんにハマった耕平さんが、彼女のために何かしたい!と思い詰めて、衣装を作ってプレゼントする。織物職人なので自分の技能を活かして彼女に貢献しようとしたわけだけど、メジャーデビューが決まっためめたんに、その衣装を突き返されてしまう。キツいシーンだけど、めめたんの心境は謎だよね。着ないにしてもそのまま持っててもいいわけだし。

姫乃:そう言われると、『堕ちる』には、めめたんがどう思っているかというのがまったく描かれていないですよね。

栗原:視点人物が耕平さんなので。

姫乃:いまのアイドルブームもそうですけど、主役はヲタクですよね。

栗原:視点人物じゃないめめたんの内面を描かないというのはむしろ作法なんだけど、でもあれだと耕平さんが一方的にハマって勝手に傷ついて、みたいに見えちゃう。めめたんの行動として説明的な描写がもう少し欲しかった気はしますね。

姫乃:でもそれをやったら本当に長編になっちゃいますね。

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